元史演義第三十七回 衆大臣銜を連ね奏を入れ、老平章俗を嫉み官を辞す (眾大臣聯銜入奏  老平章嫉俗辭官)

張珪の上奏文

  • 平章政事張珪が起草した長大な上奏文が、員外郎宋文瓚によって百官の前で読み上げられる。内容は多岐にわたる。
  • 唐の玄宗が姚崇・宋璟を用いて治まり、李林甫・楊国忠を用いて乱れた例を引き、宰相の人選の重要性を説く。
  • 鐵木迭兒の生前の悪行(忠臣誣殺・売官・専横)を改めて糾弾し、遺族の家産を没収し子孫を遠地に流すべきだと主張。
  • 鐵失一派の粛清は既に果たされたが、脅従した者まで根絶やしにする必要はないとしつつ、按梯不花ら首謀格には誅罰を求める。
  • 遼王脱脱が私怨で王族を殺し財産を奪った罪を赦免し、爵位まで戻したことを問題視し、廃爵・遠地への配置を求める。
  • 即烈・不花が詐りの聖旨で寡婦古哈を強引に改嫁させた一件を、賄賂で赦免したことを非難し、改めて刑曹での審理を求める。
  • 高値で買い上げられた宝物(真珠・宝石)の代価が過大に支払われ続けている財政の乱れを指摘し、支給を凍結すべきだと主張。
  • 太廟の神主盗難について、太常の管理責任を問うべきだとする。
  • 西山寺の造営など浮費の大きい土木事業の中止を求める。
  • 鐵木迭兒に無実の罪を着せられた蕭拜住・楊朵兒只らの家産について、返還後に再び他人へ下賜されている矛盾を正すよう求める。
  • 也先鐵木兒らが太医の妻娘を強奪した事件で、扈従を理由に処罰が有耶無耶になっていることを批判し、厳罰を求める。
  • 辺境の軍役や珠貝の徴発による民の疲弊、無用な官署の濫設・冗員、仏事への浪費(世祖の頃の数倍に膨張)、僧道の妻帯や不正、無功の者への濫賞、牧馬制度の弊害、参卜郎への出兵の無益さ、官田の乱脈な下賜、田税の不公平など、内政全般にわたる弊政を条ごとに列挙し是正を求める。

泰定帝の冷淡な対応

  • 張珪は自ら上都に赴き奏文を奉呈するが、泰定帝は気乗りしない様子で「わかった、休め」と述べるのみで、施策を先送りにする。
  • 張珪が重ねて上奏しても、「帰京後に要点を実施する」と言うだけで具体策は示されない。御史台の辞職願も泰定帝は慰留し、そのまま実行に移されないまま時が過ぎる。
  • 丞相旭邁傑・倒剌沙も形だけの自責の上奏をするが、泰定帝は両者とも留任させる。

張珪の辞職

  • 張珪は失望して病を理由に辞表を提出。特別に拝跪の礼を免除され小車での参内を許されるが、帰京後も約束されていた施策は実行されず、逆に赦令や没収財産の返還など望まぬ方向の詔勅ばかりが下る。
  • 張珪はついに病重篤として帰郷を願い出る。

評語

張珪の上奏文は『元史』にも全文が収められる名文であり、その忠誠を称える一方、泰定帝がこれを黙殺したことを強く批判する。旁系から即位した泰定帝が、賢言を用いて弊政を除く好機を逃したことが、後年の内乱と悪諡なき最期につながったのは自業自得であると結ぶ。張珪が諫めて容れられねば身を退いたのは、道をもって君に仕える古人の理想に適う行いだったと評する。