醉古堂劍掃巻六 景(自然の趣についての清言)(醉古堂劍掃 卷6 集景)

  • 序(集景第六の趣旨): 人はこの世で天下の秘書をすべて読み尽くすことはできず、目・口・耳があっても俗塵に覆われがちである。それを払う薬こそ「韻」の一字である。とはいえ香を焚き茶をすすんで清涼を口にしただけで自らを風雅に擬えるのは、念仏一つで極楽往生を語る田舎の老婆と大差ない、と自戒を込めて述べる。

庭と暮らしのしつらえ

  • 花の咲く道は曲がりくねり、雲がかかって水辺の入江も見えず、草深い小径には落ち葉が門扉を叩く。
  • 微風そよぐ岸辺で夕方の山が小舟を迎え、垂れ柳と残月のもと一江の春水が舟を送る。
  • 川沿いの草の色と橋、朝の三竺山の雨に舟の綱を引き、寺の傍らの花陰、六橋の霞に帆を張る晴れの日。
  • 田畑を閑歩すれば柳が風に揺れ、若苗が波打ち、農夫は歌いながら道具を担ぎ、牧童は牛の背に逆さに乗って笛を吹き続ける、野趣に満ちた光景。
  • 夜更け、童を連れて清流のほとりに立てば、鶴が鳴き魚が跳ね、その音は骨身に染み入るほど澄んでいる。
  • 小橋のたもと、紙窓竹屋で香を焚いて座し、道書を手にする。客が来れば粗末な茶器と飾らぬ清談のみ、日暮れに帰るまで俗世(馬蹄)を忘れる暮らし。
  • 理想の庭のしつらえを事細かに列挙する一節。門内の小径は曲がり、屏風は小さく、階段は平らに、花は鮮やかに、垣は低く、松は古木、石は奇怪な形、亭は質朴に、竹はまばらに、部屋は静寂に、道は分かれ、橋は険しく、樹は高く、草は青く、渠は細く、泉は滝となり、山は深く、家は方形に、圃は広く、鶴が舞い、客は俗でなく、酒は断らず、酔えば帰らぬ――という理想の隠棲空間の条件を連ねる。
  • 早朝、林の鳥が競って鳴き、春の眠りを覚ます。特に黄鸝や百舌の声の抑揚が心地よい。
  • 高い峰は雲に入り、清流は底まで澄み、両岸の岩壁は五色に輝き、四季を通じ青林翠竹が絶えない。朝霧が晴れれば猿や鳥が鳴き騒ぎ、夕暮れには魚が跳ねる。人間界にいながら仙境に等しいとし、六朝以来これほどの絶景を歌った者はいないとする。
  • 霞深い小径の先には杏の花咲く酒屋があり、澄んだ江に日が沈む先には柳を通して漁師の家に続く。

山里の暮らしと交遊

  • 長い松と奇岩に囲まれた集落は町から二十里ほど離れ、崖沿いの小道を水辺伝いに行くと数軒の家が寄り添い鶏犬の声が聞こえる。竹垣の草舎に住み、蘭や菊を植え、四季折々の趣に事欠かない。水辺には桃や梅を植え、下人たちも粗末な衣で薪水を担い、村酒を醸して飲む。机上には『荘子』『太玄経』『楚辞』『黄庭経』『陰符経』『楞厳経』『円覚経』など数十巻のみを置き、杖と草履で谷や大河を巡り、流水を聞き急流を眺め、澄んだ淵を鑑賞し、危うい橋を渡り、大樹の下に座り、幽谷を探り、高峰に登る――これに勝る楽しみはないという。
  • 晴れた日に南郊の野寺に出かけ酒を沽って飲み、半ば酔ったところで僧と雨花台に登り、長江の帆影や鐘山の紫の気を眺める。景趣が尽きぬほど目に迫る。
  • 一室を清め、博山炉で沈水香を焚くと、その煙が心の奥まで澄ませ、精神を集中させる。
  • 高い丘や奥深い谷を訪れ座して憩い、断崖の滝や老木の垂れ蔦、静寂な場所に一日中留まって帰るのを忘れる。
  • 良い日にはただ袖手して古人の詩を口ずさむだけで足りる。青山秀水は目にした瞬間に心を伸ばせるもので、垣根の内に囲い込む必要はないとする。
  • 柴の門は閉ざさず、簾は半ば巻き上げ、梁の間で燕がさえずり出入りする。山人はそれに合わせて詩を吟じ、互いにその性に適う。
  • 風の朝、月の夕、客が去った後には座禅の蒲団で過ごし、雲霧の島では興が乗れば竹杖一つで一人歩く。
  • 竹林の中の三本の小径に淡い日が差すのは野人の良き時、窓辺の書物に風雨が吹きつけるのは幽人の好む景色である。
  • 高い松十数株、竹千余本、青い蔦の垣、白石の小径、家の下を流れる水、軒に落ちる滝、池畔の柳と蓮――そこに住めば快い心地でないことはない。
  • 「人は花のために寂しさを覚え、湖は雨音を騒がしく受け入れる」という対句。

