繹史天官書(天官書)
天文・星占に関する諸書の記述を集めた篇。天地の構造論から、四季・風雨雷雪などの気象、干支・暦法、二十八宿と分野、北斗七星、五星の運行と占い、彗星などの妖星、天の川に至るまでを網羅する。
天の呼称と構造
- (爾雅より)天は季節により蒼天(春)・昊天(夏)・旻天(秋)・上天(冬)と呼び分けられる。
- (淮南子より)天を九野(中央の鈞天、東方の蒼天など)に分け、それぞれに配される星宿を示す。
- (春秋元命苞・周髀算経・白虎通などより)天は円く卵形で地を包み、水に浮かぶとする説、天円地方説、天地の距離・大きさを具体的な数値(里数)で示す説などを併記する。「天は鎮なり、居高く下を理むる」との語源解釈も付す。
陰陽・四時・風の理論
- (淮南子より)天道は円く地道は方形、陽は明・気を吐き、陰は幽・気を含むとする陰陽論を展開し、風・雨・霜・雪・雷・霆などの気象現象を陰陽の消長として説明する。
- (淮南子より)虎の嘯きに谷風が応じ、龍が昇れば雲が従うなど、同類が相感応する現象(本標相応)を列挙する。
- (淮南子より)冬至・夏至における北斗の指す方角と、二十四節気ごとの風・気候の変化を、音律(黄鐘・大呂等)と対応させて詳述する。
- (春秋繁露より)春夏秋冬における陰陽の出入り・左右の巡りを図式的に説明し、聖王の治世(堯の代)や異常気象(禹の水害、湯の旱魃)は「時に遭った変」であって常道の乱れではないと論じる。
凶作と占風
- (爾雅・史記より)不作の程度による用語(飢・饉・荒・大侵)を定義し、正月朔日の八方からの風向きによってその年の豊凶・戦乱を占う「候歳」の法を詳述する。
- (師曠占より)草木の生え方(甘草・苦草など)でその年の吉凶・豊凶・疫病を占う俗信を付載する。
風・雲・雷・霧・虹・霜雪雨の名称と占い
- (爾雅・釈名・淮南子ほかより)南風(凱風)・東風(谷風)など方位別の風名、竜巻・つむじ風の名称、霧・雲・虹・蜺(副虹)などの気象語彙を整理する。
- (春秋緯書群より)虹霓・暈・珥・雷・霆・霜・雹などの異常現象が、后妃の乱れや政治の失徳の兆しとされる占験を多数収める。
干支と年月名
- (爾雅より)太歳(木星の位置による紀年法)の十干十二支それぞれの異名(閼逢・攝提格など)、夏・殷・周・唐虞における「年」の呼称の違い(歳・祀・年・載)、月の異名(陬・如・寎等)を列挙する。
星座の総論
- (漢書より)天文図籍に見える経星(恒星)は118官・783星に及び、それぞれ州国・官職・物象に配当されるとし、天文の異変は地上の政治の失を映すものと総論する。
- (史記より)北極星を中心とする紫宮(天帝の宮廷)、その周囲の三公・後宮に見立てられる星々、北斗七星が「帝車」として四方を統べ四時を分けるとする体系を説く。
二十八宿と各宮
- (史記より)東宮蒼龍(角・亢・氐・房・心・尾・箕)、南宮朱鳥(井・鬼・柳・星・張・翼・軫)、西宮白虎(奎・婁・胃・昴・畢・觜・参)、北宮玄武(斗・牛・女・虚・危・室・壁)の二十八宿を、それぞれの象徴(廟・府・獄・水事など)とともに解説する。
- (博雅・帝王世紀・漢書などより)二十八宿を十二次(星紀・玄枵・娵訾等)に配当し、各次に対応する諸国の分野(秦・斉・魏・晋等)と季節・節気を一覧化する。編者按語として、分野説には矛盾(星紀と呉越の位置不整合など)が多く「一概に論じがたい」と留保を付す。
日月の運行
- (漢書・淮南子より)日は黄道(光道)を一日一度、月はやや速く運行し、冬至・夏至・春秋分における日影の長短で寒暑を測る法(晷景)を説く。
- (淮南子より)日の出から日没までの神話的な行程(暘谷・咸池・虞淵など)を、時刻の異名(晨明・蚤食・餔時など)とともに記す。
- (白虎通・淮南子より)月の満ち欠け(朔・望・弦・晦)の由来と、日食・月食にまつわる占験(甲乙丙丁など干支別の食の吉凶)を詳述する。
