繹史洪範五行伝(上)(洪範五行傳(上))

洪範九疇の由来

  • (漢書より)易の河図・洛書の故事を引き、禹が治水の功により洛書を得て洪範九疇(五行・五事・八政・五紀・皇極・三徳・稽疑・庶徴・五福六極)を定め、それが箕子を経て武王に伝えられた経緯を述べる。

木は曲直せず(木行の乱れ)

  • (漢書「五行傳」より)狩猟に節度なく農時を奪い姦謀があれば「木曲直せず」という。木は東方・仁の象で、王者の威儀・農事の勧奨と結びつくとする。
  • 春秋の事例として、成公十六年正月の雨木冰(劉歆・劉向の解釈:叔孫喬如の出奔や晋楚の戦を予兆)を挙げる。

火は炎上せず(火行の乱れ)

  • 法律を棄て功臣を逐い、妾を妻とすれば「火炎上せず」という。火は南方・明徳の象で、賢愚の分別・嫡庶の別と結びつく。
  • 春秋の火災記事を多数列挙し、董仲舒・劉向・劉歆それぞれの解釈を付す:桓公十四年御廩災(夫人の淫行)、荘公二十年斉大災(桓公の女色)、釐公二十年西宮災(妾を夫人に立てた咎)、宣公十六年成周宣榭災、成公三年新宮災(三桓の専権)、襄公九年・三十年宋災(讒言・幽閉の怨み)、鄭・陳・宋衛陳鄭同日災・魯の雉門両観災・桓釐宮災・亳社災など(定公・哀公期、季氏専権と孔子疎外への譴告と解釈)。

稼穡成らず(土行の乱れ)

  • 宮室を飾り台榭を営み、内で淫乱・親族を侵せば「稼穡成らず」という。土は中央・内事の象。
  • 荘公二十八年の大水亡麦禾を、哀姜の淫乱・台榭の濫造への譴告とする董仲舒・劉向の説を記す。

金は従革せず(金行の乱れ)

  • 好戦・輕民・築城・侵略により「金従革せず」という。金は西方・粛殺の象で、正しい軍事は征伐を正すが、貪欲な武力行使は金を損なうとする。
  • 昭公八年の石言於晋(師曠の解釈:宮室の奢侈・民怨の反映)を例に挙げる。

水は潤下せず(水行の乱れ)

  • 宗廟を疎かにし祭祀を廃し天時に逆らえば「水潤下せず」という。水は北方・終蔵の象、鬼神祭祀と結びつく。
  • 春秋の大水記事を多数列挙:桓公元年・十三年(桓の弑逆と背信)、荘公七年・十一年・二十四年(哀姜の淫乱、臣下の驕り)、宣公十年(宣公の簒奪)、成公五年(大夫専権)、襄公二十四年(隣国侵伐と民の怨み)など、いずれも君主の失徳・臣下専権への譴告として説かれる。

五事:貌の不恭(皇の乱れ・その一)

  • (漢書より)貌が不恭であれば「不粛」といい、その咎は「狂」、罰は「常雨」、極は「悪」となる。それに伴い服妖・亀孽・鶏旤・下体生上の痾・青眚青祥が生じ、金気が水を損なうとされる。
  • 単襄公が晋厲公の視遠歩高を見て乱を予言した故事(成公十六年)、楚屈瑕の莫敖の高慢(桓公十三年)、晋惠公の受玉の不敬(釐公十一年)、郤氏・成粛公・衛孫文子・蔡景侯・魯昭公裯(後の昭公)・衛令尹囲・単成公・蔡太子朱・魏献子など、容儀の乱れから滅亡・凶事を予兆したとされる多数の逸話を列記する。

恒雨(貌の咎の現れ)

  • 隠公九年の大雨震電・大雨雪の記事を、公子翬による隠公殺害の予兆として劉向が解釈する例を記す。

服妖・雞旤・青眚青祥など

  • 晋の太子申生の偏衣金玦(狐突の凶兆解釈)、鄭の子臧の鷸冠、周景王の雄鶏自断尾、鼷鼠が魯の郊牛の角を食う事件(宣公七年・定公十五年・哀公元年、いずれも季氏専権や孔子疎外への譴告)、文公十三年の太室屋壊(釐公を閔公の上に昇格させた逆祀の咎)などを列挙する。

五事:言の不従(皇の乱れ・その二)

  • 言が道理に従わなければ「不艾」といい、咎は「僭」、罰は「常陽(旱)」、極は「憂」となり、詩妖・介虫の孽・犬旤・口舌の痾・白眚白祥が生じ、木気が金を損なうとされる。
  • 晋の三郤の驕り(成公期)、晋穆侯の太子命名の凶兆、鄭の公子曼満、斉の高子容、魯の孟孝伯・趙孟(晋の正卿)の言葉の乱れから死や国難を予言した多数の逸話、孔子の死に対する魯哀公の誄辞の礼を失した点への批判などを記す。
  • 恒陽(旱)の例として釐公二十一年・宣公七年・襄公五年・八年・二十八年・昭公三年・六年・十六年・二十四年・二十五年・定公十年など、歴代の大雩(雨乞い)記事を、君主の驕慢・専権への譴告として列挙する。
  • 童謡による予兆(晋献公時の「丙之晨」の謡、晋恵公時の「恭太子更葬」の謡、魯文成の世の「鸜之鵒之」の謡)も収める。
  • 荘公十七年の「多麋」、宋の狾狗事件(襄公十七年)、周の王子朝が宝玉を河に沈めた事件と秦始皇時代の類似の玉石異変(白祥)、周の九鼎が震動した事件(威烈王二十三年、韓魏趙の簒奪を予兆)なども木沴金・金沴木の類として記される。

(下巻「洪範五行傳(下)」に続く)