繹史洪範五行伝(下)(洪範五行傳(下))
五事:聴の不聡(皇の乱れ・その三)
- (漢書より)聴が明らかでなければ「不謀」といい、咎は「急」、罰は「常寒」、極は「貧」となり、鼓妖・魚孽・豕旤・耳の痾・黒眚黒祥が生じ、火気が水を損なうとされる。
- 恒寒の例として、秦始皇帝即位当初の太后の淫乱と嫪毐の乱、冬雷の異変を挙げ、政令が緩急を失った結果として寒暑の異常が現れるとする。
- 桓公八年の雨雪(夫人の淫行と桓公殺害の予兆)、釐公十年・昭公四年の大雨雪(妾を夫人に立てた咎、季孫の専権)、定公元年・釐公二年の隕霜殺菽(臣下による誅罰の専断)などを列記する。
- 釐公二十九年・昭公三年の大雨雹(公子遂・季氏の専権が陰の陽を脅かす象)も同類として記す。
鼓妖・魚孽・介虫の孽など
- 晋文公の柩から牛の吼えるような音がした故事(釐公三十二年、秦晋の争いの予兆)、秦二世元年の無雲の雷(陳勝の反乱を予兆)、秦始皇八年の河魚が逆流した事件(長安君の反乱・嫪毐の誅殺の予兆)などを挙げる。
- 蟲害の記事(桓公五年の蟲、荘公二十九年の蜚、釐公十五年・文公三年・八年・宣公六年・十三年・十五年・襄公七年・哀公十二年の螽・蝝)を、貪欲な収奪や兵役の重さへの譴告として列記する。
- 斉襄公が猪(彭生の霊とされる)に脅かされ落車した故事(荘公八年)、周の谷水と洛水が争って王宮を毀そうとした事件(襄公二十三年)、秦の渭水が三日間赤く染まった事件(武王・昭王期)などを「火沴水」の類として記す。
五事:思心の不睿(皇の乱れ・その四)
- 思心が寛容でなければ「不聖」といい、咎は「霿(くらい)」、罰は「常風」、極は「凶短折」となり、脂夜の妖・華孽・牛旤・心腹の痾・黄眚黄祥が生じ、金木水火が土を損なうとされる。
- 釐公十六年の六鶂退飛(宋襄公の驕り)を代表例に挙げ、恒風の災異として位置づける。
- 釐公十五年九月の夷伯廟への落雷(季氏専権の予兆)、隠公五年・八年の螟(漁猟や許田交換への貪欲)、宣公三年の郊牛の口の傷(子赤殺害と喪中婚姻の乱れ)、秦孝文王の五足の牛の出現(宮室造営の奢侈)などを列挙する。
- 周景王が心疾で崩じた故事、宋元公と叔孫昭子が共に泣いて間もなく死んだ故事などを「心腹の痾」の例として記す。
金木水火が土を沴す(恒陰・地震・山崩)
- 周幽王期の三川震動・岐山崩壊(伯陽甫の予言、幽王の暴虐と褒姒への耽溺)を代表例とし、以後、文公・襄公・昭公・成公期の地震(諸侯・大夫の専権を象徴)、釐公十四年の沙麓崩(斉桓公の伯道の衰え)、成公五年の梁山崩(晋の君臣関係の乱れ)などを列記する。
皇の不建(皇極の乱れ)
- 君主が中正の道を確立できなければ「不建」といい、咎は「眊」、罰は「常陰」、極は「弱」となり、射妖・龍蛇の孽・馬旤・下人が上を伐つ痾・日月星辰の乱行が生じるとする。
- 荘公十八年の蜮の出現(荘公の淫女への譴告)、魯哀公時の隼が陳廷に集まり楛矢が刺さった事件(孔子が肅慎の故事を説き明かした逸話)を射妖の例とする。
- 夏后氏の二龍の故事(褒姒誕生の由来譚)、鄭の龍闘(子産の徳による対応)、鄭の内蛇外蛇の闘い(厲公復位の予兆)、文公十六年の蛇の泉宮出入り(文公の母の死の予兆)などを龍蛇の孽として記す。
- 宋公子地の白馬(向魋との争い)、秦の馬生人・牡馬生子而死(商鞅の変法と昭王の武力の反動)、文公十一年の長狄兄弟の記事(周室衰微と三国簒奪の予兆)、秦始皇二十六年の大人十二人の出現(天下統一と暴虐の予兆)などを馬旤・下人伐上の痾として列挙する。
日月の乱行(日食記事)
- 隠公から哀公に至る春秋二百四十二年間の日食三十六件を列挙し、それぞれ董仲舒・劉向・劉歆による分野(各国の対応天区)判定と、対応する乱事(弑逆・簒奪・戦乱)を付す。桓公三年の日食既(既=皆既日食、六月晋の内乱を予兆)、文公十五年、宣公八年、成公十六・十七年、襄公十四〜二十七年、昭公七〜三十一年、定公五・十二・十五年、哀公十四年の各日食を通じて、日食の起こる季節・分野が対応国の凶事を予兆したとする理論を展開する。
- 京房易伝を引き、日食の様態(既・薄・時期のずれ)と君臣関係の乱れとの対応、月の朓・仄慝(月の見え方の異常)が君主の緩急と対応するという説を記す。
星辰の逆行(彗星・隕石・流星)
- 文公十四年の孛星入北斗(斉宋魯莒晋の弑逆の予兆)、昭公十七年の孛星於大辰(周室の内乱の予兆)、哀公十三・十四年の孛星於東方などを列記する。
- 荘公七年の恒星不見・夜中星隕如雨(斉桓公の興起と周室の衰微を象徴)、釐公十六年の隕石于宋五・六鶂退飛(宋襄公の驕りと敗北の予兆)を星辰逆行の代表例として記す。
(本篇は洪範五行伝の「聴・思心・皇極」三事に関する災異理論とその春秋期の事例を集めたもので、上篇の貌・言に続く後半部にあたる。)