繹史食貨志(食貨志)

田制・地域組織の名称

  • (爾雅・説文・小爾雅・釈名・博雅より)田の年数による名称(菑・新田・畬)、井田制の単位(畹・畦・畔・畛・畷・畎・遂・溝・洫・澮)、邑・丘・甸・伍・鄰・里・党・郷などの行政区分の由来を字義とともに列挙する。
  • (爾雅より)耕耘・収穫に関する擬態語(畇畇・畟畟・繹繹など)を挙げる。

漢書食貨志:農本主義の理念

  • (漢書より)洪範八政の「食」「貨」を農業生産と流通の要とし、神農・黄帝・堯舜禹を経て民の生活基盤が整えられた経緯を述べる。
  • 井田制の詳細(歩・畝・夫・屋・井の単位換算、八家共同体の廬・耕地配分、税・賦の別)、田の受給年齢(二十歳で受田、六十歳で還田)、農事暦(春の出作・冬の入邑、夜なべの分業)、教育制度(八歳で小学、十五歳で大学、秀才の郷学・国学への推薦)を詳述する。
  • 三年耕して一年分の蓄えを残す理想と、宣公の初税畝以降、井田制が崩れ貧富の差が拡大し、秦の統一後には過酷な賦役・重税により民が疲弊し秦の滅亡に至った経緯を述べる。

貨幣制度の沿革

  • (史記・漢書より)虞夏の頃から金・布・刀・亀貝などの貨幣が用いられたこと、太公望が周のために立てた九府圜法(黄金・銅銭・布帛の単位)、管仲による軽重の術(穀物の豊凶に応じた物価調整策)、周景王の大銭鋳造、秦の貨幣二等制(黄金=上幣、半両銭)への統一を記す。
  • (説文・爾雅より)貝の種類(紫貝・朱貝・綬貝・霞貝など)とその効能を説く「相貝経」の内容(割注)を紹介する。

礼制と貧富の理念(漢書・韓詩外伝)

  • 天子から庶民に至るまでの身分に応じた財の扱い方(利を語らない礼、伐冰の家は牛羊の利を図らないなど)を韓詩外伝から引く。
  • 周室衰退後、礼が崩れ僭差が極まり、商工の民が増え本業(農業)が廃れた結果、貧富の格差が極端化した状況を漢書が批判的に総括する。

史記貨殖列伝:地域経済と致富の道

  • (史記より)老子の小国寡民の理想と対比しつつ、司馬遷は「善き者は民に任せ、次は利で導き、次は教え、次は整え、最も劣るのは民と利を争う」という統治の段階論を述べる。
  • 山西・山東・江南・龍門碣石以北など各地の産物(材木・魚塩・犀瑇瑁・馬牛羊など)を挙げ、農工商虞の分業が自然に物資を流通させる理を説く。
  • 太公望が斉の不毛の地を女工・漁塩業で富ませた故事、管仲の軽重九府による桓公の覇業、「倉廩実ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る」という格言を引く。
  • 関中・巴蜀・天水隴西・三河・種代・鄭衛・燕・斉魯・梁宋・楚越(西楚・東楚・南楚)・潁川南陽など各地域の風俗・産業・気質を詳細に描写し、各地の富の源泉と民の性向を対比する。
  • 致富の諸相(本富・末富・姦富の序列、農工商賈・遊侠・博打・医術・官吏の不正なども結局は利のためとする人間観察)、素封(無位無禄ながら千戸侯に匹敵する富者)の概念、通邑大都における物資の取引規模の具体例を列挙し、「富に定まった主なし、能ある者に集まる」という結語で締めくくる。

編者按

  • 太史公(史記)の貨殖列伝は文飾を凝らした議論であるのに対し、班固(漢書)の食貨志は制度・風俗の記述に主眼を置くとし、両者は視点が異なるため併せて収めたと述べる。

:井田・行政区分の字義説明は小爾雅・釈名・博雅からの引用が中心で、単位換算(四井為邑、四邑為丘等)と語源解釈(邑は「悒」に通じ人の集まりを言う、等)が付されている。