- 要旨: 新募の兵に速やかに号令を覚えさせるための簡明な規約集。金鼓・旗幟による指揮系統を体で覚えさせ、口頭の命令には一切従わせないという統制原理を説く。
導入
- 古今の名将で節制と号令、金鼓旗幡を用いずに勝ち続けた者はいないとし、新募の生兵が多く春の防衛期も迫る中、悠長に一つずつ教えている暇はないと述べる。
- そこで簡明な条款を刷って配布し、夜ごと隊ごとに集まり、字を読める者が読み上げ、読めない者はそれを聞いて暗記するよう命じる。暗記の確認は上官が行い、覚えていなければ杖罰、逆に軽微な過失があっても一条を暗誦できれば免除するとする(ただし臨陣の軍法は別枠)。
号令服従の絶対原則
- 兵の耳は金鼓のみ、目は旗幟のみに従うべきとし、口頭の命令には主将であっても、たとえ神が現れて命じても従ってはならないとする。
- 兵は把総の旗を、把総は中軍の旗を見るという階層構造を説き、太鼓が鳴り続ける限り水火の中へも進み、鉦が鳴り続ける限り金銀の山を前にしても退くべきだとする。こうして全軍が一つの目・耳・心となれば、討てぬ敵はなく立てられぬ功もないと結ぶ。
鳴り物・旗による号令一覧
- 笛(鎖吶)は官・哨・隊長を集めて指示を伝える合図。
- 行軍中の一発の銃声は号令変更の合図で、旗の指示を見てから再び進む。
- 喇叭の三段階の合図で炊事開始→食事→集合・野営という宿営の手順を進める。
- 喇叭の「天鵝声」は喊声を上げる合図、「隊伍を並べる」は各哨ごとに整列する合図、「単擺開」は各隊が間隔一丈五尺で疎らに展開する合図。
- 旗を振った後の喇叭の長音一声は、兵が旗の指す方向に体を向け直す合図。
- 銅鑼は休息して座る合図、哱囉は起立して武器を構える合図。
- 歩鼓は旗の示す方向へ進軍する合図で、一打ごとに十歩進む。太鼓の連打(擂鼓)は敵に向かって駆け出し交戦する合図。
- 陣を張った後の擂鼓と中軍旗の掲揚は火兵を薪水に出す合図、号笛はその呼び戻しの合図。
- 交戦中の鉦一声は停止、もう一声で後退、続けて二声鳴らせば再びその場で向き直り前進の意を示す。
- 鉦の縁を打つ音は敵情偵察に人を出す合図、鈸(シンバル)を打ち鳴らす音は展開していた隊を元のまとまりに収める合図。塘報が小黄旗を振るのは敵接近の知らせ。
旗の色と方向
- 各兵は自分の属する総・哨の旗の色を覚え、その旗が立てば準備し、左右前後どちらに傾けるかでその方向へ進む。旗が倒され地に伏せば静止・待機とし、旗が立たない限りその場が持ち場(信地)であり、いかなる者に呼ばれても勝手に動いてはならないとする。夜は高招と灯火・太鼓の合図が昼の旗に代わる。
火器・弓弩の運用
- 鳥銃は敵が近づくまで早撃ちせず、また一斉に撃ち尽くさない。敵が百歩以内に迫ってから竹筒の合図で構え、指揮官の一発を合図に順に撃ち、喇叭が連続して鳴れば一斉射撃に切り替えるとする。
- 弩・弓は鳥銃の射撃がほぼ終わり、敵が六十歩以内に迫ってから命令に従って矢を放つ。
鴛鴦陣の型
- 鴛鴦陣を必勝の実証済みの陣立てとして紹介する。二枚の牌を並べ、それぞれに狼筅を添えて牌手の背後を守り、長槍二本がそれぞれ牌と筅を援護し、短兵が長槍の疲れを見て切り込むという役割分担を示す。
- 伍長が先頭で牌を構え、太鼓が鳴っても進まなければ斬に処すとし、牌が倒れれば筅が、筅が倒れれば長槍が、長槍が倒れれば短兵が救援するという連携原則を説く。牌手が戦死すれば伍全体を斬に処すという厳格な連帯責任も定める。
五方旗の色彩体系
- 旗の色を東西南北で覚えさせると民には分かりにくいため、自分の体を基準にした前後左右中央で教えるべきだとする。
- 正面(前)=紅旗・南・火・朱雀・離、背面(後)=黒旗・北・水・玄武・坎、左手側=青旗・東・木・青龍・震、右手側=白旗・西・金・白虎・兌、足下(中央)=黄旗・土・勾陳・太極、という五行対応を示す。
- 黄旗は中軍、紅旗は前営、白旗は右営、青旗は左営、黒旗は後営の異動を意味し、色ごとに見るべき方向(黒=後、紅=前、青=左、白=右、黄=四方から中央)を定める。五色すべてが挙がれば各営がそれぞれの方角を向いて号令を待つ。
- 旗が指す方向へ進み、旗が定まらなければ止まらず、旗が伏せられなければ座らないという原則を繰り返し強調する。
- 孫武が宮女に「己の左右手・心・背を知るか」と問うた故事を引き、この左右前後による号令法こそ千年秘伝ともいうべき自らの会得した要諦であるとし、これを公開することを惜しむとまで述べる。
結び
- 新兵が束伍を終えたら、直ちにこの一巻を各人に配って暗誦させ、号令を体得させて初めて教練場での訓練に進めるとする。