雲気の占法
- (史記より)望気(雲の形・色による占い)の法を詳述する。地域ごとの雲の色の特徴(華山以南は黒赤、恒山以北は黒青等)、軍勢に応じた雲の形(騎兵の雲は低く広がる等)、慶雲(吉祥の雲)や城郭・楼閣に見える蜃気楼などを列挙する。
北斗七星
- (史記・淮南子より)北斗七星の各星の名(樞・璇・璣・権・衡・開陽・揺光)とその司る州、および「旋璣玉衡以て七政を斉う」との古典的解釈を記す。
- (淮南子より)北斗の柄が指す方角によって二十四節気が定まる(小歳・大時の理論)とし、暦法の基礎となることを説く。
紫宮・北極周辺の星群
- 文昌宮・三台(三能)・貴人の牢(監獄を象る星)・天槍天棓(武器を象る星)など、北極周辺の星々の象徴とその変異による占験を記す。
東宮・南宮・西宮・北宮の主要星の占い
- 房・心(明堂・天子の位)、大角(天王の座)、氐(天子の寝所)、尾・箕(後宮・口舌)などの東宮の星、太微垣・軒轅・東井・輿鬼・軫などの南宮の星、奎・婁・胃・昴・畢・参・觜などの西宮の星、営室・壁・危・虚などの北宮の星について、それぞれの象徴と異変時の占験を列挙する。
- 老人星(南極老人)は「見えれば治安、見えねば兵起こる」として、秋分の頃に南郊で観測する慣わしを記す。
五星の運行と占験(歳星=木星)
- (史記より)歳星(木星)は12年で天を一周し、その年ごとの出現位置・名称(監徳・降入・青章など)と、豊凶・戦乱の占験を詳述する。彗星・天棓・天欃・天槍など、歳星に伴って現れるとされる妖星の形状も記す。
熒惑(火星)
- (史記より)熒惑(火星)は「乱・賊・疾・喪・饑・兵」を司るとされ、その運行の遅速・留まる位置によって戦乱・災異を占う。太微・軒轅・営室を犯せば凶とする。
填星(土星)
- (史記より)填星(土星)は中央土行を司り、28年で天を一周する。その居所の得失により土地の得喪・水害等を占う。
太白(金星)
- (史記より)太白(金星)は西方・秋・兵を司り、その出没の時刻・方位・色・形(角の動き、留まる期間など)から、戦の勝敗・国の吉凶を細かく占う法を詳述する。
辰星(水星)
- (史記より)辰星(水星)は北方・冬・刑を司り、四季ごとに出現すべき方位が定められ、時期を外れれば飢饉・兵乱の兆しとされる。
五星の合・妖星・天変
- (史記・漢書より)五星が相合する(内乱・喪・改立の兆)、色による吉凶(白は喪、赤は兵、黒は疾等)、国皇星・昭明星・五残星・賊星・天狗・格澤星・蚩尤の旗・枉矢・長庚・景星(徳星)など、多様な妖星・瑞星の形状と意味を列挙する。
星気・彗星の名称
- (爾雅・博雅より)彗星(欃槍)、流星(彴約)などの名称を整理し、吉祥の気(昌光・景星等)、妖しい気(天狗・枉矢等)、常の気(朝霞・列缺等)、山川鬼神を象る異祥(山神=离、河伯=馮夷等)を分類する。
太史公の総論
- (史記より)司馬遷は、天文占験の伝統が黄帝以来、羲和・巫咸・甘公・石申らによって受け継がれてきたと述べ、「三十年で小変、百年で中変、五百年で大変」という天運の周期説を紹介する。
- 春秋時代以来の日食・彗星・隕石の記録数を挙げ、秦の統一直前に彗星が四度現れ、うち一度は80日にわたり天を横切ったことなどを、その後の兵乱の予兆として記す。
- 五官(紫宮・房心・権衡・咸池・虚危)と五星(水火金木填星)を天の「経」「緯」に喩え、天変を過度に恐れるのではなく、徳を修めることこそ根本であるとして締めくくる。
附録・渾天図と暦法の注記
- 巻末には渾天説に基づく南北両半球の星図、二十八宿の分野に関する編者の疑義(星紀と呉越の位置の不整合など)、閏月を置く暦法の原理(十九年七閏の法)、黄道・赤道・月の九道(陰暦陽暦、青道・白道・朱道・黒道)に関する図解説明が付されている(原文は図版であり、文字部分の要旨のみ記す)。