唐史演義第一百回 乗輿を徒せ朱全忠弑を行う/国祚を移し昭宣帝唐を亡ぼす (徒乘輿朱全忠行弒 移國祚昭宣帝亡唐)
朱全忠の帰鎮と王師範討伐
- 朱全忠は帰鎮の際、昭宗から詩を賜り送別の宴を受け、清海節度使裴樞の登用を奏請するなど恭順を装う。李克用はこれを見抜き、全忠が河東への慰撫を求めるのも汴州の虚を突かれるのを恐れてのことだと看破する。
- 平盧節度使王師範は鳳翔の偽詔に応じて全忠と交戦し、一時淮南の援軍を得て汴軍を破るが、全忠自ら大軍を率いて反撃し、青州・兗州を攻略。師範は弟を人質に取られ降伏し、後に一族もろとも全忠に誅殺される。
崔胤の粛清と長安からの遷都
- 山南東道の趙匡凝、邠寧の楊崇本(李繼徽と改名)ら方鎮の去就が揺れる中、全忠は宰相崔胤との密通を保ちつつ、実際には崔胤を排除する策を進める。
- 全忠は配下を京師の募兵に紛れ込ませて崔胤の動静を探らせ、宿衛使朱友倫の落馬死を口実に崔胤の関係者を粛清、昭宗に崔胤の罷免を迫る。
- 崔胤が罷免された直後、朱友諒が兵を率いて崔胤の屋敷を襲い惨殺、鄭元規らも皆殺しにする。全忠は昭宗に洛陽遷都を強要し、天復四年正月、昭宗は長安を離れることとなる。
長安破却と洛陽への移送
- 全忠は張廷范に命じて長安の宮殿・官舎・民家を取り壊させ、資材を洛陽の造営に転用する。長安は廃墟と化し、道中の民は崔胤を怨み号泣する。
- 昭宗は華州・陝州で漂泊の身を嘆き、何皇后も全忠への服従を口にする屈辱を味わう。全忠は昭宗の側近・宮人を次々と入れ替え、監視を強化する。
- 昭宗は密かに西川・河東・淮南へ密詔を発して救援を求めるが、全忠配下の督促により結局洛陽へ移動を強いられ、途中で近習の少年ら二百余人も皆殺しにされ別人にすり替えられる。
昭宗弑逆
- 洛陽に入った昭宗は改元して天祐とするが、全忠は諸鎮の要職を私党で固め、実権を完全に掌握する。李茂貞・李克用らは全忠討伐の檄を飛ばすが、全忠はむしろ廃立・簒奪を急ぐ決意を固める。
- 判官李振の進言により、蔣玄暉・朱友恭・氏叔琮らが夜中に昭宗の寝所に乱入。昭儀李漸榮は身を挺して昭宗をかばうが斬られ、昭宗自身も逃げる間もなく刺殺される。享年三十八、在位十六年。
昭宣帝の即位と初期の粛清
- 何皇后は蔣玄暉に助命を乞い、玄暉は李漸榮・裴貞一の「弑逆」を口実に事件をもみ消し、輝王祚(後の柷、十三歳)を皇太子とし、間もなく即位させる(昭宣帝)。
- 全忠は表向き哀悼を演じつつ洛陽に赴き、実行犯の朱友恭・氏叔琮を口封じのため自尽させる。友恭は死に際に全忠の非情を罵る。
昭宗諸子の殺害と朝廷の粛清
- 翌年(天祐二年)、全忠は蔣玄暉を使い昭宗の子九王(徳王裕・棣王祤ら)を九曲池の宴に招いて泥酔させ、皆殺しにして池に沈める。
- 宰相柳璨は全忠に阿り、裴樞・崔遠・独孤損ら旧臣を疎んじる。張廷范の太常卿任命を裴樞が拒んだことから両者の対立が深まる。
白馬駅の禍
- 彗星の出現を口実に、柳璨と李振は全忠に反対勢力の一掃を進言。独孤損・裴樞・崔遠ら高官が地方に左遷された上、李振の主導で裴樞ら三十余人が白馬駅で殺害され、遺体は黄河に投げ込まれる(「清流を濁流に投ず」)。
- 司空図は仮病を装って朝廷を辞し難を逃れ、後に昭宣帝の死を聞いて食を絶ち殉じる。
淮南方面の戦と楊行密の死
- 全忠は楊師厚に命じて趙匡凝兄弟の襄陽・江陵を攻略させるが、淮南への進撃は大雨や糧道の困難で失敗し撤退する。
- 淮南の楊行密が病没し、子の楊渥が跡を継ぐ。
禅譲工作と蔣玄暉・柳璨の死
- 全忠は帝位簒奪を急ぐが、蔣玄暉・柳璨は手順を踏むべきと諫め、全忠を怒らせる。宣徽副使王殷はこれを機に玄暉・柳璨が唐室存続を図っていると讒言。
- 何太后も密かに玄暉に禅譲後の母子の安全を頼むが、これも王殷らに逆用され、全忠は玄暉を捕殺し遺骸を晒す。何太后も殺害され庶人に落とされる。柳璨・張廷范も後に処刑される。
羅紹威の魏博粛清と後悔
- 魏博節度使羅紹威は全忠の助力で跋扈する牙軍を一掃するが、全忠一行の長期滞在で莫大な物資を消耗し、「六州四十三県の鉄を集めても、この大きな過ちは鋳つぶせない」と後悔を語る。
潞州の帰順と禅譲の完成
- 全忠は滄州の劉仁恭を攻めるが、李克用が李嗣昭を送って潞州を奪い、丁会が河東に降る。全忠は魏州に戻り、羅紹威に唐室簒奪を勧められる。
- 御史大夫薛貽矩が全忠に臣礼を取り禅譲を勧め、昭宣帝は天祐四年二月の禅位を決定。宰相張文蔚・楊涉らが冊宝を奉じて大梁に赴き、全忠(名を晃と改める)は皇帝に即位、後梁を建てる。唐は二百八十九年で滅亡し、昭宣帝は済陰王に落とされ、後に鴆殺される。
唐末の情勢と結び
- 唐の旧領は梁・晋(李克用)・岐(李茂貞)・呉(楊渥)・蜀(王建)の五国、および呉越・湖南・荊南・福建・嶺南の五鎮などに分裂し、群雄割拠の時代となる。物語はここで一区切りとし、続きは『五代史演義』に譲るとして締めくくられる。
評語
- 本回は朱全忠の簒奪劇を一気に描き全書の結びとする。昭宗・何太后・昭宣帝の弑逆、大臣・諸王の大量殺戮など全忠の残虐は極まるが、崔胤・柳璨ら「賊臣」が狼を家に引き入れたことが招いた禍でもあると評す。
- 朱友恭・氏叔琮・蔣玄暉・張廷范ら全忠の爪牙も結局は全忠自身の手にかかって滅び、悪に与する者に幸いなしと断じる。
- 張文蔚・楊涉らが冊宝を捧げて禅譲を進めたことを恥ずべき行為とし、唐が禅譲によって国を得て禅譲によって国を失ったことに天道の巡り合わせを見出し、創業の慎重さを説いて締めくくる。