- 要旨: 天竺(印度)の呼称の由来から、国土の広がり、度量衡・暦法、風俗、宗教、身分制度、刑法、礼儀、死生観、税制、物産に至るまでの総論を記す。
呼称
- 「身毒」「賢豆」など従来の呼称は誤りで、正しくは「印度」というべきだとし、これは「月」を意味する語で、無明の闇を照らす聖賢の教えを月の光にたとえた呼称であると説明する。
- インド人の主流階層である婆羅門(バラモン)の名で総称して「婆羅門国」と呼ぶ慣わしもあるとする。
疆域
- 五印度の全域は周囲九万余里に及び、三方を海に、北を雪山に囲まれ、北が広く南が狭い半月形をなし、七十余国に分かれるとする。
- 気候は暑く湿潤で、北は山地で塩気を帯び、東は肥沃、南は草木が茂り、西は痩せているとする。
数量(距離の単位)
- 距離の単位「踰繕那」(由旬)について、古の聖王の一日の行軍距離に由来するとし、インドの俗説では三十里、仏典では十六里とする説を紹介する。
- 踰繕那を拘盧舎、弓、肘、指節などに細分し、最終的にこれ以上分割できない「極微」に至るという計量体系を述べる。
歳時(暦法)
- 刹那から呾刹那・臘縛・牟呼栗多を経て一日一夜に至る時間の単位系を示す。
- 一か月を白分(満ちる半月)・黒分(欠ける半月)に分け、太陽の運行により一年を六つの時期に分ける方式と、仏典による三時(熱時・雨時・寒時)、また四季(春夏秋冬)に分ける方式をそれぞれ紹介する。
- 各月の梵語名と対応する時期を列挙し、僧徒の雨安居(前安居・後安居)の期間について、従来の漢訳(坐夏・坐臘)が正確でなかったことを指摘する。
邑居(住居)
- 都市は方形に築かれ、屠殺・漁労・芸人・死刑執行人・清掃業などに従事する者は郊外に住まわされるとする。
- 建物は煉瓦や竹木で造られ、寺院(伽藍)は特に精巧な造りで、彫刻や彩色が施されるとする。
- 席には縄床を用い、王の座は獅子座と呼ばれ、細布や宝石で飾られるとする。
衣飾
- 衣服は仕立てをせず白を貴び、男女で着方が異なり、頭髪の結い方にも特徴があるとする。
- 憍奢耶(野蚕の絹)・麻布・毛織物などの素材を紹介し、北インドでは寒冷なため筒袖の衣が用いられ、胡服に似るとする。
- 外道(異教徒)の服装は多様で、孔雀の羽や髑髏の瓔珞を身に着ける者、裸形の者などがいるとする。
- 沙門(僧)の法衣(三衣・僧却崎・泥縛些那)の仕立てや部派による違いを説明する。
- 王族・大臣は花鬘・宝冠・環釧などで身を飾り、多くは裸足で歯を赤や黒に染める風習があるとする。
饌食
- 食事の前には必ず手を洗い清め、食器は使い捨てにするか厳重に磨き、食後は楊枝を噛んで口を清めるなど、清潔を重んじる習慣を記す。
- 沐浴の際には栴檀・鬱金などの香を身に塗り、王の入浴には音楽を奏でるとする。
文字と学問
- 文字は梵天が制定したとされる四十七の字母に由来し、中印度の言葉が最も正しく雅やかであるとする。
- 記録・史書は「尼羅蔽荼」(青蔵)と総称され、善悪・吉凶が漏れなく記されるとする。
教育
- 幼学は十二章から始まり、七歳以降は五明(声明・工巧明・医方明・因明・内明)の大論を学ぶとする。
- 婆羅門は四吠陀(寿・祠・平・術)を学ぶとし、師は奥義を究めさせるまで厳しく教育するとする。
- 三十歳で学業を終えて師の恩に報い、学問を重んじる社会の気風のもと、貧しくとも道を求める者は尊ばれ、遊惰な者は恥辱を受けるとする。
仏教の諸部派
- 仏の教えは聞く者の性質に応じて理解されるとし、正法が時とともに薄れる中で十八部の部派が分立し、大小二乗がそれぞれ異なる修行の場を持つとする。
- 経典の講義数に応じて僧の待遇(雑務の免除、房舎・侍者・乗り物の付与など)が異なるとし、討論による優劣の判定や、論破された者への処罰(顔に赭土を塗り荒野に追放するなど)の慣行を記す。
- 戒律違反への処罰は、叱責・絶交・追放の段階があるとする。
族姓(身分制度)
- 四つの種姓(ヴァルナ)として、清浄な修行者である婆羅門、王族である刹帝利、商人である吠奢、農民である戍陀羅を挙げ、それぞれの婚姻は同じ種姓の内で行われ、女性の再婚はないとする。
- これ以外にも多くの雑姓が存在するとする。
兵術
- 王位は代々刹帝利が継ぐのが本来だが、簒奪により異姓の王が立つこともあるとする。
- 戦士は父子相伝で兵術を極め、歩・馬・車・象の四兵からなる軍制と、それぞれの装備・戦法を記す。
刑法
- 人々は気質は短気だが実直で、財を不正に得ることを恐れ、盟誓を重んじるとする。
- 国家に対する反逆は投獄にとどめ、礼義に背く犯罪には鼻や耳を切る、手足を切断する、追放するなどの刑を科すとする。
- 裁判では拷問を用いず、真偽を確かめる方法として、水・火・秤・毒を用いる四種の神判(水に沈める、焼いた鉄に触れさせる、体重を量る、毒を盛るなど)を紹介する。
敬儀(礼法)
- 敬意を表す九つの段階(挨拶、会釈、合掌、跪拝、五体投地など)を列挙し、出家者への礼には特別な作法があるとする。
病死
- 病気になると七日間絶食し、それでも治らなければ薬を用いるとする。
- 葬送には火葬・水葬(河に流す)・野葬(獣に施す)の三種があり、服喪期間は定まっていないとする。
- 老いて死期を悟った者がガンジス川に身を投げて天界への往生を願う風習があることを記しつつ、これを必ずしも正しい見解ではないとする。
- 出家者の父母への追善供養は恩に報いるものとして推奨されるとする。
賦税
- 政治は簡素で戸籍や賦役の負担は軽く、王の直轄地からの収入は祭祀・輔臣への俸給・学者への褒賞・宗教への布施の四つに充てられるとする。
- 農民は王田を借りて六分の一を税として納め、商人には関税が課されるが軽いとする。
- 労役には対価が支払われ、辺境防衛や宮中警護は募集制で行われるとする。
物産
- インド特有の果実(庵没羅果など)を列挙し、棗・栗・柿はインドにはなく、梨・桃・葡萄などは迦湿弥羅国以西で栽培されるとする。
- 稲・麦を主な農産物とし、野菜や乳製品・砂糖・油などが日常の食料であるとする。
- 魚・羊・鹿は食されるが、牛・馬・犬・猿などは食用を忌避され、食べる者は蔑まれるとする。
- 酒については、種姓によって飲む種類が異なり、沙門・婆羅門は酒とみなされない葡萄・甘蔗の飲料を飲むとする。
- 金・銀・鍮石・水晶などの鉱物資源が豊富で、金銭・銀銭・貝殻・真珠が貨幣として用いられるとする。