列女傳卷三 魯臧孫母

齊への使者行きをめぐる戒め

  • 臧孫母は魯の大夫臧文仲の母である。文仲が魯の使者として齊へ赴くことになったとき、母は送り出しながら「お前は厳しく情がなく、人の力を使い尽くすことを好み、人を威圧して追い詰める。魯国はもうお前を受け入れないだろうから、齊へ行かせるのだ。悪事が起きるときは、必ず何か変事に乗じて起こるもの。お前を害する者は、この機に事を起こすかもしれない。よく気をつけなさい」と戒めた。
  • さらに「魯と齊は国境を接する隣国です。魯の寵臣には、あなたを恨む者が多く、そのうえ齊の高子・国子とも通じています。彼らは齊を動かして魯を図らせ、あなたを拘留させようとするでしょう。留め置かれれば、逃れるのは難しい。あなたは必ず恩恵を施し、人望を得てから出発しなさい」と続けた。
  • そこで文仲は三家(三桓)に身を託し、士大夫に厚く接してから齊へ赴いた。齊は果たして文仲を拘留し、兵を興して魯を襲おうとした。
  • 文仲はひそかに人を遣って魯公へ書状を送ったが、書状が齊に奪われることを恐れ、わざと文言をわかりにくくして「小さな器物をしまい、台に投げ込め。猟犬を飼い、羊裘を組め。琴の合奏、それをひどく思う。我が羊を飼え、羊には母がいる。我に同魚を食わせよ。冠の紐は足りないが、帯は余っている」と記した。
  • 公と大夫たちはこれを議論したが、誰も意味を解せなかった。ある人が「臧孫母は世家の出身です。なぜ召して尋ねないのですか」と進言した。
  • そこで召して「私はお前の子を齊へ使いに出したが、このような書状を寄こしてきた。何のことか」と尋ねると、臧孫母は襟を涙で濡らしながら「わが子は拘留されて木の枷をつけられているのです」と答えた。
  • 公が「なぜわかるのか」と問うと、母は「『小さな器物をしまい、台に投げ込め』とは、城外の民を城中に入れよということです。『猟犬を飼い、羊裘を組め』とは、戦闘に備えて兵士をもてなし武具を整えよということです。『琴の合奏、それをひどく思う』とは、妻を思うことです。『我が羊を飼え、羊には母がいる』とは、妻に母をよく養うよう告げているのです。『我に同魚を食わせよ』の同は文字が誤っており、正しくは錯(やすり)で、鋸を研ぐ道具、鋸は木を加工する道具です。つまり木の枷をつけられて獄に囚われているということです。『冠の紐は足りないが、帯は余っている』とは、髪が乱れて梳ることもできず、飢えて食べることもできない有様を示しています。だからわが子が拘留され、木の枷をつけられているとわかったのです」と説明した。
  • そこで臧孫母の言葉をもとに、魯は国境に軍を出した。齊はちょうど兵を発して魯を襲おうとしていたが、国境に魯の軍がいると聞き、文仲を帰して魯を討たなかった。君子は「臧孫母は物事の兆しを見抜き先を見通す力があった」と評した。

史論

  • 『詩経』に「あの丘に登り、母のいる方を遠く望み見る」とあるが、まさにこのことである。
  • 頌に曰く、臧孫の母は子が威圧を好むことを咎め、必ず害に遭うと見て、頼るべき援助の道を用意させた。三家に厚く接してから、果たして齊に拘留されたが、母がその書状を解いたことで、子はついに帰ることができた、という。