- 要旨: 拳法(徒手格闘)は大戦の技そのものではないが、手足を活発にし体を慣らす武芸入門として、余力があれば武門で学んでおくべきだとし、選りすぐりの三十二の型を歌訣とともに記す篇。
拳法の位置づけ
- 拳法は大戦の実戦技とは直接関わらないが、身法・手法・足法を鍛える入門として役立つため付記すると述べる。
- 身のこなしは活発に、手さばきは機敏に、足さばきは軽やかに堅実に、進退を適切に、脚は飛び跳ねるほどに、という理想を掲げる。
- 妙技は「顛起倒插(跳んで倒れて差し込む)」、猛技は「披劈横拳(斬り開き横に打つ)」、速技は「活捉朝天(素早く捕らえ天を仰ぐ)」、柔技は「斜閃を知る(斜めにかわす)」ことにあるとする。
- 三十二の型を選び、型と型が連なり、敵に応じて無限に変化し、その妙は測りがたく、これを「神」と呼ぶとする。
- 「拳打不知(拳は相手に知らせず打つ)」は電光石火の意であり、「招架せねばそれで済むが、招架すれば十倍返しが来る」という要訣を引く。多くを学び広く記憶することで勝ちを収められるとする。
諸流派の概観
- 宋の太祖に伝わる三十二勢長拳のほか、六歩拳・猴拳・化拳などがあり、それぞれ名称は違えど大同小異であるとする。
- 温家の七十二行拳・三十六合鎖・二十四棄探馬・八閃番・十二短、呂紅の八下(剛勁だが綿張の接近戦には及ばない)、山東の李半天の脚技、鷹爪王の関節技、千跌張の投げ技、張伯敬の打撃、少林寺の棍と青田棍法、楊家槍法と巴子拳棍など、当代の名手とその得意技を列挙する。
- どの流派も上段のみ・下段のみに偏りがちだが、常山の蛇陣(頭を打てば尾が応じ、尾を打てば頭が応じる)のように各流派を兼ね学べば、上下万全でどんな相手にも勝てると説く。
- 拳・棍・刀・槍・鈀・剣・戟・弓矢・鉤鎌・挨牌など、あらゆる武芸に先立って拳法があり、身体を活発にする拳法こそ武芸の源であるとする。
- 学んだ武芸は必ず実戦で試すべきであり、勝敗そのものを恥じたり誇ったりせず、なぜ勝ちなぜ負けたかを考え、繰り返し試すことが肝要だとする。「敵を恐れるのは技が浅いから、善く戦うのは技が精妙だから」とし、「芸高ければ人胆大なり」の諺を引く。
- 著者自身が舟山の官舎で参戎劉草堂の拳を見て学んだこと、「招架すれば十倍返し」の理は棍術の連打の理と同じであると付記する。
三十二勢の型
- 懶扎衣 - 構えの型から下段に転じて単鞭の歩を取る。対敵に臆する胆がなければ、いくら目端が利き手が速くても無駄になる。
- 金雞独立 - 片足で跳び立ち脚技と横拳を併せ、相手を仰向けに投げ倒す。
- 探馬 - 太祖の伝に発し、攻守自在に変化して弱を強に転じ、接近戦の連打に最も適する。
- 拗単鞭 - 花のように鋭く進み、左右の蹴りは防ぎがたく、連打の拳は泰山を倒すほどの勢いを持つ。
- 七星拳 - 手足が互いを補い合い、上下から間合いを詰める。相手がどれほど速くても、こちらの打撃で押し返す。
- 倒騎龍 - 敗走を装って敵を誘い込み、追ってきたところを連続の反撃で迎え撃つ。
- 懸脚 - 隙を見せて誘い、油断を突いて素早い蹴りと満天の星のような連打を浴びせる。
- 邱劉勢 - 左で払い右で打ち、蹴りと踏み込みを心臓に向け、一撃で決着をつける。
- 下插勢 - 速い脚技を制する技で、踏み込んで足を絡め腕を極め、逃さず投げ倒す。
- 埋伏勢 - 弓を張って虎を待つように身を潜め、罠にかかれば身動きできず、連続の蹴りで相手を打ちのめす。
- 抛架子 - 踏み込んで打ち下ろし脚を継ぎ足し、相手に見切られようとも素早い左右の払いで翻弄する。
- 拈肘勢 - 相手の脚技を警戒し高低を見極め、打・押・圧を的確に用い、手を急いで出さないよう戒める。
- 一霎歩 - 臨機応変に左右の脚技を連続して繰り出し、相手の勢いが強くとも巧みにかわして取る。
- 擒拿勢 - 相手の足を封じ左右均等に押さえ、まっすぐな拳を捕らえて自在に制し、速い脚技も通用させない。
- 井攔四平 - まっすぐ進んで鋏のような蹴りを膝や頭に放ち、転がるように圧し掛けて絡めれば鉄の将軍でも退く。
- 鬼蹴脚 - 先手を取って掃い、続けて連打の拳を放ち、背を反らして跳ね上げる肘打ちは伝授しがたいほど妙技である。
- 指当勢 - 相手が進みにくい構えを取り、膝への蹴りと突き上げを放ち、素早く退いて短い連打で締める。
- 獣頭勢 - 盾のように進み、相手の速い脚も慌てさせ、低く見せて高く取る連打で押し込む。
- 中四平 - どっしりとした構えで速い脚技を防ぎ、両手で相手の片手を制し、接近戦は熟練によって巧みになる。
- 伏虎勢 - 体を横に開き脚技を用い、迫ってくる相手の体勢を崩し、後ろから払って明確に倒す。
- 高四平 - 身のこなしを自在に変え、左右への出入りを素早く、相手の手足を惑わせつつ蹴りと拳で攻める。
- 倒插 - 受けに回らず速い脚技で確実に勝ちを得て、弓なりに踏み込む勢いは谷にこだまするように的中する。
- 神拳 - 相手の顔面へ突き下ろし、炎のような勢いで心臓へ進み、機を見て捕らえるか投げるかし、一度動けば容赦しない。
- 一条鞭 - 横に縦に斬り払い、両脚での蹴りを顔面に浴びせ、相手の力や度胸を恐れず巧みに制す。
- 雀地龍 - 低い体勢からの脚技で、前で払い後で連打を継ぎ、相手が退けば追い、迫れば即座に応じる。
- 朝陽手 - 体をひねって脚技を防ぎ、隙のない締め技で強豪を退け、体勢を変えて蹴り放てば名うての師範も名を落とす。
- 鷹翅 - 体を横にして進み、速い脚を止めず、追い込んで一蹴りを放ち、さらに挟み打ちの一撃を加える。
- 跨虎勢 - 身をずらしつつ相手に気づかれぬよう蹴りを放ち、左右の払いを連続させ、隙あらば挟んで投げる。
- 拗鸞肘 - 踏み込んで打ち下ろし、掌で心臓を狙い、鷹が兎を捕らえるように力を込め、手足の呼応が肝要である。
- 当頭炮 - 恐るべき正面突破の一撃で、虎のように踏み込み両拳を放ち、相手が退けば追い蹴りを加え、倒れずとも動揺させる。
- 順鸞肘 - 体を寄せて肘を返し、転がるような速さで防ぎがたく、絞り上げて投げれば誰も敵わない。
- 旗鼓勢 - 左右から押し込み、間合いを詰めて横に連打し、絡めて投げる技は誰もが知るところで、虎抱頭の構えでも逃げ場がない。