隋書卷五十六 列傳第二十一 張衡

張衡、字は建平、河内の人(生年不明-612年)。晋王楊広(のちの煬帝)に古くから仕え、皇太子廃立にも関与した腹心。煬帝即位後は御史大夫として重用されたが、諫言や讒言により次第に疎まれ、大業八年(612年)妾の告発で死を賜った。

年表(6件)

出自と北周での経歴

  • 張衡、字は建平、河内の人。祖父の張嶷は魏の河陽太守、父の張光は周の万州刺史。衡は幼くして志尚を懐き骨鯁の風があった。十五歳で太学に赴き学び、深く精緻に考究し同輩に推された。
  • 周の武帝が太后の喪に服す間に左右と共に狩猟に出た際、衡は髪を露にし柩車を象徴する車を引いて馬の前で切に諫めた。帝はこれを嘉し衣一襲・馬一匹を賜り漢王の侍読に抜擢した。衡はさらに沈重に『三礼』を学びおおよその大旨を極めた。掌朝大夫に累遷。

晋王楊広への出仕と重用

  • 高祖受禅後、司門侍郎を拝した。晋王楊広が河北行台となると衡は刑部・度支の二曹の郎を歴任した。のち台が廃止されると并州総管掾を拝した。王が揚州の牧に転じると衡は再び掾となり、王は大いに親任した。衡もまた誠心を尽くしてこれに仕え、(皇太子)廃立の計はほとんど衡が建てたものであった。
  • 母の喪により去職し、一年余りで揚州総管司馬に起用され物三百段を賜った。開皇中、熙州の李英林が衆を集めて反し百官を署置すると、衡は行軍総管として歩騎五万を率いて討平し、開府を拝し奴婢百三十口・物五百段・金銀雑畜相応を賜った。王が皇太子になると衡は右庶子を拝し給事黄門侍郎を領した。

煬帝の恩寵と没落

  • 煬帝の即位後、給事黄門侍郎を授かり銀青光禄大夫に進み、まもなく御史大夫に遷り大いに親任された。
  • 大業三年(607年)、帝が榆林郡に行幸し太原に戻った際、衡に「朕は公の邸宅を訪れたい、朕のために主人役を務めてくれ」と述べた。衡は河内に馳せて宗族と共に牛酒を用意した。帝は太行山を越え直道九十里を開いて邸宅に至った。帝はその山泉を喜び三日間宴を留め、「かつて先皇に従い泰山への祭祀の途中、洛陽を経てここを望み、立ち寄れなかったことを深く恨んでいた、今日念願が叶うとは思わなかった」と衡に述べた。衡は伏して謝辞を述べ酒を捧げて寿を祈った。帝はさらに喜び邸宅わきの田三十頃・良馬一匹・金帯・縑彩六百段・衣一襲・御食器一具を賜った。衡が固辞すると帝は「天子が至って幸いと称するのはこのためだ、辞退するに及ばない」と述べた。衡はさらに食を帝に献じ、帝は公卿から衛士に至るまで分け与えさせ皆潤沢にした。衡は籓邸時代からの旧臣として恩寵は並ぶ者がなく、次第に驕り高ぶるようになった。
  • 翌年、帝は汾陽宮に行幸し従官に宴を賜り、衡に特に絹五百匹を賜った。当時帝は汾陽宮を大いに拡張しようとし、衡と紀弘整に図を作らせ上奏させた。衡はその機に「近年労役が繁多で百姓が疲弊しています、どうか御心を留められ、いくらか減らされますよう」と諫めたが、帝の心は大いに不快であった。
  • のち帝は侍臣に衡を目して「張衡は自分の計画によって朕に天下を得させたと思っているようだ」と述べた。当時、斉王楊暕は上の寵を失いつつあり、帝は密かに人を遣って暕の過失を探らせていた。ある者が暕が制度に違反し伊闕令皇甫詡を汾陽宮に従わせたと讒言し、また先の涿郡行幸や恒岳祭祀の際、謁見に来た父老の衣冠の乱れを取り上げ、憲司(衡)がこれを正さなかったと帝は譴責し、衡は榆林太守に出された。
  • 翌年、帝は再び汾陽宮に行幸し、衡は楼煩城の築城を督していたが帝に謁見した。帝は衡が痩せていないのを見て自分の過ちを反省していないと考え「公はとても肥え艶やかだ、しばらく郡に戻ってよい」と述べ、衡は再び榆林に帰った。まもなく江都宮の築城監督を命じられた。
  • ある者が衡に宮監についての訴えをしたが、衡はこれを取り合わず訴状を監に渡してしまい、その人物は監に大いに苦しめられた。礼部尚書楊玄感が使いとして江都に至った際、その人物が玄感に冤罪を訴えた。玄感はもとより衡を不可としており、衡と会った際、何も言わないうちに衡が先に「薛道衡は本当に無実の死を遂げた」と語ったため、玄感はこれを詳しく上奏した。江都丞の王世充もまた衡が頓具(駐屯の物資)をたびたび減らしたと上奏した。帝はこれに激怒し、衡を鎖で江都の市に引き出し斬ろうとしたが、しばらくして釈放し除名して庶民とし郷里に帰した。帝は常に親信の者を遣って衡の動向を監視させた。
  • 大業八年(612年)、帝が遼東から都に戻った折、衡の妾が衡が怨望し朝政を誹謗していると告げ、ついに家で死を賜った。臨終に大声で「私は人のために何をしたというのに、長生きを望むのか」と言ったという。刑を監督する者は耳を塞ぎ急いで殺させた。義寧中、その死が罪に値しなかったとして大将軍・南陽郡公を追贈され諡は忠とされた。子の張希玄がいる。