繹史荀子の著書(上)(荀子著書(上))

  • 履歴: 荀卿(荀況)は趙の人。50歳で斉に遊学し、稷下の学に列なる。斉で三たび祭酒(学者集団の長)となるが讒言に遭い楚へ移り、春申君に蘭陵の令として用いられた。春申君の死後、蘭陵に留まって著述に専念し、その地で没した。李斯はその門人であったとされる。

荀卿の事跡

  • (史記より)年五十で初めて斉に遊学。当時は騶衍の壮大な弁論、淳于髠の該博、田駢らの弁舌が評判であったが、荀卿は斉で最も年長の学者として重んじられ、三たび祭酒に推された。
  • (史記より)斉人の讒言により楚へ移り、春申君に蘭陵の令として用いられる。春申君が死ぬと職を失い、そのまま蘭陵に家をなす。李斯はかつてその門人であり、のち秦の丞相となった。
  • (史記より)荀卿は乱世の風潮――巫祝や吉凶の占いを信じ、俗儒が瑣末な礼にこだわる様――を憎み、儒家・墨家・道家などの得失を整理して数万言を著した。

非十二子

  • (荀子より)它囂・魏牟、陳仲・史鰌、墨翟・宋鈃、慎到・田駢、恵施・鄧析、子思・孟軻ら当時の諸学派十二子を、それぞれ「持論に一理ありながら大道を誤らせる」者として批判する。
  • (荀子より)真の士君子とは、堯舜のような聖王の道と孔子・子弓の教えに則り、方略を統一して天下の英傑を糾合する者であるとする。
  • (荀子より)「信を守り人にも信じられることを望み、忠を尽くして人にも親しまれることを望み、正しい行いをして人にも善しとされることを望む」君子の態度を説き、これに反する言動を厳しく退ける。

勧学

  • (荀子より)「学は已むべからず」。青は藍より出でて藍より青く、氷は水より出でて水より寒しの喩えで、学問による自己変革の可能性を説く。
  • (荀子より)人は環境・交友によって善悪に染まるとし、居は必ず郷を選び、遊は必ず士に就くべきだとする。
  • (荀子より)「積土成山、風雨興る/積水成淵、蛟龍生ず」のたとえで、小さな努力の積み重ねが大成をもたらすと説く。騏驥の一躍も十歩に及ばず、駑馬も十駕すれば功を成す、と持続の重要性を強調。
  • (荀子より)学問の目的は己を磨くこと(古の学者は己の為にす)であり、他人に誇示するための学(今の学者は人の為にす)を戒める。
  • (荀子より)学は師について学ぶのが最も速く、礼を尊ぶことが学の要であるとし、学の到達点は「聖人」であるとする。

修身

  • (荀子より)善を見れば自ら省み、不善を見れば自らを戒める。批判してくれる者を師とし、追従する者を賊とする姿勢を説く。
  • (荀子より)血気・志意・知慮などは礼によって治めるべきで、礼によらねば混乱・粗暴に陥るとする。
  • (荀子より)治気養心の術として、剛強な者は柔和で調和させ、卑小な者は志を高く保たせるなど、性質に応じた自己修養法を列挙する。
  • (荀子より)「君子は物を役し、小人は物に役せらる」として、内省によって外物への執着を減じることの大切さを説く。

不苟(栄辱に続く一連)

  • (荀子より)小人の勇(食欲・利欲に発する勇)、士君子の勇(義に基づく勇)を区別し、真の勇とは義を守り死を軽んじないことだと説く。
  • (荀子より)栄辱の大分は、義を先にする者は栄え、利を先にする者は辱められるとする。徳の厚薄・行いの正邪によって、人の運命の安危が決まる。
  • (荀子より)人の性は禹も桀も同じであり、堯舜となるか桀跖となるかは、環境と習俗の積み重ね(注錯習俗)による、とする。

解蔽

  • (荀子より)人の患いは「一曲に蔽われて大理に闇い」ことにあるとし、桀・紂が寵姫に惑わされて滅び、湯・武が心を正して興ったことを例に、蔽塞の害を説く。
  • (荀子より)墨子は用に蔽われ、恵子は辞に蔽われ、荘子は天に蔽われるなど、諸子百家がそれぞれ一隅に偏った蔽いを持つと批判する。
  • (荀子より)心を「虚一而静」に保つことで大清明の境地に至り、万物を正しく認識できるとする。水面が静かであれば人の姿を映すように、心も乱れなければ是非を判断できるとする。

正名

  • (荀子より)名を制定する目的は、上は貴賤を明らかにし、下は同異を分けることにあるとする。妄りに名を作って正名を乱す者は大姦であるとして厳しく戒める。
  • (荀子より)性・情・慮・偽・知・能などの概念を精密に定義し、「性は天の就す所、偽は聖人の生ずる所」と区別する。
  • (荀子より)名は約束によって定まるものであり(名無固宜、約之以命)、実によって同異を弁えるのが正名の要であるとする。
  • (荀子より)「見侮不辱」「聖人不愛己」「殺盗非殺人」など、用名・用実・用名を混同する当時の詭弁三種を分類して批判する。

(性悪篇は次ファイル〈荀子著書下〉と同じ卷に続くが、内容量の都合によりここでは要旨のみ記す)

性悪(冒頭部)

  • (荀子より)「人の性は悪にして、その善なる者は偽なり」。人は生まれつき利を好み争奪に向かうため、聖人は礼義を制定して矯正したと説く。
  • (荀子より)孟子の性善説を「性と偽の分を知らない」として反駁し、直木は矯めずして直く、枉木は矯めて後に直くなるたとえで、礼義による後天的な陶冶の必要を説く。