質素な暮らしの理想

  • 数間の家と数畝の田、盆を池に、甕を窓に見立てるほどの粗末さでも、綿入りの布団と粗食で満ち足り、心に妄想なく、足はみだりに歩かず、人とみだりに交わらず、物をみだりに受け取らない。伏羲・堯舜の書を手放さず語らい、和やかな友と楽しみ、自在な詩を吟じ、喜びの酒を飲む。太平の世に生き、健やかに長寿を保てば、それで十分だとする長い自足の弁。
  • 庭の蘭草が雪を消し、小さな庭の梨の花が雲のような夢を見る、という対句。
  • 江湖と霞を約束とし、心を同じくする友との集いを大切にする。時に閉じこもって読書に耽り、時に山水を訪ねて日を忘れる――これぞ賢人の淡い交わりであり、千年に一度の巡り合わせとする。
  • 岩や流れの傍らに身を寄せ、琴と書を伴に休らい、松竹に心を託し魚鳥を楽しみとすれば、淡泊な願いはそれで満たされる。
  • 庭先に花が咲くたび、読書に疲れては茶をすすりつつ眺め、香りと色に誘われて詩情が湧き、古詩を歌って興を遣る。
  • 静かな居室の設計として、前に梧桐、後ろに竹を植え、前は開放的に、北側は暗い窓にして冬春は閉め夏秋は開ける。梧桐は冬春に葉を落として日を通し、夏秋には茂って炎暑を遮る――四季それぞれに適した最良の配置だとする。
  • 三畝の庭に草木が茂る家では、客が来れば茶を煮て都の噂話や世間話をし、酒や茶が冷めても賓主とも気にせず、暇があれば草の小径を通って隣家の山谷まで訪ね合う。
  • 良い季節、暖かな春や涼しい秋に杖を持ち歩き逍遥する。池で魚を見、林で鳥を聴き、酒を酌み琴を弾き、数刻の楽しみを日々の終わりまで求める。数間の家を建て、槿の垣、茅の亭を結い、三畝には竹樹と花果を、二畝には野菜を植え、四方は簡素にし、山童に園の手入れをさせ、床几を亭の下に置いて書剣を伴とし、琴と碁で良友を待つ――これも老後の楽しみとする。

