高后の死
- 春、中謁者の張釈卿を列侯に封じた。中宦者の令・丞にはみな関内侯の爵と食邑を賜った。
- 高后は蒼い犬のようなものが脇腹を突く夢を見たが、それはふっと消えた。占わせると趙王如意の祟りだと出た。ついに脇腹を病んだ。
- 夏、江水と漢水が溢れて一万余家、河内で水が溢れて一万家が流された。
- 秋九月辛巳、高后が未央宮で崩じた。
諸呂の誅滅
- 諸呂は大臣に誅されるのを恐れ、乱を起こして少帝を廃し呂産を立てようと謀った。朱虚侯の妻は呂禄の娘で、ひそかにその謀を聞いて章に告げた。章は人をやって兄の斉王襄にひそかに知らせ、兵を発して西へ向かわせた。章と興居は都で大臣と内応し、諸呂を誅して斉王を立てようとした。
- 斉王は人をやって琅邪王を誘い、二国の兵を挙げさせようとした。琅邪王が到着すると引き留め、琅邪の兵をことごとく徴発し、中尉の魏勃を将軍としてこれを併せ率いた。
- 呂産らは大将軍の灌嬰を派遣して斉王を撃たせたが、灌嬰はひそかに斉王と約束し、兵を留めて滎陽に駐屯した。
- 曲周侯酈商の子の寄は呂禄と親しかった。周勃と陳平は人をやって酈商を捕らえて脅し、寄に呂禄を説かせた。「高帝と呂后が天下を定めて以来、劉氏の立てた王が九人、呂氏の立てた王が三人、いずれも大臣の合議によるもので、すでに諸侯王に布告され、諸侯王も当然としている。今、太后が崩じ少帝は幼い。あなたは急いで国へ行って藩屏を守らず、上将軍として兵を握っている。だから大臣や諸侯に疑われるのだ。早く将軍の印綬を返して兵を太尉に属させ、梁王にも相の印を返させ、大臣と盟を結んで国へ行きなさい。枕を高くして千里の王でいられる。万世の利だ」。
- 呂禄はもっともと思い、その計を呂産や諸呂に伝えたが、多くは不都合だとして計は決しなかった。呂禄は酈寄を信じてともに出かけ、叔母の呂嬃のもとに立ち寄った。呂嬃は怒って「おまえは将軍でありながら軍を棄てるのか。呂氏はもう根絶やしだ」と言い、珠玉や宝器をことごとく取り出して堂の下にばらまき、「他人のために守ることはない」と言った。
- 八月、太尉の周勃はまた酈寄に「帝は太尉に北軍を守らせ、あなたを国へ行かせようとしている。急ぎ将軍の印綬を返して辞去せよ。さもなければ禍が起こる」と言わせた。呂禄はついに印を解いて典客に渡し、兵を周勃に授けた。
- 周勃は軍門に入り、軍中に「呂氏に味方する者は右肌を脱げ、劉氏に味方する者は左肌を脱げ」と令すると、軍はみな左肌を脱いだ。周勃はこうして北軍の兵を統べた。朱虚侯は千人を率いて未央宮に入り、呂産を斬った。辛酉、呂禄を斬り、諸呂は老幼を問わずみな斬った。
代王の擁立
- 大臣は、少帝および諸王はみな恵帝の子ではないとして、ことごとく誅して斉王を立てようと謀った。議する者が「斉王は乱暴で、虎の冠をかぶるような輩が付いている。代王の母方の薄氏は君子である。かつ代王は高帝の実子で今では最年長、仁孝は天下に聞こえている。子としての順序からも、賢という点からも、大臣は安泰だ」と言った。そこで代王を迎えた。
- 東牟侯の興居は太僕の夏侯嬰とひそかに宮中に入り、少帝を誅した。そして斉王に告げて兵を罷めさせた。
陸賈の隠退と余聞
- 諸呂が王になり始めたころ、呂后は大臣と弁の立つ者を恐れた。太中大夫の陸賈は自分では争えぬと見て病と称して免ぜられた。そこで越へ使いしたときの旅嚢の資千金を五人の子に二百斤ずつ分け与えて生業とさせた。
- 陸賈は常に四頭立ての安車に乗り、歌い瑟を弾く侍者十人を従え、百金の値の宝剣を帯びていた。子らと「おまえたちの家に立ち寄ったら人馬に酒食を出せ。十日思う存分楽しむ。わしが死んだ家が宝剣を取ってよい」と約し、一年のうちの往来はどの家も二、三度を超えなかった。漢の朝廷の公卿の間を遊歴し、名声はきわめて高かった。呂氏を誅して孝文帝を立てるにあたり、陸賈の力は少なくなかった。
- 「本伝」に、孝文のとき天下は酈寄を友を売った者と評した、とある。友を売るとは、利を見て義を忘れることをいう。だが酈寄の場合、父は功臣でありながら捕らえられ脅されていた。やむを得ず呂禄を売って社稷を安んじたのであり、君と親に対する義は保たれている。それでよいのである。
- 淮南の丞相であった張蒼が御史大夫となった。
史論(讃曰)
- 本紀に、孝恵・高后の時代、海内は戦争の苦しみを離れることができ、君臣ともに無為であったとある。恵帝は手をこまぬき、高后は女主として政を執り、房のうちを出ずして天下は安らかで、刑罰はまれにしか用いられず、民は農事に励み、衣食は豊かになった。
- しかし恵まれるうちに諸呂の専横が度を越し、しだいに勝手放題となり、殺戮と鴆毒が豪強のもとから生じた。朱虚侯と周勃・陳平が社稷の重きを思い、山河の誓いを顧みて簒逆を討ち滅ぼし、漢の祚を救い正した。忠でなくて何であろう。王陵らの清く潔い心は、丹青の色よりも鮮やかである。