- 要旨: 大軍を統べる要諦は少数を統べるのと同じ「分数(編制)」にあり、分数を実際に形にした細目が「束伍(隊伍を編み束ねること)」である。だからこそ本書は束伍篇を第一に置くと著者は述べる。
原選兵(兵を選ぶ根本)
- 選兵の基準は時勢により異なり一律にはできないが、要は都会ずれした狡猾な者を避け、色白で立ち居振る舞いが伶俐な者や、役所を恐れぬ不敵な目つきの者を退けることにあるとする。
- 最も用いるべきは色黒く逞しく、辛苦に耐え、皮肉が堅く土仕事の色をした素朴な田舎者であるとする。
- 体格・武芸・膂力・機敏さのいずれか一つだけを基準に選ぶことを戒める。体格が良くても胆が据わらなければ緊急時に動けず、武芸に優れても胆がなければ臨戦で武器を取り落として真っ先に逃げ、機敏な者は胆がなければ自分の逃げ道ばかり考え他人を欺いて罪を逃れようとし、力自慢も胆がなければ腰が抜けて号令が耳に入らないと説く。
- 「芸高ければ人胆大なり」という諺は、もともと胆のある者が技を磨いてこそ通用するもので、臆病者が一芸に熟達しただけで胆が大きくなるわけではないとする。
- 最善は素朴で役所や法度を恐れる鈍朴な田舎者であり、こうした者は誠実で感化されやすく、士気も鼓舞しやすいとする。まず尋常でない威圧で服従させ、その後厚い恩情で心を掴み、至誠で結びつければ必ず命令に服すと説く。
- 恩と威の関係を船と舵に喩える。威厳は舟を運ぶ力そのものだが、それを制御し永く保たせるのは恩と信であり、恩を欠けば威厳はかえって怨みとなり敵を生むと結ぶ。
原授器(武器を授ける根本)
- 選び終えた兵は年齢・体格に応じて武器を割り当てるべきで、一律に支給してはならないと説く。
- 藤牌は若く敏捷な者、狼筅・長牌は屈強な大柄の者、長槍・短兵は精悍で殺気ある者に授けるべきで、そうでなければ体格に合わない武器が使いこなせないとする。
- 選兵から編隊・武器配給までを選抜当日中に完了させる手順を詳述する。翌日に持ち越すと、新兵は約束も食糧も受けていないため気が変わって帰ってしまうと理由づける。
- 具体的な事務手順として、番号・県籍・年齢容貌・体格・住所・名簿登録を記す六種の白牌を並べ、その場で記入させる方法を示す。
- 編成の順序は、哨長を定め→哨長が隊長を選び→隊長が十二名の兵を選んで一列に並べ、腰牌に領隊の記載をして各記録所を回り情報を埋めていくというもの。
- 一隊十二名の武器割り当てを定める。長牌は年長で胆力のある者一名、藤牌は若く敏捷な者一名、狼筅は屈強で老練な者二名、長槍手は殺気と精悍さを備えた三十歳前後の者四名、その次の技量の者を短兵二名、火兵は正直で力があり鍋を背負うことを厭わない者一名とする。
- 各人の武器種を腰牌に記入し、隊単位で完成させ、哨単位・営単位まで同様に積み上げる。編成後は隊長が隊を統率し隊長・哨長間で互いに顔を覚えさせる。
- 以後は鴛鴦陣の隊形順に従い前後左右を厳格に固定し、人の入れ替えがあれば連座で罰する(兵の交代は隊長の責、隊長の交代は哨長の責)と定め、一定期日に全営で腰牌の照合を行うことで、逃亡や不正な入れ替えを防ぐ。
- この選兵・束伍の手順こそ治兵の第一歩であり、百万の軍の根幹となる要諦であると結ぶ。
原束伍(隊伍を編む根本)
- 伍・什・隊・哨の編成こそが、八陣・九軍・七軍・十二辰などあらゆる古の陣法の土台であり、旗を立てて号令一下、田夫の寄せ集めでも即座に隊列を組めるのは、実は編伍の功によるものであり、その功績は見過ごされがちだと指摘する。
- 基本編制を示す。長牌一・藤牌一・狼筅二・長槍四・短兵二・火兵一の計十二名で一隊とし、方陣なら九、縦陣なら二の配置とし、三才・五花などの隊形に分けられる。四隊で一哨(哨長は中央)、四哨で一官(鳥銃・火器・哨官が中央)、前後左右四哨で一総(把総が統率)とし、五方旗・高招・巡視旗・号令・金鼓を配する。
- 火砲の運用改革を説く。従来のように一人で装填と点火を兼ねると、緊急時に手が回らず、火薬の暴発で営中が混乱しやすい。四人一組にして一人が構え、一人が点火、二人が装填・火縄の交換に専念し、一人が弾薬を運ぶ分業にすれば失敗が減るとする。ただしこの分業は城の守備に向くもので、野戦では隊列を乱す恐れがあるため、鳥銃は依然として単独発射の方が良いとする。
器械(装備)
- 長牌手・藤牌手には腰刀、火兵には銅鍋と夾槍棍を持たせ行軍中の食糧携行と炊事を担わせる。
- 短兵・叉頭には火箭、藤牌には蒺藜を、隊ごとに拒馬と布城(防柵)を輪番で携行させる。
- 銃手には火薬筒・油単・弾丸入れを、弓・弩には矢と弩薬を、哨ごとに大銃、中軍には火箭匣など、より多くの大銃を配すると定める。
- 千里雷など中軍だけが用いる特殊な火器については詳細を伏せると断る。
雑流匠役(技術者・雑務要員)
- 各営に火薬線匠・木匠・鉄匠・大銃手のほか、哱囉・喇叭・号笛・鼓・鑼などの鳴物担当、医士・医獣・占筮者・裁縫・弓箭匠・火薬匠を配置すると定める。
旗幟
- 伍・隊・哨・総の各級ごとに色分けした小旗・中旗・門旗・五方旗・高招を定め、中軍にはさらに督戦用の背上小招・清道旗・金鼓・坐纛を配すると規定する。
夜営の灯火
- 夜営の際、中軍・前後左右の各総はそれぞれ紙の色(黄・紅・藍・白・黒)と形(円・方・匾)、大きさを違え、遠目にも所属が判別できるようにする。
- 各灯は黒布四層で覆えるようにし、必要に応じて明かりを隠したり急に灯したりして、敵の目を欺く工夫とする。