繹史聘問の礼(聘禮)
『儀禮』聘禮篇の全文を引く。諸侯が隣国へ使者(賓)を派遣して聘問する際の作法を、命使から復命までの一連の流れに沿って記す。
使者への命
- (儀禮聘禮より)君は卿と協議して使者派遣を決め、使者は再拝稽首して一旦辞退するが、君は許さず、改めて上介・衆介(副使・随員)にも同様の命を伝える。宰が幣(贈り物)の目録を書き、必要な日数分の食料などを準備させる。
- (儀禮聘禮より)出発前夜、幣を寝門外に並べ、使者・介たちが位置につき、宰が君に準備完了を告げ、君が使者に文書を授ける。上介がそれを載せて朝廷に置く。
- (儀禮聘禮より)翌朝、賓は禰廟(父祖の廟)に幣を捧げて出発を報告し、圭(信任の玉)を賈人(玉の管理役)から受け取って使者に授ける。夫人からの聘物(璋・束帛など)も併せて授受する。
- (儀禮聘禮より)出発して郊外に宿営し、旗(旜)を巻いて進む。割注に、圭の寸法や繅(玉を包む組紐)の色目、大夫への贈物の規定などが記される。
他国を通過するときの作法
- (儀禮聘禮より)他国を通過する際は、次介が道を借りる旨を告げ、先方はこれを許して食料等を提供する。国境を越える際には旗を巻き、関守に人数を告げて入境する。
事前の習礼
- (儀禮聘禮より)国境を越えて最初の宿営地で、実際の朝廷の儀を模した予行演習(習礼)を行い、幣や圭璧を賈人に確認させる。以後、目的国の近郊まで同様の点検を繰り返す。
郊労(出迎えの慰労)
- (儀禮聘禮より)目的国の近郊に着くと、相手国の君が大夫を遣わして使者一行を労う。使者は儀礼的に辞退したのち受ける。夫人からも竹器に入れた棗・栗などの見舞いの品が贈られる。
到着から宿舎まで
- (儀禮聘禮より)朝廷に至り、卿が館(宿舎)を整えて出迎え、翌朝改めて宿舎へ案内し、饗応の食事(飧・饪)を供する。饗応の品数・鼎の数は上使・上介・衆介で差が設けられる。
聘礼(本儀)
- (儀禮聘禮より)翌日、賓は朝廷で正式に君に謁見し、圭を奉じて聘問の命を伝える。君は堂上で拝礼して受け取り、続いて束帛・璧などの享の品を献上する。夫人への聘問(璋・琮)も同様の作法で行う。
- (儀禮聘禮より)割注に、大聘(正式な聘問)における拝礼の省略や、圭を運ぶ際の所作の細目、幣・馬の扱いの規定が記される。
私覿(私的な謁見・贈物)
- (儀禮聘禮より)公の儀礼が終わると、賓は私的に束帛や乗馬を献じて君に謁見(覿)を願い出て許される。上介・衆介もそれぞれ身分に応じた品を献じる。式が終わると君は賓・大夫・介をそれぞれ労い、賓は退出する。
醴賓(酒食のもてなし)
- (儀禮聘禮より)事後、君は賓に醴酒(甘酒)と脯醢(干し肉・塩辛)を賜り、賓は所定の作法で受ける。返礼として束帛を献じる。
饔餼(食料の支給)と即館後の礼
- (儀禮聘禮より)君は卿を遣わして牛・羊・豕など多量の食材(饔餼)を宿舎に届ける。上介・衆介にも身分に応じた量が支給される。翌日、賓は朝廷に赴きこれを謝する。
- (儀禮聘禮より)賓は宿舎で卿・大夫を訪ねて挨拶(問卿・問大夫)を行い、卿・大夫からもそれぞれ答礼の品が贈られる。夕方には夫人からの贈り物も届く。
饗食・燕(正式な饗宴)
- (儀禮聘禮より)君は賓に酒食を饗し(食・饗・燕)、回数や品数に決まりがあるが、時には君自ら行わず大夫に代行させることもある。上介にも同様の饗応がある。
圭璋の返還と賄贈
- (儀禮聘禮より)帰国前、君は圭・璋などの貴重な玉器を賓に返却する。賄(返礼の品)や贈り物(贈送)も併せて授受される。
帰路の作法
- (儀禮聘禮より)君や夫人に暇を告げ、朝廷で乗禽(生きた雁など)を贈られたのち、郊外に宿営して帰途につく。卿・大夫からの見送りの贈り物(贈送)もある。
復命
- (儀禮聘禮より)帰国後、朝廷で幣を陳列し、使者が君の前で聘問の顛末(公幣・私幣・賄・献上品の授受の経緯)を復命する。君は労いの拝礼をし、宰が使者に褒賞の幣を賜る。
禰廟への報告
- (儀禮聘禮より)使者は最後に禰廟に詣でて出発時と同様に酒食を供え、無事の帰還を報告する。
喪に遭遇した場合の特例
- (儀禮聘禮より)聘問の途上で相手国の君や夫人の喪に遭遇した場合、通常の儀礼の一部(郊労・筵几・禮玉・贈答など)を省略し、喪服に準じた簡素な作法で臨む定めが細かく記される。使者自身や介が途中で死去した場合の代理・復命の作法も併記される。
小聘(略式の聘問)
- (儀禮聘禮より)大聘に対し、簡略な小聘(問)では夫人への献上を省き、随員も三介にとどめるなど規模を縮小する。
『禮記』聘義に見る聘礼の意義
- (禮記「聘義」より)聘礼における介の数(上公七介・侯伯五介・子男三介)は身分の別を示すものであり、三度の譲(謙譲の作法)を重ねて進むのは、互いに敬意を尽くし合うためである。
- (禮記「聘義」より)天子は諸侯に対し、毎年の小聘・数年ごとの大聘を課し、それによって互いに礼で牽制し合うことで、武力によらず秩序を保たせる制度としたと説く。
- (禮記「聘義」より)主国が賓を厚くもてなす(多量の饔餼・乗禽・饗食)のは、財を惜しまず礼を重んじる姿勢を示すためであり、これが君臣・内外の秩序を保つ根本であるとする。
- (禮記「聘義」より)聘礼・射礼は極めて重い儀礼であり、酒を前にしても渇きに任せて飲まず、日が傾くまで礼を崩さない姿勢こそが「有徳の勇」であるとし、こうした勇気・力は平時には礼義に、戦時には勝利に用いられるべきものであって、私闘に用いれば乱を招くと戒める。