- 履歴: 本篇も人物伝ではなく、『周禮』秋官司寇の職掌規定を引用し、末尾に『礼記』王制・燕義・文王世子の関連条文を付す。秋官は「刑」(司法・刑罰・外交)を司る六官の一つ。
総論・大司寇の職掌(周禮より)
- 秋官司寇はその属官を率いて邦の禁令を掌り、王を助けて諸侯国を刑する。
- 三典(新国には軽典、平国には中典、乱国には重典)で四方を正し、五刑で万民を糾す。圜土(懲役牢)で罷民を収容教化し、両造・両剤・肺石(訴えのある窮民が立つ石)などの訴訟制度を整える。
- 大祭祀・大喪・大盟約では祭祀・盟書の管理や誓戒を掌る。
小司寇・士師の職掌(周禮より)
- 小司寇は外朝で万民に国の危難・遷都・立君を諮問する制度(外朝の三詢)を掌り、五刑・五声(辞・色・気・耳・目)による聴訟、八辟(親・故・賢・能・功・貴・勤・賓の身分による減刑)、三刺(群臣・群吏・万民への諮問)の制度を運用する。
- 士師は五禁の法・五戒(誓・誥・禁・糾・憲)で刑罰を予防し、士の八成(邦汋・邦賊・邦諜など八種の重罪)を掌る。
地方の裁判官(周禮より)
- 郷士・遂士・県士・方士・訝士・朝士は、それぞれ国中・四郊・郊外・都家・四方諸侯国・外朝における訴訟の審理と判決の執行を分担し、審理期間(郷士は10日、遂士は20日、県士は30日等)が段階的に定められている。
戸籍・刑罰の細則を掌る諸官(周禮より)
- 司民は万民の戸籍(生歯以上)を管理し、司刑・司刺は五刑(墨・劓・宮・刖・殺)の適用と三刺三宥三赦の減刑制度を、司約・司盟は契約・盟約の管理と違約者の処罰を掌る。
その他の司法関連官(周禮より)
- 職金・司厲・犬人は、それぞれ金玉の徴収と管理、盗賊の資財の没収と奴隷の処遇、犬牲の管理を担当する。
- 司圜・掌囚・掌戮・司𨽻・罪𨽻・蛮𨽻・閩𨽻・夷𨽻・貉𨽻は、それぞれ懲役牢の運営、囚人の拘禁、処刑の執行、異民族の奴隷(隷属民)の使役をを分担する。
禁令・防疫を掌る諸官(周禮より)
- 布憲・禁殺戮・禁暴氏・野廬氏・蜡氏・雍氏・萍氏・司寤氏は、それぞれ刑禁の布告、殺傷事件の取締り、暴徒の鎮圧、道路の管理、遺骸の処理、水利の禁令、飲酒・水遊びの禁令、夜間の巡察を担当する。
- 司烜氏は日月から採った明火・明水を祭祀に供し、火災の予防を掌る。
儀礼警護を掌る諸官(周禮より)
- 条狼氏・脩閭氏は、それぞれ王の出入りの際の先導・鞭打ちによる警護、里閭の治安維持を担当する。
- 冥氏・庶氏・穴氏・翨氏・柞氏・薙氏・硩蔟氏・翦氏・赤犮氏・蟈氏・壺涿氏・庭氏・銜枚氏・伊耆氏は、猛獣・毒虫・害鳥・害草の駆除や、軍中の静粛保持、王の杖の供給など、雑多な実務を分担する。
外交を掌る諸官(周禮より)
- 大行人は諸侯の朝覲会同の礼を掌り、上公・侯伯・子男それぞれの身分に応じた儀礼の格式(執る圭の大きさ、随員数、饗応の回数等)を細かく定める。九州の外側にある九服の朝貢周期も規定する。
- 小行人・司儀・行夫・環人・象胥・掌客・掌訝・掌交・掌察四方・掌貨賄は、それぞれ賓客の応接、儀礼の進行、緊急連絡、送迎、異民族の通訳、饗応の規格、宿舎の手配、諸侯国との友好関係の維持を分担する。
都家の官(周禮より)
- 朝大夫は都家(卿大夫の封地)の政治を国に取り次ぐ役。都則・都士・家士の職掌は原文に欠落がある。
附録(礼記より)
- 王制:冢宰は歳の収穫を見て国用を制し、三十年の平均収支で財政を計画する(九年の蓄えがなければ「不足」、六年では「急」、三年では「もはや国ではない」とする)。司空は土地を測量し民を居住させ、五方(中国・夷・蛮・戎・狄)それぞれの風俗・衣食・言語の違いを尊重しつつ統治する。司徒は六礼・七教・八政で民を教化し、郷ごとの選抜制度(選士・俊士・造士・進士)で人材を登用する。司馬は人材の評価に基づき官職・爵位・俸禄を定める。司寇は五刑の運用にあたり三刺・原情・慎重な審理を尽くし、市場で売買を禁じる物(圭璧・命服・宗廟の器・不良品等)を列挙する。大史・司会以下、年末に各官が政績を天子に報告し、農を労い歳事を終える。
- 燕義:周の天子には庶子官があり、諸侯卿大夫士の庶子(貴族の傍系子弟)の戒令・教育・軍役編成を掌り、国子の徳と技芸を春秋の学びと射で評価する。
- 文王世子:公族(王族)の礼制について、孝弟睦友の教育、朝廷での位次、宗廟における秩序、喪服の序列、公族の犯罪は隠密に処理し宮刑は科さないなど、宗族を大切にする趣旨を述べる。