東周列國志第五十二回 公子宋が黿の羹を巡り謀反を構え、陳霊公が朝廷で戯れ辱める (公子宋嘗黿搆逆 陳靈公衵服戲朝)
食指の予兆と染指の故事
- 鄭の貴戚の卿である公子宋(子公)と公子帰生(子家)が入朝する途中、公子宋の食指が動く。公子宋は「食指が動く時は必ず珍味に与れる」と語り笑い合う。
- 果たしてこの日、漢江から献上された大きな黿(すっぽん)を鄭霊公が諸大夫に振る舞うこととなり、二人は符合に笑う。
- 霊公は座興として公子宋にだけわざと羹を分け与えず、食指の験を試そうとする。恥をかかされた公子宋は霊公の前に進み出て指を鼎に浸けて肉をすくい取り、「もう味わった」と言い放って立ち去る(「染指」の故事)。霊公は激怒する。
鄭霊公弑逆
- 公子帰生は公子宋に謝罪するよう説くが、公子宋は逆に「先に無礼をしたのは君の方だ」と反発し、報復を恐れて帰生に共謀を持ちかける。帰生は初め拒むが、公子宋に脅され、また己が公子去疾と親しいことを流言され立場を追い込まれて黙認する。
- 公子宋は秋の斎戒の夜、賄賂で霊公の側近を買収し、土嚢で霊公を圧殺し急死と偽らせる。帰生は事実を知りながら口をつぐむ。
襄公の即位
- 帰生と公子宋は公子去疾(子良)を立てようとするが、去疾は序列に従い兄の公子堅(襄公)を立てるべきと固辞し、堅が即位する。
- 襄公は弟たちの勢力を恐れ去疾一人を残し他を追放しようとするが、去疾は兄弟を切り捨てれば国の根本が傷つくと諫め、自らも共に去る覚悟を示す。襄公は感じ入り、十一人の弟すべてを大夫として国政に参与させる。
楚・晋の間で揺れる鄭
- 楚荘王は鄭に弑逆の罪を問うて出兵するが、晋の救援もあって一進一退が続く。鄭は晋と盟を結ぶが、楚は繰り返し鄭を攻める。
- 公子去疾は晋の勝利を偶然と見抜き、いずれ楚の報復があると予見する。果たして楚が再び侵攻する中、帰生が病没すると、去疾はかねての黿の一件を理由に公子宋を誅殺しその屍を晒し、帰生の一族も追放する。楚に使いを送り、逆臣二人を誅したことを告げ和を求めた。
- (詩:東周以来の弑逆が相次いだことを詠む内容)
陳霊公と夏姫
- 陳霊公(諱平国)は軽佻放埒な性で、大夫孔寧・儀行父の二人を寵愛し、三人して酒色に耽り国政を顧みない。忠臣泄冶は敢言の士として恐れられていた。
- 大夫夏御叔の妻夏姫は絶世の美貌に加え、若くして異人から授かったという「採陽補陰」の秘術に通じ、老いを知らぬ容色を保っていた。夫の死後、子の徴舒を城内に残し株林に隠棲する。
- 孔寧と儀行父はそれぞれ夏姫の侍女荷華を介して夏姫と通じ、互いに下着(錦襠・碧羅襦)を贈り物として得て誇示し合う仲となる。
- (詩:鄭風の淫風になぞらえ、この密通を風刺する内容)
陳霊公も株林に通う
- 夏姫との関係に妬心を抱いた孔寧は、逆に霊公にも夏姫を薦め、株林への微行を仲立ちする。霊公は荷華の手引きで夏姫と契り、証として下着(汗衫)を得る。
- 事情を知った孔寧・儀行父は互いを咎めつつも黙認し、以後三人はそれぞれ株林に通うようになる。
朝堂での醜聞露呈
- ある日の朝、霊公は孔寧・儀行父に夏姫との仲を明かされ、逆に三人が互いに得た下着を見せ合い、卑猥な戯言で笑い合う醜態を演じる。
- この様子が朝門の外に伝わり、これを聞いた一人の正直な臣が激怒し、法紀の乱れを嘆いて朝門へ引き返す場面で本回は終わる。