十国春秋卷三十二 南唐十八 列傳 李廷珪
名墨師の家系
- 李廷珪は墨を作ることに巧みであった。父の超とともに易水から江南に来て、歙州に定住した。もとは奚姓であったが、のちに李氏を賜った。廷珪の弟の廷璋、その子の文用はみなその家業を継いだが、その多くは廷珪には及ばなかった。江南では澄心堂紙・龍尾硯、および廷珪の墨をもって文房三宝とした。その当時、ある貴族が誤って廷珪の墨一丸を池の中に落とし、水にやられただろうと疑って再び取ろうとしなかった。ひと月あまり過ぎて池に臨んで酒を飲んでいたところ、たまたま金の器を落としたので、泳ぎの上手な者に潜って取らせたところ、あわせて先の遺墨も得られた。その光沢は変わらず、表裏は新しいままであったので、これによって世に多く珍蔵されることが知られるようになったという。