- 要旨: 「英」は聡明、「雄」は胆力を中心とする別種の偏才だが、それぞれ他方の要素を必要とする。大業には英と雄の双方を兼ね、英材と雄材の両方を使役する力が必要だと論じる。
英と雄の構成
- 草の精秀を英、獣の抜群を雄と呼ぶように、人では文の卓越を英、武の卓越を雄と呼ぶ。聡明で秀でる者が英、胆力が人に過ぎる者が雄である。
- ただし英と雄は純粋に分離して成立するのではなく、それぞれ自分の二分に相手の一分を加えて完成する。英の聡明も雄の胆がなければ説を実行できず、雄の胆力も英の智がなければ事を立てられない。
- 英は聡によって始めを謀り、明によって機を見て、雄の胆によって実行する。雄は力で衆を服し、勇で難を排し、英の智によって完成させる。こうして初めて各々の長所を発揮できる。
不足による限界
- 聡が始めを謀れても明が機を見抜けなければ、机上で論じるだけで実務を処理できない。聡明でも勇が実行できなければ、常道は守れても変事に対応できない。
- 力が人に過ぎても勇が実行しなければ、力人にはなれても先登にはなれない。力と勇があっても智が事を決断できなければ、先鋒にはなれても将帥にはなれない。
張良・韓信と高祖・項羽
- 始めを謀る聡、機を見る明、決行する胆を備えた英の例が張良である。人に過ぎる気力、実行する勇、事を断ずる智を備えた雄の例が韓信である。張良は英智が多く、韓信は雄胆が勝るため名を異にするが、いずれも偏至の臣材であり、英は相、雄は将に適する。
- 一身に英と雄を兼ねれば世を長じる者となり、高祖と項羽がその例である。ただし英の割合は雄より多くなければならず、英が少なければ智者が離れる。項羽は気力が世を覆い、変化に応ずる明もあったが、奇異の策を聴き入れず、范増一人すら用いなかったので陳平らが高祖へ逃れた。
- 高祖は英の分が多かったので群雄を服従させ、英材を帰服させ、双方を用いて秦を呑み楚を破り天下を得た。英と雄の多寡は、自己に勝ち、外物に勝てるかを決める。
- 英だけなら雄材が服さず、雄だけなら智者が集まらない。雄は雄を、英は英を得られても異種を得られない。一身に英と雄を兼ねて双方を使役してこそ、武で服し文で安んじ、大業を成せる。