隋唐演義第八十九回 唐の明皇は夢の中で鬼を見て、雷万春は都下で兄を尋ねる (唐明皇夢中見鬼  雷萬春都下尋兄)

親征取りやめの顛末

(詞:人が衰えれば鬼にすら弄ばれるとし、貌形の転変と、忠義の兄弟の対照的な運命を詠む)

東京陥落の報に玄宗は親征と太子への監国移譲を決意するが、これを知った楊国忠は太子にかねてより恨まれていることを恐れ、韓国・虢国夫人を通じて楊貴妃に泣きつく。楊貴妃は簪を外し口に土を含んで玄宗に哀訴し、親征と譲位を思いとどまらせた。太子自身も監国辞退と将帥派遣を願い出て、結局、皇子栄王琬を元帥、高仙芝を副将として出征させることとなった。

玄宗の悪夢と鍾馗の由来

安堵した玄宗と楊貴妃はその夜、揃って悪夢を見る。玄宗の夢には鬼が現れ楊貴妃の笛を吹いて戯れ、鏡に映る自分は女、楊貴妃らしき人物は男に見えるという奇怪な内容で、最後に鍾馗と名乗る神が現れ鬼を退治する。楊貴妃も同様の鬼の夢を見ており、二人はこれを語り合った(作中では、楊貴妃は隋煬帝の、玄宗は貴児の生まれ変わりであり、夢に本来の姿が現れたのだと説明される)。翌日、給事中王維の証言により終南山の不遇の進士・鍾馗の故事が確認され、玄宗は呉道子に鍾馗の像を描かせ、以後、鍾馗の絵が魔除けとして用いられる由来となった。

秦氏兄弟の復職と南霽雲・雷万春の結義

玄宗はかつて安禄山を諫めて退けられた秦国模・秦国楨兄弟を思い出し、復職させる。二人が謹慎中の折、旧知の南霽雲が訪れ、名将張巡・許遠を頼ろうとしていることを語る。反乱の報にちなみ、二人は義憤に燃える。南霽雲は張巡の任地への訪問がかなわなかったが、秦邸の前で雷万春と出会う。雷万春は梨園の楽人である兄・雷海清を訪ねに来ており、南霽雲と意気投合して義兄弟の契りを結ぶ。雷海清は弟に「自分は伶人の身でも忠義を尽くす、お前は張巡の下で国に報いよ」と諭し、二人は感涙にむせびながら旅立つ。まもなく秦氏兄弟にも復職の沙汰が下る。