明季北略元旦異雪 思宗 崇禎五年壬申 1632年

元旦の異雪

  • 元日、雪が十日にわたり積もり四、五尺の厚さに達した。軒先や楼閣に、巨人の顔や人馬が駆けた跡のような形が現れ、識者は兵乱の兆しと占った(地方記録より)。

賊、陝西・山西を流転す

  • 正月一日、大風で砂塵が舞う中、延綏の賊が米商人を装って宜君県を陥し、保安・合水も落とした。山西に流入した賊は蒲州・永寧を陥落させ各地を略奪。山西巡按羅世錦は陝西側の責任として非難し、給事中裴君錫も陝西に賊を押し戻すよう主張したが、著者はこれを近隣に厄災を押し付けるだけの愚論と痛烈に批判している。

洪承疇・曹文詔、賊を破る

  • 正月、洪承疇・曹文詔が槐安堡で賊を撃破。郝臨庵・可天飛らの軍を打ち破り、可天飛を斬った。曹文詔は勇猛で戦上手、洪承疇は兵士と苦楽を共にし信望を集め、四年間で三万級を斬るなど西方の賊はようやく小康を得たが、官軍も疲弊は甚だしかった。

西澳の大勝

  • 正月、寧塞・環慶の賊が鎮原の蒲河に集結し平原方面への侵攻を図ったが、巡撫練国事・総兵董誌義が要害を固めて阻止。洪承疇・曹文詔・賀虎臣の諸軍が西澳で合流し賊を大破、千余級を斬った。著者はこれを用兵以来の第一の勝利と評している。

馬鳴世、三秦の情勢を論ず

  • 正月、陝西の馬鳴世は、延安・慶陽・榆林が関中の屏藩であることを説き、朝廷が延安・慶陽の危機を全国の安危として捉えず、流賊を単なる飢民として軽視してきたことが事態を悪化させたと批判。抜本的な増兵・軍餉措置を求めた。著者は、十年後に李自成が三秦を制し天下がこれに続いたことを踏まえ、この予見の的中を評価している。

高迎祥ら諸賊の活動

  • 二月、賊が夜に鄜州へ侵入し兵備僉事郭応響が死んだ。三月、陝西の賊が某県を陥し、赴任わずか七日の知県徐兆麒が処刑された(崇禎帝も哀れんだが温体仁は救済しなかった)。四月、湖広の流賊が江西・泰和・吉安方面に入り、張献忠も高迎祥・王自用らと共に山西諸郡県を襲った。七月、山西の大寧が陥落。九月、臨県・修武が陥落し知県劉鳳翔が殺され、懐慶が包囲される事態となり、崇禎帝は河南巡撫樊尚燝を厳しく叱責した。十月、副総兵左良玉が二千五百の兵で懐慶救援に派遣された。

高宏図の罷免

  • 三月、工部右侍郎高宏図は、宦官張彜憲が両部の実務を統括し官署の上座に座ることの不当を上奏し、国家の体面を守るべきと訴えたが聞き入れられず、七度の上疏の末に罷免された。七月には司礼監太監曹化淳が京営提督に任じられている。

周鑣、宦官登用を諭す

  • 十二月、南京礼部主事周鑣は、宦官の重用が容易に始まりながら退けるのが難しいという弊害を指摘し、張彜憲以下の宦官登用によって高宏図・金鉉・魏呈潤ら剛直な臣が次々と処罰されてきた実情を訴えたが、崇禎帝は逆にその直言に怒り周鑣を罷免した。礼部員外郎袁維咸の弁護も容れられなかった。

皇子の誕生

  • 四月、皇三子慈炯が生まれた(原文の記載によれば、皇五子慈煥は崇禎九年八月、別の皇子慈煥は崇禎十二年三月、皇七子慈照は崇禎十三年八月の生まれで、慈照は崇禎十五年三月に承王に封じられたという。同名の重複は原文のままとする)。

孔有徳、登州を陥す

  • 崇禎四年六月に端を発した孔有徳の乱は、五年正月二日、副総兵張燾の軍が突如反旗を翻したことで総兵張可大の軍が壊滅、翌日登州城が陥落する事態となった。孔有徳はその後黄県を破り、巡撫徐従治・謝璉が登萊防衛にあたった。六月には萊州知府朱万年が殺され、九月には官軍が登州を包囲したが、十一月に孔有徳は敗走、十二月に海路黄県に至り、翌年四月には蓋州から後金(大清)に帰順した。

賊首の名号

  • この年、登萊の兵変を受けて関寧の兵二万が討伐に投入されたが、兵部尚書張鳳翼が賊を山西へ追いやることを恐れて渡河追撃を阻んだため、賊は河を渡って河南・湖広・安慶・廬州方面へ拡散した。
  • 陝西方面には紫金梁・王和尚・満天星・蠍子塊・老回回・一字王・闖塌王・過天星・西営八大王(張献忠)・混世王・曹操ら二十四家、山西・河南方面には英王・混天王・老回回・上天龍・南営八大王・北営八大王ら三十二営が割拠し、それぞれ数万から一万規模の勢力を擁して各地を荒らした。この頃、李自成はなお闖王高迎祥の配下にあり、劉良佐と共に一隊を成すのみで、まだ大きな存在ではなかった。

百官の進馬

  • 十二月、崇禎帝は三品以上の官に馬一頭ずつの献上を命じ、御馬監に納めさせた(実際には金銭で買い取らせる名目であり、良馬でも金銭でなければ受け取られなかった)。

天変異象

  • 四月三十日夜、江寧で地震。九月、西安県で通常より粒の大きい黒みがかった穀物が雨のように降った。十二月二十五日未明、無錫で霧が空を覆い、霰のような雪が木々に降り積もり花や瓔珞・刀剣のような形を作った。