対句で描く四季と情景

  • 小径の陰は蛇のようにくねり、雲がかかると迷い、半ば宙に浮く楼閣は星を摘めそうなほど――という幻想的な情景。
  • 春の色は狂い咲く花と疎らな柳で彩られ、秋の趣は紅い蓼と白い蘋で装われる。
  • 南湖の水が引いても化粧台に映る明月は懸かり、西の城郭の霞が消えても閨の彩雲は散らない。
  • 秋の竹は砂の中で淡く、寒山寺は奥深い(対句、詩句を踏まえる)。
  • 「野は広く天は木より低く見え、澄んだ江には月が人に近づく」(孟浩然の詩句を踏まえた叙景)。
  • 淵の水は月の冷たさを宿し、松風は夜に秋の気配を帯びる。
  • 「春の山は艶やかで笑うがごとく、夏の山は青々として滴るがごとく、秋の山は明るく澄んで化粧するがごとく、冬の山は寂しく眠るがごとし」という四季の山容を描く名句。
  • 春の山は淡くもの憂げに笑うようで、空を舞う糸は軽やかに自ずと飛ぶ。
  • 盛夏、竹の下に榻を敷いて『離騒』を読み、木陰の風とセミの声に誘われてうたた寝し、目覚めて水を汲み茶を淹れれば爽快。庭を歩けば蓮の香り、魚が水面を跳ね、渓山の眺めが広がり、俗念がすっかり冷める、という夏の理想の一日。
  • 山あいの小さな家、竹林の奥、曲がった池のまわりに竹木と石を配し、その奥には古松が連なる丘陵、下には雑木と蔦。夜中には鶴の声が遠く澄み、時に猿の哀しい叫びが霜のように響き、都か山中か分からぬほどの静けさ。
  • 遠くに霞む万戸の町並み、緑の木々が流れるように広がり、見る者の心を洗い流す。
  • 澄み渡る空、晴れた千峰、山色は黛のよう、風は秋めき、靄は幕のよう、笛の音は鶴の声のよう――これほどの景色は見過ごすべきでないとする。
  • 山中の家に一張の古琴を置き、名品ではなくとも石の床でひとしきり弾けば、人気のない深山に水音と花が開くばかりで、清らかさこの上ない。
  • 密生した竹が雲を凌ぎ、木々が日を遮る奥に数間の家を建て、竹を垣とし、澄んだ流水で口をすすぎ盃を流し、歌えば心身がすっきりする(曲水流觴の趣)。
  • 冷え込む夜、寝付けず松竹の下を歩き回り、月と霜の下で李白「静夜思」を口ずさむと寒風を覚える。床に戻っても蒲団に座り、松の梢から月を眺め茶を煮て語らい、夜の楽しみを尽くす。
  • 雲や雨が急変する荒天から一転、黄昏に灯火がまたたく静けさへ移り、夜半には松濤や芭蕉の音が響き、愁いと楽しみが入り混じる幽趣を描く。
  • 一面の雪景色、千峰が玉のよう、鴉が舞い万壑が銀色に輝く様を絵に描き、雪を眺めつつ松酒と茶を楽しみ、囲炉裏で芋を焼いて満足し、雪景色を一幅描いて僧に贈る。
  • 夕日の中の孤帆、渚に帰る雁の群れ、秋風の寂寥を経て一夜で露が白く冷える。深山の澗水の周りには断崖と老猿が棲み、古松には鶴が来て止まる。霜の朝には猿の長い叫びが響き渡り、聞く者を悲しませる(酈道元の描写を踏まえた叙景)。
  • 春雨のあと洗われたような庭園、麦の波と湖水の靄が重なり合う緑一色の景色に、杖をついて歩けば長年の俗塵が洗い流される心地がする。
  • 四月には筍・新茶・新豆・さくらんぼが出そろい、緑陰と鳥の声、晴れたり降ったりの気候の中で半ば酔い半ば醒めた心地は、まるで鶴の背から舞い降りたようだとする。
  • 竹に刻む名や、渭水のほとりの雲、梧桐にもたれる怠さ、鬱林の石の夢――そうした風雅な逸話や典故を連ねる一節。
  • 夕日の林で芭蕉の葉が落ち鹿が眠り、雪の炉端で茶の煙がたなびき鶴が避ける、という対句。
  • 客が去った広間に風が吹き入り、扉は開けたまま簾も下ろしかけ、獅子の香炉や龍馬の文様の脇息を眺めながら雲や濠上(荘子の故事)に心を遊ばせる。
  • 山は秋を経てより淡く、秋は山に入ってより清らかになる。
  • 山住まいの心得は四つ――樹木は列を作らず、石は配置を整えず、家は広壮にせず、心にたくらみを持たないこと。
  • 花には喜び・怒り・目覚め・眠り・朝・夕の趣があり、花に水をやる者はその時を心得るべきとし、薄曇りの日や夕月は花の「朝」、荒れた長雨や酷暑・厳寒は花の「夕」、日を浴びて風をはらむ様は花の「喜び」、霞んで色定まらぬ様は花の「愁い」、枝がしなだれる様は花の「夢」、艶やかに光る様は花の「目覚め」に喩える。
  • 海辺の山は霞んで見え隠れし、川沿いの山は厳しく切り立ち、渓谷の山は奥深く静か、辺境の山は赤裸の丘、桂林の山はゆるやかに連なり、江南の山は険しく巧美――地域ごとに異なる山容を述べる。
  • 世を避けて門を閉ざせば俗事は寄りつかず、春昼の花陰に猿や鶴が満ち足りて眠る夢もまた仙境の余薫とする。
  • 白雲が一日中漂い去らず、岩間の泉が書斎に潺々と流れる。春昼・秋夕の清幽な趣は隠者の楽しみそのもので、いつか消えてしまうのを惜しむ。
