繹史秦の滅亡(秦亡)

始皇の死から秦の滅亡までの経緯――趙高の陰謀、蒙恬兄弟の死、李斯の刑死、陳勝呉広の蜂起、二世・子嬰の最期、そして賈誼『過秦論』による総括――を記す。

沙丘の陰謀(史記より)

  • 始皇の信任厚い蒙恬・蒙毅兄弟の来歴を述べた後、始皇が沙丘で病没した際、中車府令・趙高が璽書を握りつぶし、末子・胡亥、丞相・李斯を巻き込んで謀議を行う。
  • 趙高は「湯武は主を殺しても義と称えられた」等の詭弁を重ね、胡亥に長子扶蘇を廃して自ら即位するよう説く。李斯も当初は拒むが、趙高の脅しと利害の説得に屈し、共謀に加わる。
  • 偽の詔書により扶蘇・蒙恬に死を賜る。扶蘇は疑わずに自殺するが、蒙恬は「請うて確かめてから死ぬべき」と抵抗し、投獄される。

胡亥の即位と蒙氏の粛清(史記より)

  • 死骸の腐臭をごまかすため塩漬け魚を積んで発喪を遅らせ、咸陽で二世皇帝として即位。
  • 子嬰の諫言(趙王遷・燕王喜・斉王建の亡国の例を引く)も容れられず、蒙毅は誅殺、蒙恬も「臨洮から遼東まで長城を築き地脈を絶った罪」と自らを納得させつつ服毒自殺する。

趙高の専横と大粛清(史記より)

  • 趙高は二世に「厳法刻刑によって旧臣・皇族を除くべき」と献策し、二世はこれに従って公子・公主を次々に処刑(十二公子を市に晒し、十公主を裂殺)。
  • 阿房宮の再開、四夷への外征継続など、始皇の政策をさらに苛烈化させる。

李斯の変節と督責の書(史記より)

  • 李斯は二世を諫めようとするが機会を得られず、逆に趙高に唆されて「督責の術」(申・韓の厳格な統治術を極端化した理論)を上奏し、二世に迎合する。
  • 「督責を誠にすれば天下安く、君主は高枕にして寵楽す」との主張は、実質的に二世の暴政を正当化する結果となる。

陳勝・呉広の蜂起(史記より)

  • 二世元年七月、戍卒として徴発された陳勝・呉広が、期日遅延による処刑を恐れ「王侯将相いずくんぞ種あらんや」と蜂起し、張楚国を立てる。
  • 各地の郡県が呼応し、武臣(趙王)・韓広(燕王)・魏咎(魏王)・田儋(斉王)などが次々に自立する。
  • 陳勝は次第に驕り、旧知の者を遠ざけ、朱房・胡武ら側近の讒言を重用したため人心を失い、御者・荘賈に殺される。

諸将の興亡(史記より)

  • 周文の秦への進撃と敗死、武臣の趙王擁立とその粛清、章邯の秦軍による各地の鎮圧などを記す。
  • 項梁が楚王の孫・心(懐王)を立てるに至り、陳勝の残した勢力が楚の旗の下に再編される。

趙高による粛清の深化(史記より)

  • 二世が「鹿を指して馬となす」逸話(指鹿為馬)で群臣の忠誠を試し、逆らう者を法で陥れる。

巨鹿の戦いと章邯の降伏(史記より)

  • 王離の秦軍が巨鹿で項羽に大敗し降伏。章邯も趙高の専横を恐れて項羽に降る。

望夷宮の変(史記より)

  • 趙高は二世からの叱責を恐れ、娘婿・閻楽と共謀してクーデターを起こし、望夷宮で二世を自殺に追い込む。
  • 趙高は始皇の弟(一説に子嬰の父)を秦王に立てるが、璽を帯びる段になり天も群臣も許さぬ様子を悟る。

子嬰の即位と趙高誅殺(史記より)

  • 子嬰は趙高の陰謀(廟見の際の暗殺計画)を見抜き、先手を打って斎宮で趙高を刺殺、三族を誅する(拾遺記に子嬰の夢占いの異伝あり)。

秦の滅亡(史記より)

  • 子嬰は王位47日で、沛公(劉邦)に降伏。組(喪服の紐)を首にかけ白馬素車で軹道に降る。
  • 後に項羽が入関して子嬰と秦の宗族を殺し、咸陽を焼き払う。秦の地は雍・塞・翟の三秦に分割される。

李斯の刑死(史記より)

  • 趙高の讒言により、李斯は謀反の疑いをかけられ拷問の末に自白を強いられる。獄中で上書し自らの功績七箇条を訴えるが握りつぶされる。
  • 咸陽の市で腰斬・夷三族に処される直前、子に「もう一度お前と黄犬を連れて故郷の兎狩りに行きたかった」と語った哀話を記す。

賈誼『過秦論』(新書より)

  • 秦の孝公から始皇に至る強大化の過程と、陳渉のような一介の匹夫の蜂起によって瞬く間に滅んだ落差を対比し、「仁義を施さずして攻守の勢異なればなり」と結論づける(上篇=始皇論)。
  • 二世が「庸主の行い」すら取らず、暴政を重ねて人心を失った経緯を論じる(中篇=二世論)。
  • 子嬰が「中佐の材」すらあれば秦の地を保てたはずが、三代にわたる過ちの蓄積により為す術がなかったと総括する(下篇=子嬰論)。
  • 「前事の忘れざるは後事の師なり」との格言で結び、安危の理を後世が汲むべきことを説く。

淮南子・法言による総括

  • 淮南子は、二世の奢侈と重税が陳勝蜂起の直接の原因であったと述べる。
  • 揚雄『法言』は、秦の滅亡が天意によるものか人事によるものかを問答形式で論じ、「天も人も因あって然り」との立場を示す。