三國志卷五十二 吳書七 諸葛瑾

諸葛瑾は字を子瑜といい、琅邪陽都の人(?–241年)。諸葛亮の兄。漢末に江東へ避難し、孫権に見出されて仕え、蜀への使者や取次役として和睦・調停に手腕を発揮した。温厚な人柄で権の信頼が厚く、左将軍・大将軍・左都護に至った。子の諸葛恪の行く末を常に案じていた。

年表(3件)

出自と孫権への出仕

  • 諸葛瑾は字を子瑜といい、琅邪陽都の人。もとは葛氏であったが陽都に既に葛姓がいたため「諸葛」と呼ばれるようになったという(『風俗通』には別の由来説もある)。京師に遊学し『毛詩』『尚書』『左氏春秋』を修め、母の喪に至孝を尽くし継母にも恭謹に仕えた。
  • 漢末に江東へ避難し、孫策の死後、孫権の姉婿である曲阿の弘咨に見出されて権に推挙され、魯粛らとともに賓客として遇された。権の長史から中司馬に転じた。建安二十年(215年)、権の使者として蜀に赴き劉備との友好を通じ、弟の諸葛亮とともに公の場では会見しても私的には会わなかった。

取次役としての手腕

  • 権への諫言は決して声を荒げず、それとなく含みを持たせて意向を伝え、通じなければ話題を変えて改めて別の機会を作った。呉郡太守朱治は権の元来の推挙者であったが、権が朱治に不満を持ちながらも敬意ゆえに直接責められず苛立っていた際、瑾はその機微を察し、権の前で物事の道理を論じる書を認め、自分の心情を代弁させて権の心を解いた。また権が校尉殷模の罪を厳しく問おうとした際、瑾だけが沈黙していたのを問われると、瑾は自らも故郷を失い流離した身であり殷模の恩知らずを恥じて何も言えないと答え、権はこれに感じ入って殷模を赦した。

軍功と評価

  • 後に関羽討伐に従い宣城侯に封じられ、綏南将軍として呂蒙に代わり南郡太守として公安に駐屯した。劉備が呉に東征した際、瑾は劉備に書を送り「関羽の親疎と荊州の大小、どちらを重んじるべきか熟慮されよ」と和睦を説いたが、裴松之はこの書について、備と関羽は一体同然であり瑾の言辞では動かせず徒労であったと評している。この頃、瑾が密かに劉備側に通じているとの讒言があったが、権は「私と子瑜には生死を違えぬ誓いがある、子瑜が私を裏切らぬのは私が子瑜を裏切らぬのと同じだ」と信頼を表明した。『江表伝』は権が瑾に宛てた書で、蜀の使者として来た諸葛亮を引き留めなかった瑾の忠節を称賛したことを伝える。
  • 黄武元年(222年)、左将軍に遷り公安を督し仮節・宛陵侯となった。曹真・夏侯尚らが江陵の朱然を囲んだ際、瑾は大兵で救援に赴いたが持久戦で決着がつかず権の不満を招いたものの、春の増水を機に浮橋を攻め曹真らを退けた。
  • 虞翻が直言のため流罪となった際、瑾はたびたび擁護に努めた。瑾は容貌に威厳と度量を備え、権にも重んじられ大事を諮問された。権は瑾への書簡で、陸遜の報告を受けた魏の曹丕死後の情勢分析を語り、魏の後継体制は自らの威柄で人材を統御できず乱れに向かうとの見立てを詳しく述べている。裴松之はこの分析が魏明帝の治世には当てはまらなかったが、後の斉王曹芳の代には的中したと評している。
  • 権が帝位に即くと大将軍・左都護・領豫州牧を拝命した。呂壱誅殺の際にも権から瑾らへの詔があり(詳細は権伝に見える)、瑾はその都度道理に適った返答をした。子の諸葛恪は当代随一の名声を得たが、瑾はかえってこれを危惧し、恪が家を保てぬ子ではないかと常に憂えていた。『呉書』は、瑾が大将軍、弟の諸葛亮が蜀の丞相、子の恪・融が軍を率い、族弟の諸葛誕も魏で名を挙げ一門が三国に跨る栄達を得たこと、瑾の徳行が純朴で妻の死後も後妻を娶らず愛妾に子を産ませても育てなかった慎み深さを伝える。赤烏四年(241年)、六十八歳で没し、質素な葬儀を遺命した。

諸葛融(諸葛瑾の子)――奢侈と最期

  • 兄の諸葛恪が既に侯に封じられていたため、弟の諸葛融が瑾の爵を襲い、公安に兵を駐めた。『呉書』は融が寵貴の家に生まれ驕奢を好み学問は広く浅かったこと、騎都尉から新都都尉陳表・呉郡都尉顧承の跡を継いで屯田を統率し、後に父瑾の軍を代領したことを伝える。
  • 部曲の吏士に慕われ、辺境無事の折には狩猟や講武、賓客を招いての宴を催し、遠方から訪れる者も絶えなかった。宴では賓客の技能を披露させ博打や投壺で興じ、美食佳酒を楽しみながら一日中飽きることがなかった。父兄が質素であったのに対し融だけは錦の織物で奢侈を極めた。
  • 孫権の死後、奮威将軍に転じた。諸葛恪の淮南征討に際し節を仮され沔水方面から西の魏軍を攻めるよう命じられたが、恪が誅殺されると、無難督施寛が施績・孫壱・全熙らとともに融を討伐に来た。融は狼狽して決断できぬまま城を囲まれ、毒を仰いで死に、三子とも処刑された。『江表伝』は、事前に公安で霊亀が鳴くという童謡が流行り、恪の誅殺後に融が金印の亀を刮り取って服毒したという逸話を伝える。