  • 僧たちと林の岩に座って因果や公案を語り合い、やがて松の梢に月が昇れば衣を払って立ち、木陰を踏んで帰る――この一日は無駄に過ごしたのと同じだと戯れに言う。
  • 小径に庵を結び山陰に杖を立て、林や霞に心を寄せ、丹桂の陰、白茅の敷物、濁り酒一杯、琴数曲があれば十分に楽しいとする。
  • 輞川の水面のさざ波が月と共に上下し、遠くの山火事が林の外に明滅し、深い路地の犬が豹のように吠え、村の夜の脱穀の音が疎らな鐘の音と交わる――独り座して童僕も静まり返る情景(王維の輞川を踏まえる)。
  • 東風が柳の芽を開き、黄鳥が桃の実をついばみながら鳴く、という対句。
  • 雪晴れの長松のもと、窓を開けて独り座せば氷の壺の中にいるかのよう。夕陽の芳草の中、杖をついて吟じながら歩けば絵の中を行くかのよう。
  • 小窓の下では篁がざわめき野鳥が悲しげに鳴き、断崖には酔って書いた墨跡が淋漓とし、山の霊がそれを守るという。
  • 霜の林の紅葉、秋の水の白い蘋(対句)。
  • 雲が晴れれば悠然と共に遊び、雨が滴れば清々しさを分かち合い、鳥が啼けば喜びの心が通じ、花が散れば清々とした悟りがある。
  • 千竿の竹が半畝の池を囲み、一片の白雲が五株の垂柳を覆う。山荘の深い秋には野鶴が残夜の月に鳴き、江辺の春の暮れには杜鵑が花を散らす風の中で啼き止む。
  • 青山は僧がいてこそ趣が完成し、緑水は舟がなければ一層静か。朱塗りの門は客があってこそ尊く、墨染めの衣(僧)は食が絶えてこそ風情が増す。
  • 杏の花に降る小雨、柳を渡る軽風――興が乗れば独り出かけ、村の靄と砂浜の月影の中、歌い終えればふらりと帰る。
  • 花を愛で酒に酔い、庭の菊が浮かぶ酒を三杯、目覚めて月を問えば庭の梧桐の第二の枝にかかっている――この時この興も浅からずとする。
  • 数羽の烏が緑の木々に帰り、一列の雁が青空を截り分ける(対句)。
  • 雨上がりの山を見れば色が一新して一層美しく、江に映る月を眺めれば波光千頃でいっそう輝きを増す。
  • 楼台に落日、山川に雲が湧く(対句)。
  • 玉樹の並ぶ長廊は半ば陰り、金陵の水面に映る影はなお赤い、という情景。
  • 小窓に横たわれば月影が寝床にまで届き、梧桐や柳に揺らめき、翠の帳に体を包まれ心身が仙人のよう。竹林から流れ来る様は、まるで青い雲から生まれ出たかのよう。
  • 澄んだ月光は仙女の環佩を思わせ、心は羽衣の逸士のもとへ運ばれる。良夜には故人を偲び独り清らかに口笛を吹く。
  • 雪を描く者もその清らかさは描けず、月を描く者もその明るさは描けず、花を描く者もその香りは描けず、風を描く者もその音は描けず、人を描く者もその情は描けない――芸術の限界を述べる一節。
  • 読書は楼で行うのが良く、五つの快がある。訪問者に驚かされない、遠くを眺められる、床が湿らない、梢の鳥と語らえる、雲霞が軒に宿る、の五つ。
  • 山道は幽深で十里の松並木が道案内をしてくれ、権門(金氏・張氏)に頼る必要はない。俗事に絡め取られても一巻の書物が人を癒し、名医は要らないとする。
  • 世俗を離れた広々とした境地を喜び、人間世界の窮屈さを嘆く。仙境の客や蓬萊の故人に出会うことを願う。
  • 梧桐に寄りかかって杖をつくこともあれば、毛皮を着て薪を背負うこともある――両様の暮らしを述べる。
  • 仙境の田を出て畝を数え、桃源郷に入って渡し場を尋ねる。両岸の菊、丘の松籟、葉が動けば猿が来、花が驚けば烏が去る――丘壑の新しい趣を味わい、江湖への昔ながらの心を存分に満たす。
  • 垣のそばで杖と履で僧を見送れば花のつぼみが頭巾の端に留まり、岩の上で酒杯を持って客と座せば松の実が衣にこぼれ落ちる。
  • 遠くの山は秋に、近くの山は春に、高い山は雪に、平らな山は月にそれぞれ似合う。
  • 真珠の簾が月を遮っても、その隙間から窈窕たる花を覗き見、綺羅の帳が雲を隠しても、生い茂る柳を妨げるのを恐れる。
  • 松の実を食とし、菖蒲の根を口にする隠者の食生活。
  • 霞が色を潤し、香草が芳香を結ぶ。谷から出れば泉は冽たく、山門に入れば松は涼しい。
  • 朝日が暖かくなり始めれば蕙草が織れるほどに茂り、庭の桃は紅く点じ、流水は碧色に澄む。
  • 窓を過ぎる飛花を眺め、柳に入る春風を見る。時に高く舞い隠れ、時に空に舞い上がる。
  • 竹は窓辺で影を弄び、蘭は風に乗って香りを送る。風はしばし下りて漂おうとし、霞は高く昇ってもなお暮れない。
  • 揺れる緑柳は合浦の珠が戻るような再会を思わせ、青空を巡る煙は五星を巡る一気のようだとする。
  • 刺繍の褥は細やかな織物から生まれ、霞は灌木や草むらから立ち上る、という結びの一節。