北史卷三十八 列傳第二十六 裴延儁
字平子、河東聞喜の人、魏冀州刺史徽の八世孫。幽州刺史として荒廃した水利施設(督亢渠・戾陵堨)を自ら修復し灌漑百万余畝の利をもたらした地方官で、政績は天下第一と評された。侍中・吏部尚書にまで進んだが、莊帝初めの河陰の変で子の元直・敬猷とともに殺害された。子孫は北魏末から北斉・隋にかけて多くの官人を輩出した。
年表(4件)
- 幽州刺史時代督亢渠・戾陵堨を修復し、灌漑百万余畝の利をもたらす
- 正光末從父兄子の慶孫、汾州吐京胡薛悉公・馬牒騰の乱を討つ
- 莊帝初め(河陰の変)河陰の変で子の元直・敬猷とともに遇害する
- 孝昭崩御に際し子の澤、魏収の議に異を唱え諡を「孝昭」に改めさせる
幽州の水利で百姓を潤した名臣
- 字は平子、河東聞喜の人。魏冀州刺史徽の八世孫。少くして孤児となり後母に孝を尽くし、秀才に挙げられ射策高第で著作佐郎から太子洗馬・本邑中正を歴任。宣武が仏典に耽り経籍を顧みぬことを諫めた。明堂建立の議論で独自の論を著し、太傅清河王懌に「僕射(父祖の故事)に遠く倣おうとするのか」と評された。
- 幽州刺史時代、荒廃していた范陽郡の督亢渠(径五十里)と漁陽・燕郡の戾陵の諸堨(広袤三十里)を自ら踏査して修復し、灌漑百万余畝・十倍の利益をもたらした。学校を興し礼教を広め、州の考績は天下第一となった。太常卿・七兵殿中二尚書・散騎常侍・中書令・御史中尉、さらに侍中・吏部尚書を兼ねたが、台閣では職を守るのみで裁断には及ばなかった。莊帝初め河陰の変で遇害。儀同三司・都督・雍州刺史を贈られた。子の元直・敬猷も同時に遇害し、元直は光州刺史、敬猷(丞相高陽王雍の外孫を娶る)は尚書僕射を追贈された。從叔の愛醜・桃弓も郷里で称された。
裴延儁の子孫と一族
- 子の夙(字は買興)は沈雅な器識で儀望に優れ孝文に異とされ、任城王澄に才を惜しまれた。河北太守として忠恕で百姓に慕われ郡で卒した。三子は範・升之・鑒。
- 鑒(字は道徽)は性強正で学識あり廷尉卿で卒し東雍州刺史を贈られた。子の澤は文学に優れ齊の齋帥・舎人となり、孝昭崩御に際し魏収の議した「恭烈」の諡に対し文王の礼を引いて「孝昭」に改めさせたが、これで忤旨し広州司馬に左遷。のち崔彦深誹謗の詩を詠んだことで武成に髡頭除名とされ、後主の代に清河郡守。祖珽と親しく尚書左丞・兼黄門となったが祖珽誅殺に連座した。妻の鉅鹿魏氏との仲は篤く、駕に従うときも離れなかった。
- 延儁の從祖弟の良(字は元賓)は西北道行台として汾州吐京胡薛羽・馮宜都・賀悅回成らの妖賊、山胡劉蠡升の乱を討ち、汾州刺史・輔国将軍。城の困窮で西河に率衆奔り、汾州の西河移住はここに始まる。衛大将軍・太府卿で卒し吏部尚書・諡貞を贈られた。子の叔祉は司空右長史。
- 良の從父兄子の慶孫(字は紹遠)は正光末、汾州吐京胡薛悉公・馬牒騰の乱を討ち直後を除せられ、邵郡太守として山胡の南通絳蜀の勢力を安緝したが、爾朱栄死後に爾朱世隆と密通していたことが発覚し斬られた。任俠で気があり、饑饉には自らの家糧で流民百余人を養った。
- 延儁の從祖弟の仲規は司徒主簿として孝文に応対の才を認められたが父の病で違制免官、義陽征討に従い戦没し河東太守・諡貞を贈られた。子はなく弟叔義の第二子伯茂を後継とした。
- 伯茂は風望あり群書に通じ、大将軍京兆王継の西討・行台長孫承業の南征に従軍し薛鳳賢平定の功で平陽伯。中書侍郎・典起居注を経て中軍大将軍。飲酒を好み『豁情賦』『遷都賦』を著したが、殿中尚書章武王景哲を侮辱する事件を起こした。養家の伯仲規と別居した際、実兄景融の貧窮を顧みなかったため世に貶められた。三十九歳で卒し、友人の常景・李渾・王元景ら十余人が墓前で祭り詩を賦した。魏収も詩を寄せ「臨風想玄度、対酒思公榮」の句が事実を得たと評された。散騎常侍・衛将軍・度支尚書・雍州刺史、追贈吏部尚書・諡文。子はなく兄景融の第二子孝才を後継とした。
- 叔義は學行があり太山太守などを清静な政で治め司徒従事中郎に遷り卒し東秦州刺史・諡宣を贈られた。子の景融(字は孔明)は秀才に挙げられ射策高第で太学博士から著作領を経たが弟景龍・景顔の廷尉獄連座で吏部の擬郡が崔暹に弾劾され免官、病卒。景顔も司空長史で崔暹に弾劾され獄中で病死した。
- 延儁の族兄の聿(字は外興)は孝文に操尚を認められ北中府長史となり、崔亮とともに清貧を理由に県事を兼帯させられた。平秦郡太守で卒し洛州刺史を贈られた。子の子袖は関西に入った。
- 延儁の族人の瑗(字は珍寶)は少くして孤貧、清苦に自立し汝南王悦の郎中令、雍州刺史で卒した。
- 延儁の從父兄の宣明は華州刺史として恵政で知られ諡は簡。二子景鸞・景鴻は逸才で「驥子」「龍文」と呼ばれた。景鸞は華州刺史。子の文端(齊の行台郎)に四子(願・安志・弘・振)。景鴻は齊の和夷郡守。子の叔卿は「裴曾子」と称され、隋の貝丘令となり子に神挙・神符(神挙が最も知られた)。