民國演義第四十六回 情脈脈として洪姨甘言を進め、語詹詹として徐相苦口を陳ぶ (情脈脈洪姨進甘言 語詹詹徐相陳苦口)

籌安会の勢い

  • 羅文乾辞任後も帝制の機運は高まり、楊度ら六人は「籌安六君子」と呼ばれ得意満面である。
  • 実際には袁世凱・袁克定父子が背後で操っており、籌安会はその意を受けて動いていたことが語られる。

洪姨太の暗躍

  • 袁の正室・於氏(克定の生母)は端正な人物で、克定が帝位継承を勧めても叱責し、袁にも忠告する。
  • 説得に窮した克定は第六妾の洪姨太(宋案の黒幕・洪述祖の妹)に接近する。洪女はもと洪述祖が失脚を免れるために袁へ献上した美女で、機知と話術で袁の寵愛を独占していた。
  • 克定は洪姨太を「母」と呼び、跪いて自分が帝位に就いた暁には皇太后として遇すると約束し、帝制実現への口添えを頼み込む。
  • 洪姨太は袁との閨房でさりげなく漢高祖・明太祖の故事を持ち出し、「布衣から起った彼らでさえ帝位に就いたのに、あなたほどの権勢を持ちながらなぜ人任せにするのか」と誘導する。

楊度への内命

  • 袁は楊度を呼び、共和制の維持は難しいとほのめかし、帝制の準備を促す。楊度は日本の干渉や資金の不足を懸念しつつも従う姿勢を見せる。

洪姨太の万歳

  • 洪姨太は袁の前で跪いて「万歳」と呼びかけ、清朝からの権力継承の正当性、共和政の失敗、対外情勢が今こそ好機であることを弁じ立て、袁を大いに喜ばせる。

資金と反対の動き

  • 楊度は袁から活動資金二十万両を受け取り、籌安会の活動を本格化させる。賀振雄はかえって籌安会に雇われ、変節を遂げる。
  • 一方で谷鍾秀・徐傅霖らの共和維持会、周震勛・鄒稷光らの治安会、古伯荃・梁覺らの意見書など、反対の動きも各地で起こる。

嚴修・張一麐の諫言

  • 袁の旧友・嚴修は帝制の動きに落胆し、直談判で解散を求める。袁は一度は応じる素振りを見せるが、翌日の面会は洪姨太の差し金と思われる形で拒まれ、嚴修は失望して辞職する。
  • 機要局長・張一麐も孟子の「天与人帰」を引いて拙速な帝制を諫めるが、袁は「名誉と道徳の観点から帝位には就かない」と偽って言い含め、張一麐はこれを信じて周囲に袁の潔白を説いて回ってしまう。

徐世昌の探り

  • 肅政史・莊蘊寬らは国務卿・徐世昌の真意を探るが、徐は言葉を濁すのみ。
  • 徐は袁のもとを訪ね、共和と君主のいずれが良いかを率直に問う。袁ははぐらかしつつも本音をにじませ、籌安会について「大した問題ではない」と弁護する。
  • 徐は段祺瑞ら側近にも疑念が広がっていることを伝え、明確な態度表明を求めるが、袁は段祺瑞への不満を露わにし、話を打ち切って徐を退出させる。この会見が引き金となり、後に段祺瑞は陸軍総長を退くことになる。
  • (詩:長年の友誼も梟雄の顔色伺いには及ばず、項城〈袁〉を王莽・曹操になぞらえ、その野心が謙譲にはほど遠いと詠む)

評語

  • 歴代の元首が破滅する原因はしばしば身内の女性にあり、閨房の甘言は最も人の判断を狂わせる。洪姨太の巧言は袁の野心に火をつけ、以後は忠言耳に逆らい、腹心の徐世昌の諫めすら届かなくなった。著者は洪姨太の言葉を克明に描くことで、甘言がいかに人を誤らせるかを示している。