洪秀全演義第二十八回 林鳳翔夜揚州府を奪い、韋昌輝怒りて楊秀清を殺す (林鳳翔夜奪揚州府 韋昌輝怒殺楊秀清)

揚州包囲と清軍の内輪もめ

  • 林鳳翔は揚州城外に厳重な陣を構え、酷暑を避けて山林に依って布陣。清軍の増援(漕運総督楊殿邦)到着を喜び、指揮系統が勝保・琦善で割れて統制が乱れると読んでいた。
  • 清の小部隊(雙来率いる)が紫徒廟を攻めてきたが、林鳳翔はわざと後退させて小勝を譲り、清軍の油断を誘った。

廿四橋の伏兵戦で勝保軍を撃破

  • 琦善は勝保・楊殿邦・張国梁らに全軍出撃を命令。林鳳翔はこれを予測し、曾立昌に廿四橋西で橋を落とす伏兵、朱錫琨に地下道を掘っての夜襲を仕込み、周文佳を前衛にして勝保を誘い込んだ。
  • 勝保は洪軍の偽装退却に気づき警戒したが、勢いに押されて渡橋。橋を落とされ退路を断たれたところへ伏兵が四方から殺到し、清軍は大敗。張国梁は負傷しながらも血路を開いて脱出を図った。
  • 勝保軍はさらに包囲され、洪軍の砲撃で浮橋作りも阻まれて壊滅的損害を受け、勝保は絶望して自刃を図るも張国梁に止められた。敗残兵二、三千を率いて撤退しようとしたところへ楊殿邦軍も総崩れとなり、雙来は戦死、楊殿邦はかろうじて脱出。
  • 林鳳翔は敵陣六十九、旗十余流を奪う大勝を収め、味方の損失は部将二十名にとどまった。

揚州城の夜襲奪取

  • 林鳳翔は精鋭百余名を選び、縄と鉄条を用いて夜間に城壁を乗り越えさせる奇襲を敢行。城内はほとんど無抵抗で崩れ、朱錫琨の大軍も呼応して突入し、琦善は狼狽して城を捨てて逃走した。
  • 林鳳翔は入城後、民に危害を加えず布告を出して安堵させ、周辺州県が次々と帰順。勝報は金陵へ届けられた。

楊秀清の専断と諸将の反発

  • 洪天王が祝賀しようとした矢先、楊秀清は得意げに「林鳳翔に大任を任せた自分の眼力」を誇り、天王を差し置いて李開芳の河南進軍を独断で命じようとした。
  • 石達開は「一勝に浮かれるべきではない」と諫め、秀清はこれに皮肉で応じて対立。韋昌輝は「征伐の号令は東王の専断で出すべきものではない」と抗議して席を立ち、天王も錢江も沈黙するしかなかった。

楊秀清の野心と蕭王妃の諫言

  • 東王府に戻った楊秀清は蕭王妃に、揚州陥落で北伐は目前であり、いずれ天王が自分に位を譲ることになろうと本心を漏らす。
  • 蕭妃は「天下未定のうちに禅譲などあり得ない、錢江や李秀成に本当に勝てるのか」と厳しく問い質し、内乱を招く前に考えを改めるよう強く諫めたが、秀清は聞き入れなかった。
  • 秀清は丞相吉文元に六万の兵を率いて先発させ、李開芳を護衛として残す。その後天王に単独で謁見し、既に出兵を命じたことを事後報告する。天王が「兵符は軍師府にあり、無断は不可」と咎めると、秀清は「万歳と呼ばれたいだけだ」と本音を漏らし、拒まれると不満のまま自ら「九千歳」を名乗り始め、東王府は「九千歳府」と呼ばれるようになった。

北王府と東王府、妻たちの暗闘

  • 北王韋昌輝は吉文元の妹を北王妃(吉妃)としており、吉妃は東王蕭妃と親しかった。かねて韋昌輝は東王の専横に不満を持ち、東王誕生日の宴でも遠回しに諫言していた。蕭妃はこれを見て北王の不満を察知し、吉妃との交流を深めて動静を探らせる。
  • 東王からの書状に「九千歳」の署名を見た韋昌輝は激怒し、王莽になぞらえて憤る。吉妃はこれを知り里帰りを装って実家に戻る。
  • 吉妃の母・伍氏や兄嫁・吉夫人への意味深な問いかけ(「父母と夫、どちらが親しいか」「兄と夫、どちらが親しいか」)から、吉夫人は事情を東王妃に報告。東王妃は吉夫人に北王の動静を探らせるよう依頼した。

韋昌輝、陰謀を察知し先手を打つ

  • 北王は吉夫人の頻繁な訪問を怪しみ、盗み聞きして東西両王家の不和が漏れていることを知る。吉妃を問い詰め、桂平で妻を斬った過去を仄めかして脅すと、吉妃は追及されて言い逃れに窮する。
  • 韋昌輝は吉妃を軟禁したうえ、仮病を口実に吉母(伍太君)を見舞うふりをして探りを入れ、詐りを確信。準備を整え、正庁の屏風裏に刺客を伏せて東王を招き入れる計を巡らせた。

楊秀清の誅殺

  • 韋昌輝は林鳳翔敗報の偽情報を口実に東王を自邸へ誘い出す。警戒する東王を安心させ、酒宴の席で武装を解かせた。広東の勇士・温大賀を「江北からの使者」と偽って同席させる。
  • 韋昌輝は東王を「曹操・王莽のような簒奪の野心を抱き、九千歳を僭称し、党羽を結び、天王親征を阻み、軍師の号令を妨げた」と厳しく糾弾。「全国の民意により誅する」と告げ、伏兵を放って東王を刺殺させた。
  • 乱闘となり温大賀も落命、東王側の随員も大半が討たれた(北王府側の死者三名、負傷五名)。韋昌輝は東王の遺骸を検分し、旧友としての情に一時心を痛めつつも「やむを得なかった」と述べ、遺骸と死者の処理を命じた。

評語

末尾の対句は「兄弟が内輪で争い府堂は戦場と化し、英雄が刃に倒れて天国は長城を失った」と述べ、東王誅殺が太平天国にとって大きな損失であったことを示している。