- 要旨: 出征に際しての出発準備から行軍中の隊列変更、敵との遭遇時の即応まで、旗・砲・喇叭による号令の運用を具体的に定める篇。
出発の手順
- 主将が令票・令箭で日時を伝えた後、喇叭の合図ごとに、身支度と食事、糧食の点検、前哨の塘報(斥候)の配置を順に進める。
- 塘報は五名一組で、互いの姿が見える距離を保ちながら一路につき二十四段に連なって配置する。
- 二度目の喇叭で中軍が清道旗を掲げ、哨・把総の順に城門を出て主将は中軍に位置する。三度目の喇叭で各官が持ち場に戻り、中軍の太鼓と紅旗を合図に、前総・左総・中総・中軍・右総・後総の順で一路に行軍を始める。塘報も行軍・停止を部隊と同期させる。
道幅に応じた隊列の変換
- 道が広くなれば、砲・のろし・高招の数を段階的に増やし、旗色(藍・黒・黄・白)の合図で二路・三路・四路・五路(横に広げた「抬営」の隊形)へと順次展開する。狭くなれば逆の手順で縮小する。
- 敵に遭遇した場合、四路・五路であれば方営(方形の陣)に、一路・三路であれば急営に転じ、前総は通常の対敵陣形を、左右後の三総は伏兵・翼撃・本営構築へとそれぞれ移行する。前方が交戦しない限りは待機し、勝手に動いて事を誤ってはならないとする。
前哨の地形・状況信号
- 前哨は五方旗と高招を携え、事があるときのみ掲げる。林があれば青旗、水沢の障害には黒旗、敵兵に遭遇すれば白旗、険しい山地には黄旗、煙火を見れば紅旗を用いる。通過すれば高招を巻き、道の幅に応じて一〜五面の旗を立てて後方に伝える。
敵発見時の合図
- 塘報が敵を発見した際、急を要すれば紅旗、緩やかなら黄旗、敵が多ければ青旗、少なければ白旗、道がなければ黒旗を振って知らせ、後方の各段も順に同じ合図を伝える。
- 敵が追ってこなければ元の位置に戻り、追ってくれば段階的に後退して本営前まで下がる。敵の追撃の有無を確かめずに一斉に退くことは固く禁じ、違反は軍法に処す。
不意の遭遇戦への対応
- 陣を構える間もなく敵と遭遇した場合は、その場で即座に急営を組み、近くの兵は隊を分けず全力で応戦する。まず銃で一斉射撃し、次いで牌・短兵で切り込む。
- 敵から見えない場所では援兵を送らず牌・拒馬で一字陣を固めて守り、逆に敵から見えない険阻・水路がある場合は、そこを利用して百名前後の精鋭を迂回させ不意を突くのが上策であるとする。
- 不意の遭遇は敵の先鋒か後殿、あるいは略奪中の少数の賊であることが多いため、確実に制圧することを旨とすると説く。
行軍中の中軍配置
- 有職の者は全員甲冑を着け武器を携行する。
- 令牌・門旗・五方旗・神旗・飛虎旗・五行旗・角旗・高招・坐纛など、各種旗の名称と担当人数、護衛の配置を細かく定める(旗ごとに数名から二十数名を割り当て、坐纛には護衛の親兵二十五名を配する)。
- 金鼓・鉦・哱囉・喇叭・太鼓・笛など鳴物の編成(吹鼓手三十八名)と、各旗の後方に精兵五名ずつを配する布陣を定める。
- 主将の馬前・馬後にも令牌・長短兵・親兵を配し、密令の伝達と後方の警護に当たらせる。
- 道幅が狭ければ五人一組を前後二層に分けて縦に、広ければ横一列に広げるなど、隊列の間隔を道の状況に応じて調整する。
- 行軍中に敵発見の報が入れば、中軍がのろしと砲声で合図し、黄旗を主将の戦闘配置の目印として立て、四方の旗をその周りに集結させる。旗の高さは招・方旗・門旗の順に低くなるよう配置し、金鼓と親兵を主将の左右・前後に固めて指揮と護衛に当たらせる。