晉書卷四十九 列傳第十九 劉伶

劉伶

  • 劉伶、字は伯倫、沛国の人。身長6尺、容貌は甚だ醜かった。放縦に生き、常に宇宙を小さく万物を等しいものと見なす境地を心とした。物静かで寡黙、みだりに交わらなかったが、阮籍・嵇康と出会うと打ち解けて手を取り林に入った。家産の有無を全く気にかけなかった。常に鹿車に乗り酒壺を携え、従者に鋤を担がせて「死んだらそのまま埋めてくれ」と言ったという、その形骸を超越した生き方はこのようであった。かつて渇きに苦しんで妻に酒を求めたところ、妻は酒を捨て器を毀して涙ながらに「あなたの飲酒は過ぎており養生の道に反する、断つべきです」と諫めた。伶は「その通りだ、しかし自分では止められないので、鬼神に誓いを立てるしかない、酒肉を用意してくれ」と言い、妻はこれに従った。伶は跪いて「天は劉伶を生み、酒をもって名とした。一飲一斛、五斗で酔いを醒ます。婦人の言葉など聞くべきでない」と祝詞を唱え、そのまま酒肉を口にして再び酔い伏した。酔って俗人と諍いになり相手が腕まくりして殴りかかろうとした際も、伶は「鶏の肋骨のような痩身では、貴殿の拳を受け止めるに足りません」と静かに応じ、相手も笑って収まった。
  • 伶は酔い痴れた振る舞いながら機転は狂わなかった。文章にはほとんど手を染めなかったが『酒徳頌』一篇のみを著した。
  • 内容は、天地を一朝、万年を須臾とみなす大人先生が、行くに轍なく居るに室なく、天を幕とし地を筵として意のままに生きる様を描く。貴公子や搢紳の士がその噂を聞いて礼法を説き非難しても、先生は甕を抱え杯を口にし無心に楽しみ、寒暑も利欲の感情も意に介さず、万物を浮草のように眺め、傍らの二人の豪傑(貴公子ら)を蜾蠃(じがばち)と螟蛉(青虫)のような取るに足らぬ存在と見なす、という趣旨である。
  • かつて建威参軍を務めた。泰始の初め対策(官吏登用試験)に応じ無為の教化を盛んに説いたが、同輩がみな高位を得た中、伶だけは無用として罷免された。ついに天寿を全うした。