揚州十日記四月廿八

  • 要旨: 四月二十八日、著者夫婦は身重の妻を守りながら幾度も略奪兵に襲われ、心中未遂まで起こすが死に切れず、藁の中に隠れて危機を脱する。夕刻、比較的温情のある「紅衣の人」に助けられ、数日ぶりに食事にありつく。

伯兄との別離

  • 二十八日、著者は伯兄に「今日は誰が死ぬか分からない。兄上はどうか無事でいて、彭児の命をつないでほしい」と告げた。兄は涙を流して励まし、別れて別の場所へ逃れた。

洪おばあさんの犠牲

  • 洪おばあさんは著者の妻に「私は昨日柜(ひつ)の中に隠れて一日無事だった。今日は代わろう」と申し出たが、妻は頑なに断り、棺の後ろに隠れ続けた。
  • まもなく数人の兵が来て柜を破り、洪おばあさんを連れ去った。激しく打たれても、彼女は誰の居場所も白状しなかった。著者はこれに深く感謝した。

度重なる略奪兵の襲来

  • 兵の数はさらに増え、著者一家の隠れ場所の前後まで迫った。中には棺を見て引き返す者もいた。
  • 突然十数人の兵が凶悪な様子で押し寄せ、一人が棺の前まで来て長い竿で著者の足を突いた。著者が驚いて出ると、それは清軍の道案内をしている揚州人であった。顔は見覚えがあったが名は思い出せなかった。著者が哀願すると、その者は金を要求し、金を渡すとようやく解放したが、「お前の妻は運が良かったな」と言い残し、他の兵たちにも「もうやめておけ」と告げて去らせた。
  • 息をつく間もなく、今度は紅い衣を着た若い兵が長刀を構えて迫ってきた。金を差し出すと、次に妻を要求した。妻は臨月に近い九か月の身重であったが、地に伏して死んだふりをした。著者は「妻は身重で、昨日屋根から落ちて流産し、とても生きられないので起き上がれない」と偽った。
  • 紅衣の兵は信じず、腹を開いて確かめようとしたが、あらかじめ塗っておいた血で汚れた袴を見てようやく引き下がった。この兵は代わりに、若い女、幼い娘、幼子を連れ去った。幼子が母を求めて泣くと、兵は怒って一撃で頭を砕いて殺し、女と娘を連れて去った。

心中の未遂と藁への潜伏

  • 著者は「この場所はもう兵に知られている、安全な場所へ移らねば」と考えたが、妻は自害を強く望み、著者も途方に暮れて二人で首を吊った。しかし首の縄が同時に切れ、二人はもろとも地面に落ちた。
  • 起き上がる間もなく兵が門になだれ込み、堂の上まで進んだが、両側の廊下までは調べなかった。著者と妻は門外へ逃げ、まず草小屋に駆け込んだが、そこは村の婦女ばかりで妻だけを残し著者は追い出された。
  • 著者は南側の草小屋へ走り込み、積み上げられた藁の頂上に登って身を伏せ、さらに乱れた藁で自分を覆い、これで安全だと思った。まもなく兵が来て藁の山に跳び乗り、長矛で下を突いた。著者は藁の間から出て命乞いをし、また金を差し出して免れた。兵は藁の中を捜索し、他にも数人を見つけたが、彼らも金を差し出して助かった。
  • 兵が去った後、数人が再び藁の中へ入った。著者はその中に方形の卓が数台あり、周囲を藁で囲われた空洞があるのを見つけ、二、三十人が入れる広さだと気づいた。著者は無理に潜り込んだが、崩れた土塀の半ばから穴が開いてしまい、外から丸見えになり、兵がその穴から長矛を突き入れてきた。前にいた者は皆大きな傷を負い、著者も腿を傷つけられた。穴に近い者は隙間から膝をついて這い出し、皆兵に捕らえられた。後ろにいた者は逆向きに藁を掻き分けて脱出した。

妻との再会と決死の隠蔽

  • 著者は妻のもとへ戻った。妻は他の婦女たちとともに積み薪の上に身を伏せ、血を体に塗り、糞を髪に塗り込み、灰で顔を汚し、鬼のような姿で互いを声だけで見分けていた。
  • 著者は婦女たちに頼んで藁の底に入れてもらい、彼女らに覆いかぶさられて息を殺した。窒息しそうになったところ、妻が竹筒を渡し、その先を口にくわえさせ、もう一方の端を上に出して息を通し、なんとか死を免れた。
  • 戸の外では兵が一度に二人を殺すという凄惨な出来事もあったが、筆に尽くせない。藁の上の婦女たちは皆震え上がっていた。突然大きな悲鳴が上がり、兵が室内に入ったが、大股で通り過ぎ振り返らなかった。日が暮れると婦女たちは起き上がり、著者もようやく藁の中から出た。全身汗みずくであった。

「紅衣の人」の温情

  • 夕方、著者夫婦は再び洪家に戻った。洪の老夫婦もそこにいた。伯兄も戻り、この日、荷物を担がされて千文の駄賃をもらい、令旗を持たされて解放されたという。途中、死体の山と血の川を見たと語った。
  • 王という姓の将官が昭陽の李家に居を構え、数万の金銭を出して難民に日々施しを与え、配下の殺戮を止めることが多く、多くの命を救っているという噂も聞いた。この夜は悲しみの涙にくれながら、ようやく眠りに落ちた。