民國演義第一二七回 醋海波多くして大員尾を曳き、花魁独占し小吏頭を出す (醋海多波大員曳尾 花魁獨佔小吏出頭)

陸錦の面目丸潰れ

劉喜奎に会うことすら拒まれた陸軍次長陸錦は、腹立ちまぎれに「自分は姑娘の将来の夫だ」と使用人に怒鳴りつけて奥へ踏み込もうとする。使用人は取り繕って喜奎に取り次ぎ、ようやく喜奎が不機嫌そうに現れる。喜奎は「私は誰の身内でもない、あなたに心配される筋合いはない」と辛辣に皮肉を浴びせ、陸を並みいる使用人の前で恥をかかせる。

喜奎の反撃と陸錦の言い訳

陸錦がしどろもどろに弁解すると、喜奎はさらに「国のために功を立てるならまだしも、私のような芸人相手に色気を出すとは」と痛烈に諭す。陸が「曹三爺に献上する形になったのは自分の落ち度だ」と詫びると、喜奎は「私は誰に養われようと私の勝手、あなたが曹三に贈ったわけではない」と話をはぐらかし、陸は言葉に窮する。そこへ天津の劇場関係者が来訪し、喜奎はそれを口実に陸を残して席を立つ。

情敵・崔承熾の存在

陸錦は喜奎の態度から情敵の存在を疑い、懇意の警察官李某に内偵させる。その結果、喜奎の本命は内務部の下級官吏・崔承熾であることが判明する。財力でも地位でも自分が勝るはずなのに、なぜ喜奎が崔を選ぶのか、陸は悶々と思い悩む。

喜奎の天津行きと陸錦の失望

喜奎が天津公演に発つ際、陸錦の同行を拒み「大官たるもの、私のために評判を落とすな」と諭す。かつて北京大学生が喜奎に横恋慕して騒動を起こした逸話(頬に接吻し五十元の罰金を科された話)も紹介される。結局、喜奎は崔承熾に見送られ、堂々と天津へ同行して行った。陸は蚊帳の外に置かれる。

崔承熾の増長と醜聞の拡散

以後、喜奎は陸錦への態度をますます冷たくし、崔承熾への愛情を深める。崔は喜奎から贈られた金品や上等な服で羽振りが良くなり、ある時「陸次長から贈られた」と得意げに口を滑らせたことから同僚の妬みを買い、噂は瞬く間に広まった。これは陸錦の面目を潰す結果となり、彼は崔を厳罰に処すべきか、喜奎の心証を損ねぬよう庇うべきか板挟みになって思い悩む。

陸錦の意趣返しの策

見かねた同僚の司長が一計を授け、陸錦に保定へ赴いて曹錕に「自分は喜奎に懸想などしていない、悪いのは崔承熾という若造が喜奎を誑かしている」と讒言させる。曹錕はこれを聞いて嫉妬と怒りを覚える。

崔承熾の逃亡と喜奎の結婚

曹錕は国務院に崔承熾の処罰を求めるが、崔はいち早く察知して逃亡、喜奎とともに天津へ向かったとの報が入る。結果としてこれが二人の正式な結びつきを後押しする皮肉な展開となり、望みを絶たれた陸錦は落胆のあまり血を吐く。

評語

経略使や陸軍次長ほどの大官が、一人の女優をめぐって下級官吏に敗れたことは、当人たちにとって外交や国事以上の屈辱と映ったであろう。しかし真の英雄・佳人というものは、まず国民への深い情があってこそ恋情も生きるものである。曹・陸は国事を顧みず声色にふけった点で、その「多情」は名ばかりの色欲に過ぎない。喜奎が二人を軽んじ、貧しい書生と添い遂げようとしたのは、むしろ喜奎の見識の高さを示すものである。