輿服志の趣旨
- 遼太祖は北方より起こり、太宗がその志を継いで渤海を滅ぼし、後晋の石重貴を破って、周・秦・両漢・隋・唐の文物の遺産をことごとく手中に収めた。以後、車輅(天子の車)や法物、金符・玉璽による号令の制度を備え、九代・二百余年続いた遼の統治は、兵馬の強さだけでなく、儀礼(儀)と武備(衛)を兼ね備えた規模の大きさによるものであった。
- 遼が保有した輿服・符璽・儀仗を考証し、儀衛志としてまとめる。
輿服(総論)
- 皇帝以下の輿服の制度は古くから存在し、禹は四種の乗り物を、商人は桑根の瑞祥から大輅を作り、周人はこれに金玉の飾りを加え、秦は六国の儀物を取り入れて用途ごとに分けた。漢代には礼文の実質は失われ、唐代には周・隋の遺法をもとに車輅の制が整えられ、祭服は青、朝服は絳(赤)、常服は宇文氏の制により紫・緋・緑・碧で品秩を分けた。五代では常服が朝服に代わることが多かった。
- 遼国では太宗が晋に入って以降、皇帝と南班の漢官は漢服を、皇太后と北班の契丹臣僚は国服を用いた。漢服は五代・後晋の遺制である。文献に徴しうる限りを輿服篇にまとめ、儀衛の巻頭に置く。
国輿
- 契丹の旧俗は鞍馬に便利で水草を追って移動するもので、荷を運ぶ氈車(フェルト張りの車)、婦人が乗る大車・小車があり、富貴な者は華美な飾りを加えた。禁制は緩やかで、身分に応じて使い分けられた。以下、知り得る限りを記す。
- 大輿:柴冊儀・再生儀に用いる。神主を載せる際に見える。
- 輿臘儀:皇帝・皇后の升輿・降輿の際に用いる。
- 総纛車:御駝で牽き、祭山儀で皇太后が総纛車に乗る。
- 車納后儀:皇后が車に乗る際に用いる。
- 青幰車:螭頭の蓋を二つ持ち、すべて銀で飾る。駝で牽く。公主の降嫁の際に賜る。古の王姫の下嫁で車服が夫の身分によらず王后より一等下げたのと同じ意である。
- 送終車:車楼を錦で飾り、螭頭を銀で作り、下に鐸を垂らし、後ろに大氈を垂らす。牛で牽き、上に羊一頭(祭羊という)を載せて葬送に用いる。これも公主に賜る。
- 椅冊:皇太后儀で、皇帝が椅に乗って便殿から西便門まで運ばれる。
- 鞍馬:祭山儀で皇帝が馬に乗り皇太后に随行する。臘儀では皇帝が輿を降り、祭事の後に馬に乗って囲猟に入る。色克色哩儀でも皆馬に乗り、東行する際は群臣が南、命婦が北に位置する。
漢輿
- 太宗の会同元年、後晋の使者馮道・劉昫らが車輅・法物を備えて皇帝・皇太后の尊号冊礼を上った。これ以降、天子の車服が遼に見えるようになった。太平年間の漢式冊礼では、乗黄令が車輅を並べ、尚輦奉御が輿輦を並べた。盛唐の輦輅がすべて遼廷に備わることとなった。
- 五輅(周官の典輅に定める五種の輅。秦の焚書で失われ、漢代に新たに作られた)
- 玉輅:天を祀り地を祭り宗廟に享り、朝賀・納后に用いる。青質玉飾、黄色の屋根、左に大纛を立て、十二の鑾を衡に、二つの鈴を軾に付ける。龍輈の左に旂を建て十二の斿はすべて昇る龍を画き、地に届くほど長い。蒼龍を駕し、金の㚇(くつわ)・鏤錫・鞶纓十二就。遼国の勘箭儀では皇帝が玉輅に乗って内門に至る。聖宗の開泰十年には玉輅に乗って内三門から入り、万寿殿で七廟の御容に酒を進めた。
- 金輅:饗射・祀還・飲至に用いる。赤質金飾で、他は玉輅と同じだが色は質に従う。赤騮を駕す。
- 象輅:行道に用いる。黄質象飾で、他は金輅と同じ。黄騮を駕す。
- 革輅:巡狩・武事に用いる。白質で革を鞔し、白翰を駕す。
- 木輅:田猟に用いる。黒質漆飾で、黒駱を駕す。
- 車制(輅より小さく、小事に乗る)
- 耕根車:耕籍(親耕)に用いる。青質、蓋は三重、他は玉輅に同じ。
- 安車(一名進賢車):臨幸に用いる。金飾・重輿・曲壁、八つの鑾を衡に付け、紫油纁・朱裏・幰は朱糸の絡網。赤騮を駕し朱鞶纓。
- 四望車(一名明逺車):拝陵・臨弔に用いる。金飾青油纁朱裏で通幰、牛を駕す。他は安車と同じ。
- 涼車:省方・罷猟に用いる。赤質金塗銀装、五彩の龍鳳を織った藤で編み、油壁緋絛蓮座で、槖駝(らくだ)で牽く。
- 輦(人が挽く、宮中で乗るもの。唐の高宗が初めて七輦を制した。周官の巾車にも輦がある。人が組んで挽く。太平の冊礼で皇帝は輦に乗る)
- 大鳯輦:赤質、頂に金の鳳、壁に雲気を描き、金翅、前に軾、下に構欄、絡帯にはすべて雲鳳を繡う。銀の梯。輦を担ぐ者は八十人。
- 大芳輦
- 仙遊輦
- 小輦:永寿節儀で皇太后が乗る。
- 芳亭輦:黒質で幕屋、緋の欄にすべて雲鳳を繡い、朱緑の夾窓花板、紅の網、両側に簾、四本の竿、銀飾りの梯。輦を担ぐ者は百二十人。
- 大玉輦
- 小玉輦
- 逍遥輦:常用のもの。棕(しゅろ)の屋根、赤質金塗銀装、紅絛。輦官十二人。春夏は緋衫、秋冬は素錦の服。
- 平頭輦:常行用。制は逍遥輦に同じだが屋根が無い。承天皇太后を冊立する儀で、皇太后が平頭輦に乗る。
- 歩輦:聖宗の統和三年、土河に駐蹕した際、歩輦に乗って政務を聴いた。
- 羊車:古の輦車。赤質、両壁に亀文と鳳翅、緋幰・絡帯・門簾すべて瑞羊を繡い、輪を画く。牛を駕す。隋では果下馬に易え、童子十八人が瑞羊の服を着てこれを挽いた。
- 輿(人が肩に担ぐもの。天子は韝で臂を絡げて用いる)
- 腰輿:前後に長竿各二本、金銀の螭頭、緋の鳳襴を繡い、上に錦の褥を敷く。別に小床を設け、担ぐ者は十六人。
- 小輿:赤質青頂、曲柄、緋の絡帯を繡う。形は鳳輦に似るが小さく、上に御座がある。担ぐ者は二十四人。
- 皇太子車輅
- 金輅:従祀享・正冬の大朝・納妃に用いる。皇太子の冊立儀では乗黄令が金輅を並べ、皇太子はこれに乗り降りする。
- 軺車:五日に一度の常朝、宮臣が出入りする際に用いる。金飾、紫幰朱裏、馬一頭を駕す。
- 四望車:弔臨に用いる。金飾紫油纁通幰、馬一頭を駕す。