繹史律呂通考(律呂通考)
爾雅にみる律の異名と八風
- (爾雅より)宮・商・角・徴・羽の各音には「分」「重」「敏」「経」「迭」「柳」などの古い異名があったとする。方位ごとの風の名(不周風・広莫風・条風・明庶風・清明風・景風・涼風・閶闔風)を挙げ、それぞれが陰陽の消長・万物の生成収蔵と対応づけられている。
- (爾雅より)これらの風が十二支・十二律(応鍾・黄鍾・大呂・太蔟・夾鍾・姑洗・仲呂・蕤賓・林鍾・夷則・南呂・無射)および四季の農事暦(種蒔き・開花・結実・収穫・蟄伏)と対応づけられ、各月の自然現象を通じて暦法の基礎が説かれる。
漢書にみる十二律の成り立ちと三統説
- (漢書より)十二律は陽の六律(黄鍾・太蔟・姑洗・蕤賓・夷則・無射)と陰の六呂(林鍾・南呂・応鍾・大呂・夾鍾・仲呂)からなり、黄帝が伶倫に命じて崑崙山の西の谷の竹を切らせ、鳳凰の鳴き声(雄六声・雌六声)に基づいて律の基本(黄鍾の宮)を定めたという伝説を記す。
- 黄鍾は天統、林鍾は地統、太蔟は人統とする「三統」説を述べ、易の乾坤の爻や律管の長さ(黄鍾九寸・林鍾六寸・太蔟八寸)の由来を陰陽の理論で説明する。
- 三分損益法(三分の一を減じて下生、三分の一を益して上生)により黄鍾から順に十二律が相生する順序を示す。
- 各律管の長さの異説として、史記・蔡元定『律呂新書』・周礼鄭注の数値を割注に列記する。
度量衡は黄鍾の律に基づく(漢書)
- 度(分・寸・尺・丈・引)・量(龠・合・升・斗・斛)・衡(銖・両・斤・鈞・石)はいずれも黄鍾の律管の長さと容積・重さを基準に定められたとする。黍(子穀秬黍)の粒を単位とする換算法や、量器・衡器の形状・材質(銅製)の規定も記す。
- 度量衡の理念として、天地・陰陽・四季・五行の数理と結びつけて各単位の意味を説く(例:銖は微小なものの始まり、鈞は一月の象、石は四季の象など)。
音楽の効用と歴史(史記・漢書)
- 五声(宮商角徴羽)は五行・五常・身体の各部と対応し、正しい音楽は人心を治め風俗を正すとする。雅頌の音が盛んな治世と、鄭衛の淫らな音曲が乱世を象徴することを対比し、孔子が魯に帰って音楽を正した故事を記す。
- 周室衰退後、礼楽が崩れ、桑間濮上の淫声が広まった経緯、魏文侯が古楽を好まず鄭衛の音を好んだ逸話などを載せる。
- 殷周の雅頌は后稷・公劉・大王・王季・文王・武王など歴代の徳を称える内容であったとする。
八音と楽器(漢書・爾雅ほか)
- 八音(土=塤、匏=笙、皮=鼓、竹=管、絲=絃、石=磬、金=鐘、木=柷)を易の八卦に配当する説を紹介する。
- (爾雅より)塤・笙・鼓・鞀・簫・管・籥・篪・瑟・琴・磬・鐘・柷敔などの大小の名称と用途を列挙し、割注に白虎通・風俗通・釈名・博雅による字義・形状の説明を付す。
- 天子・諸公・諸侯の佾舞の人数の違い(八佾・六佾・四佾)、四夷の楽(東夷・西夷・南夷・北夷それぞれの楽名)についても触れる。
古鐘の銘文
- 周代の鐘銘文(蛟篆鐘・遅父鐘・聘鐘・寳龢鐘・斉侯鎛鐘・秦昭和鐘・楚卭仲嬭鐘・鄦子鐘など)を原文のまま多数収録し、祖先への祭祀・子孫の繁栄祈願・国政への忠誠などを詠う内容であることを示す。
:割注では、これらの風の呼称が万物の発生・成長・収穫・貯蔵といった季節の推移を象徴する語源解釈(郭璞注等)として説明されている。 :律管の長さについては史記・蔡元定『律呂新書』・周礼鄭玄注のあいだで数値に異同があり、原文はそれぞれの分数を細かく列記している。 :楽器の字義説明は白虎通・風俗通・博雅・釈名からの引用が多く、各楽器の音の性質(清濁・陰陽)を月や気候と結びつけて解釈する説が中心となっている。