樵史通俗演義第一回 幼君の親政、奸宦は奉聖夫人と密謀す (幼君初政望太平 奸璫密謀通奉聖)
冒頭の論
- 国家の治乱興亡は天命だけによるのではなく、君主が賢臣を用いるか否かで決まる、という語り手の総論から始まる。
明末の繁栄と神宗の治世
- 明は洪武帝が南京に、永楽帝が北京に都を定めて以来太平が続き、万暦帝の代も物価は安く庶民は豊かに暮らしていた。
- 神宗(万暦帝)は張居正・申時行・王錫爵ら有能な閣老を用いて世を治め、人々に慕われた。
泰昌帝の急死と天啓帝の即位
- 泰昌帝は即位間もなく急死し、鄭貴妃が福王を立てようとして毒を仕込んだとの噂が流れる。侍医の崔文昇・李可灼も疑われた。
- 天啓帝が十六歳で即位。給事中の惠世揚は方閣老(方従哲)が鄭貴妃に阿り、太監劉遜・李進忠と結び選侍の乾清宮占拠を助け、崔文昇を庇い李可灼に恩賞を与えたことを弾劾する上奏を行う。天啓帝は方閣老を処罰しないが惠世揚を慰撫し、言路は塞がなかった。
移宮・紅丸問題と魏忠賢の台頭
- 御史方震孺は三案(挺撃・紅丸・移宮)の背景を論じ、宮中の乱れを正すよう上奏。実は既に魏進忠(魏忠賢)が力を伸ばし、名太監王安を密かに殺害していたことを暗に指す内容だった。
- 天啓帝は乳母の客氏に溺れ、奉聖夫人に封じて寵愛する。世間はこれを危ぶんだが、閣老韓爌・劉一燝が取り成し、方震孺の上奏は穏当に処理された。
- 楊漣も移宮の経緯を上奏し天啓帝に称賛されるが、その後身の危険を感じ辞職を願い出て、慰留されないまま帰郷を許される。朝廷内に不穏な空気が広がる。
遼東の敗戦
- 経略の袁応泰は前任の熊廷弼の厳格な方針を改め寛容策を取り、降兵を無条件に受け入れたため沈陽・遼陽が相次いで陥落。諸将の尤世功・陳策・賀世賢らが戦死。
- 袁応泰は巡按張銓らと共に殉死を選び自刎、何廷魁は妻妾を井戸に投げ入れ自らも投身。張銓も殺害される。
- 朝廷は死節者を追贈・追謚するが、責任追及は曖昧なまま終わる。
客氏と魏忠賢の結託
- 天啓帝の立后・立妃を機に、客氏は嫉妬して駄々をこね、天啓帝はますます彼女を厚遇する。
- 給事中の朱欽相・倪思輝が客氏の宮外での専横を弾劾するが、天啓帝は二人を降格・左遷。御史王心一が漢文帝の故事を引いて二人を弁護する上奏を行うが、天啓帝は激怒しむしろ王心一を降格処分にする。
- これを機に客氏の権威はますます強まり、魏忠賢の腹心が客氏との結託を勧める。冬至の日、魏忠賢は客氏を私邸の宴に招き、贅を尽くしたもてなしと美童を用意して歓心を買い、二人はその夜同衾するに至る。以後、魏忠賢と客氏は宮中と宮外で連携し合い、官員の進退を意のままに操るようになる。
評語
- 末尾に付された詩は、これから語られる魏忠賢・客氏の禍が国を傾けた史実を、後世の戒めとして記す旨を述べている。