- 要旨: 旗鼓の号令に慣れても兵の心はまだ従っていないとし、連座制の賞罰によって心をも従わせるための軍法を定める篇。著者はこれを第三篇として位置づける。
首級の扱いと戦功争いの弊害
- 実戦で真に奮闘する勇者はごく少数なのに、首級一つの戦功に数十百人が群がって報告に来る弊害を指摘する。功を争って戻る大人数を見た他の兵が敗走と勘違いし、全軍が崩れる危険を戒める。
- 対策として、長牌・長槍・狼筅など先鋒を担う長柄武器の兵は首取り用の刀を持たせず、ひたすら前進して殺すことに専念させ、首級に執着して立ち止まることを禁じる。
- 倒した敵の首は短兵の兵が斬り取り、一つの首につき一人だけが陣後に運んで戦闘終了後に検分を受ける。誰が先陣を切ったかは隊長が公正に証言し、私怨で不公平な報告をした者は軍法に問う。
- 首級一つにつき銀三十両を配分する目安を定める。先鋒(牌・槍・筅)に二十両、斬った兵に二両、それ以外の兵に一両、火兵にも五銭、鳥銃手にも二両を分けるとする。
戦場の財物への戒め
- 敵が残した金銀・布帛・器械は、兵を財に釣らせて隙を作らせる敵の罠であると警告する。
- 対策として隊ごとに一人だけを財物の管理役に残し、戦闘終了後に隊単位で公平に分配することとし、勝手な横取りは禁じる。私欲で財を奪いに走り部隊が危険に陥った場合、首謀者を問わず総哨官まで軍法で斬に処すとする。
退却・臨陣逃亡への連座制
- 臨陣で怯んで退いた者は、甲長が兵の耳を、隊長が甲長の耳を、哨官・哨長が隊長の耳を、把総が哨官・哨長の耳を削ぎ、帰陣後に耳のない者は斬に処す。見逃して耳を削がなかった者にこそ罪を科すとする。
- 伏兵が敵を見て動かない、または早まって動いた場合は隊長を斬り、他の兵は俸給を減らして遺族に恤む。奇兵・伏兵が動いたのに正兵が呼応しなければ同罪とする。
- 一人が先陣を務め、周囲八人が救わずに戦死させた場合はその八人を斬るが、逆に一人の戦死につき敵の首を一つ討てば免罪、二つ討てば全員に恩賞とする。
- 小隊が包囲された際に上位の隊・哨が救援しなかった場合、その甲長・隊長・哨長を軍法で斬に処す。
- 戦死者を出しながら敵の首級を挙げられなかった場合は俸給を減じ遺族を慰恤し、失った規模(隊・哨・官)に応じて減俸の範囲を広げる。ただし部下が功を挙げていれば免責とする。
- 退却の連座は階層ごとに定める。一兵が先に退けばその甲長を、甲長は残り兵が退いても留まって戦死すれば厚く弔い、逃げた兵を斬る。同様の連座が隊長・哨長・哨官・そして把総以上の将領にまで及ぶとする。処罰は俸給停止に留まらず軍法による笞打ちを伴うとし、遺族への慰恤には俸給減額分の給付に加え、上奏による蔭子(子孫への恩典)や世襲の恩典も含まれるとする。
- ただし敗軍で背中に矢傷を受けて死んだ者(=逃げる途中で討たれた者)は敗北の責として扱い、慰恤せず本人と募集元の家にも罪を及ぼすとする。
装備・隊列の規律
- 武器の貸し借り、粗悪な武器の使用、無断での装備変更、装備の携行漏れなどは、臨陣の規定に準じ伍長・隊長・総哨官まで連座で処罰する。
- 隊列の乱れ、隊伍からの離脱、太鼓に応じない、鉦で止まらない、旗の指示に従わない、号令の伝達不備、道の混雑、私語や騒ぎなどはすべて軍法で処す。
- 陣形が定まった後に足を動かして隊列を崩し、密度が不揃いになった場合は哨官・長牌手ら関係者を斬るとする。
緊急時・情報統制の規定
- 昼夜を問わず中軍から発砲・砲撃の合図があれば緊急事態とみなし、通常の号令を待たずに各自陣を構え、応戦する。
- 敵情の斥候や伝令が得た情報は、途中で質問に答えず主将にまず報告することを義務づける。主将より先に情報が漏れた場合は問答した双方を軍法に問う。主将から口外を禁じられた情報も同様に厳守する。
- 敵に遭遇した際は、勝手に先を争わず敵の数を確認してから発兵する。
- 臨陣で武器を捨てる、非衝鋒の兵が精良な武器や馬を戦闘員と交換する、仮病を使う、故意に武器を壊して戦闘を避ける行為は、いずれも軍法(斬)で処す。
付記(斬首の弊害を改める布告)
- 本篇は旗鼓篇に習熟した後に段階を追って与えるものであり、初心の部下に一度に多くを課さないための配慮であると説明する。
- 追加の布告として、衝鋒中に首級を取ろうとして敵の追撃を怠り事を誤る弊害を改めるための取り決めを記す。府と兵巡道が教場で協議し、以後は首級を取らず衝鋒・敵撃破そのものを功とし、無断で首を取る者は現場で耳を削ぎ、なお首を持って報告する者は斬に処すと定める。
- 具体策として、各哨官の下に「取功」の白布標識をつけた専任の親兵(一哨あたり三甲十五名)を配置し、彼らが倒れた敵の首だけを回収し、戦闘後にその功を衝鋒に当たった本哨の兵に均等配分する。親兵自身は褒賞のみを受け、功争いには関与しないとする。隠匿や取りこぼしがあれば親兵・哨隊長らを斬に処す。