- 要旨: これまでの号令が多岐にわたり兵が戸惑いかねないため、あえて別立てで緩急をつけた禁令を説く篇。著者はこれを旗鼓号令に続く第四篇として位置づけ、平易な口語で兵に直接語りかける形をとる。
静粛の絶対原則
- 軍中で最も大事なのは私語・喧嘩の禁止であるとし、進退はすべて旗と金鼓による号令に従うべきで、無許可で口を開いた者は重く処罰する。夜間は特に厳禁とする。
逃亡と宿営の規律
- 逃亡者が出れば同隊の者を捕らえ拘束し、見つからなければ一年間拘留の上、俸給を差し引き新たに募兵するとする。
- 出征先では一隊十二人を必ず同じ家に宿営させ互いに監視させる、哨は一街、営は一区画に限り混在させない、行軍中に順番を乱して先んじたり離脱したりすることを禁じるなど、居住・行軍の秩序を細かく定める。用便も同隊の一人が付き添い二里以上離れないよう定める。
営門の出入り管理
- 陣営は民家の垣根と同じであり、門を通さず勝手に出入りする者を許してはならないとする。行軍中に他の兵馬や無関係の者が列に紛れ込むことも固く禁じ、敵の間諜による欺瞞を防ぐためだと説く。故意に見逃した場合は軍法で厳しく処すとする。
伝令の中継方式
- 三千人が一列で二、三十里を行軍する際、情報を確実に伝えるための中継法を定める。簡潔な二、三語の伝言を隊長が大声で次々に中継し、末端まで届いたら「承知した」と逆方向にも中継して確認する。途中で誤りがあれば元に戻して伝え直し、伝達を怠った者は軍法、それにより軍機を誤らせた者はさらに重く処す。関係のない兵が伝言に口を挟むことも禁じ、私語する者は耳を削ぐとする。
賞罰の公平
- 賞罰は軍中の要であり、私怨のある相手でも功があれば賞し、逆に我が子や甥であっても軍令違反は法どおり処すべきとし、私情を挟まないと明言する。
武芸を学ぶ意義(口語での説諭)
- 武芸は役所への義理立てではなく、自分の命を守り功を立てるための「骨身に貼りついた」実利であると説く。武芸に優れれば敵を殺せるが、劣れば自分が殺されるだけであり、学ばないのは命を粗末にする愚か者だと厳しく諭す。
- 官の俸給・褒賞・刑罰を受けながら、自費で武芸を習うより遥かに得だと説き、これまで規律も号令もなく先陣・退却を区別する仕組みがなかったために兵が油断していたが、今や連座法と号令が明確になった以上、逃げ場はないと迫る。
- 甲冑を着ていれば一撃を受けても命は助かり反撃できるが、甲冑がなければ即死する道理を説き、よく考えるよう促す。
- 火兵の中でも武芸に励む者は昇進させ、怠惰な者は交代させる月例の査定制度を設けるとする。
民との関係(口語での説諭)
- 兵は賊から百姓を守るために集められたのであり、略奪・破壊・殺傷をすれば百姓は賊と兵を区別せず恐れて門を閉ざすと戒める。
- 昨年、台州へ向かった際に統制の効かない兵が沿道の民を害し、宿や炊事にも苦労し、民の訴えで多くの将兵が処罰された実例を挙げる。
- 今年は宿営地・炊事係の手配・行軍の号令が整い、民が進んで豚牛を潰し酒米を用意してもてなすまでになったとし、暑さの中千里を行軍しても一度も兵を鞭打つ必要がなかったことを、兵民双方にとっての利益として示す。
民間への加害の厳罰
- 古の将が、雨の日に民の笠を鎧覆いに借りただけの兵を斬った故事を引き、まして樹木の伐採、田畑の踏み荒らし、放火、強姦、盗み、戦死者の首の奪取、捕虜の男の殺害・女性への暴行、さらには平民を殺して賊の首級と偽ることなどは天理にも王法にも許されず、発覚すれば軍法により命で償わせると宣言する。
号令への絶対服従(口語での説諭)
- これまで号令がなおざりにされ、賞も罰も心に響かなかった実態を認めた上で、今後は自分の発する言葉はすべて軍令であり、たとえ誤りがあっても撤回しないと言い切る。
- 号令・金鼓・旗指物には従い、恐れるべきであり、後から融通を求めたり将が命令を撤回することを期待したりしてはならないと戒める。岳飛の軍が「山は動かせても岳家軍は動かせない」と称された故事を引き、将令を畏れ号令を守ることこそ将も兵も功を成す道であると説く。
- 平時の美辞麗句を信用せず、実戦での働きこそが真価を示すと結ぶ。
替え玉入隊の禁止
- 名を偽って操練に加わる替え玉行為を禁じ、本人・替え玉ともに軍法で処罰し、雇った者の俸給の半分を代役に分け与えるとする。
軍の秩序を家族に喩える説諭
- 兵にとって甲長は戸長、隊長は里長、哨長は父母官の代わりであり、教える者は皆師にあたると説く。世に里長・老人に管理されない民がいないように、軍にも隊哨長に管理されない兵はいないはずだとし、哨隊長への反抗や教練への不服従は、民が里の秩序に背くこと以上に重い罪であり、軽くて棍打ち、重ければ斬首に至ると諭す。
俸給への責任
- 風雨の日に何もせず座っていても日々の俸給は受け取れるが、その銀はすべて故郷の百姓が納めたものであると自覚を促す。自身がかつて田畑を耕した苦労を思い起こし、耕作の苦労なしに得られる俸給の恩に報いるべく、賊を討ち民を守ってこそ養われた甲斐があるとし、それを怠れば軍法を逃れても天罰が下ると結ぶ。