前漢紀前漢孝惠皇帝紀 四年 前191年

皇后張氏

  • 十月、皇后に張氏を立てた。帝の姉である魯元公主の娘である。太后が二重の縁組を望んだので帝の妃とした。

史論(荀悅曰)

  • 夫婦の関係は人の道の大きな倫理である。『詩』は妻を正しく導き兄弟に及ぼして家と国を治めると言い、『易』は家の道を正すと説く。家の道が正しくなれば天下は大いに定まる。
  • 姉の子を皇后とするのは礼に暗く人情を汚すもので、天下に示して民の手本とするようなことではない。それなのに群臣は誰も諫めなかった。過ちである。

施策と災異

  • 春二月、民のうち親孝行・兄弟思い・農事に励む者を挙げ、その身の賦役を免除した。
  • 三月、天下に大赦し、民が書物を持つことを禁じた律を廃した。
  • 長楽宮の鴻台に火災があった。血の雨が一頃の広さに降った(地名は原文に欠字がある)。「本志」はこれを『洪範』にいう赤祥とし、また一説に血の雨があれば大きな誅殺があるとする。
  • 三月、未央宮の氷室に火災があり、丙子には織室に火災があった。「本志」は、氷室は供養の品を扱い、織室は宗廟の衣服を供するもので皇后の象徴であるとし、天の戒めは皇后に宗廟を守る徳がないと告げたものだと言う。果たして後嗣は絶えた。これは『洪範』でいう火が燃え上がらない、視ることが明らかでないという咎にあたる。

『洪範』の五行と五事

  • 『洪範』は天と人との変異を説き、その法は五行に本づき五事に通じ、善悪吉凶の応報はそこに現れる。
  • 五行は一に水、二に火、三に木、四に金、五に土。水は潤し下る、火は燃え上がる、木は曲がり直る、金は従い改まる、土は種を播き穀を取り入れる。
  • 狩りや祭りに身を慎まず、飲食が神に供されず、出入に節度がなく、民の農時を奪い、悪だくみがあれば、木は曲直の性を失う。
  • 法律をもって功臣を追い、太子を殺し、妾を正妻とすれば、火は燃え上がらない。
  • 宮室の造営を好み、台榭を飾り、内で淫乱し、親戚を犯し、父兄を侮れば、穀物は実らない。
  • 攻戦を好み、百姓を軽んじ、城郭を無用に飾り立て、辺境を侵せば、金は従革の性を失う。
  • 宗廟をおろそかにし、祈らず、祭祀を廃し、天の時に逆らえば、水は潤下の性を失う。
  • 五事は一に貌、二に言、三に視、四に聴、五に思。
  • 水は貌にあたる。貌は恭しくあるべきで、恭は粛を生み、粛には時に応じた雨が伴い、その福は徳を好むこと。貌を失えば咎は狂、罰は長雨、極みは悪。服の妖、亀の孽、鶏の禍、下部が上に生じる病、青のわざわいと青の祥が現れ、金が木を害する。
  • 金は言にあたる。言は従順であるべきで、従は治を生み、治には時に応じた晴れが伴い、その福は康寧。言を失えば咎は僭、罰は日照り続き、極みは憂い。詩の妖、甲虫の孽、犬の禍、口舌の病、白のわざわいと白の祥が現れ、火が金を害する。
  • 火は視にあたる。視は明らかであるべきで、明は哲を生み、哲には時に応じた暑さが伴い、その福は長寿。視を失えば咎はゆるみ、罰は暑さ続き、極みは病。草の妖、裸虫の孽、羊の禍、目の病、赤のわざわいと赤の祥が現れ、水が火を害する。
  • 水は聴にあたる。聴は聡くあるべきで、聡は謀を生み、謀には時に応じた寒さが伴い、その福は富。聡を失えば咎は急、罰は寒さ続き、極みは貧。鼓の妖、魚の孽、豕の禍、耳の病、黒のわざわいと黒の祥が現れ、土が水を害する。
  • 土は思にあたる。思は心のはたらきで、心は叡、叡は聖を生み、聖には時に応じた風が伴い、その福は天寿を全うすること。思を失えば咎は霧、罰は風続き、極みは凶事と夭折。脂夜の妖、華の孽、牛の禍、腹心の病、黄のわざわいと黄の祥が現れ、金・木・水・火がともに土を害する。
  • 君主が中正を失えば咎は暗愚、罰は陰り続き、極みは弱体。射の妖、竜蛇の孽、馬の禍、下の者が上を伐つ病が現れ、日月は運行を乱し星辰は逆行する。
  • 以上が『洪範』の大筋である。