元史演義第三十五回 党羽を集め顕に弑逆を行い、鑾蹕に扈い横に姦淫を肆にす (集黨羽顯行弒逆  扈鑾蹕橫肆姦淫)

鐵失一派の企み

  • 御史大夫の鐵失は、かつて鐵木迭兒の養子を称した人物。鐵木迭兒が失脚し子の鎖南も免職となったことを恨み、英宗と右丞相拜住の粛清を恐れて謀反を企てる。
  • 知樞密院事の也先鐵木兒、大司農失禿兒ら多数の重臣・諸王が結託し、機会をうかがう。
  • 英宗が上都に行幸した隙に、一味は西僧を使って「仏事を大々的に行い罪人を赦免すべき」と献策させるが、拜住は「仏事にかこつけた金品目当ての企み」と一喝して退ける。
  • 恨みを募らせた一味は拜住暗殺にとどまらず、英宗もろとも弒逆することを決意。首謀者鐵失は、北方に鎮する晉王也孫鐵木兒を新帝に擁立する計画を立て、晉王府の内応者を通じて使者斡羅思を派遣する。

晉王の拒絶と密告

  • 晉王也孫鐵木兒(世祖の曾孫、甘麻剌の子)は、斡羅思から謀反への加担を求められると激怒し、これを斬ろうとする。
  • 府史の別烈迷失の進言により、斡羅思は殺さず檻車で上都に護送し、逆謀を告発させることにする。
  • しかし晉王が態度を決めかねているうちに、英宗一行は帰途につき事態が急変する。

南坡の変

  • 英宗が上都から南坡に宿営した夜、鐵失は衛兵で行幄を固めさせたうえ一味を率いて突入。拜住は鐵失の弟索諾木に斬られて絶命し、鐵失自らの手で英宗も殺害される。英宗在位三年、享年二十一。

晉王の即位

  • 鐵失らは璽綬を奉じて北の晉王のもとへ赴き、彼を新帝として擁立する。晉王也孫鐵木兒は逆党を討伐せぬまま、龍居河(クルレン川)畔で即位を受け入れ、蒙古文の即位詔を発する(内容は世祖以来の皇統継承の正統性を述べるもの)。
  • 也先鐵木兒を中書右丞相、倒剌沙を中書平章政事、鐵失を知樞密院事とするなど、逆党にことごとく官位を与える。

也先鐵木兒の専横

  • 新帝の帰京にあたり、也先鐵木兒が扈従の全権を握り、その威勢は新帝を凌ぐほどとなる。上都では厳寒と飢饉・水害が広がる中、也先鐵木兒だけは酒色にふけって政務を顧みない。
  • ある日、通りがかりに見かけた太医朱氏の妻娘の美貌に目をつけ、部下の完者・鎖南にそそのかされて力ずくで二人を中書省内に拉致させる。次回、抵抗する娘に手を出そうとした也先鐵木兒が平手打ちを受ける場面で終わる。

評語

英宗が厳しすぎたとする世評に対し、著者はむしろ寛容すぎたゆえに奸党につけこまれたと論じる。晉王が逆賊を討たずに帝位を受け、しかも也先鐵木兒を首相に据えたことで権勢が彼に集中し、太医の妻女を強奪するに至るまで専横を極めた。国が衰えるほど奸悪が跋扈する典型であり、弒逆の罪も強姦の罪も見逃されてはならないと結ぶ。