列女傳卷六 楚野辨女

車軸を折られ捕えられる

  • 楚野の弁女は昭氏の妻である。鄭の簡公が大夫を楚へ使いに出したところ、狭い道で一人の婦人が車に乗っており、大夫の車と行き合った拍子に轂がぶつかって大夫の車軸を折ってしまった。大夫は怒り、婦人を捕らえて鞭打とうとした。

遷怒と二度の過ちを説く

  • 婦人は「君子は怒りを他に移さず、過ちを二度繰り返さないと聞いております。今この狭い道で、私はすでに精一杯車を寄せておりましたが、あなた様の御者が少しも道を譲らなかったためにあなた様の車を壊してしまいました。それなのに私を捕らえるのは、怒りを他に移すことではありませんか。御者を怒らずかえって私を怒るのは、過ちを二度繰り返すことではありませんか」と述べた。
  • さらに『周書』の「寡婦や独り者を侮らず、高く明らかな者を畏れよ」との言葉を引き、「あなた様は大夫でありながらその模範を示さず、怒りを他に移し過ちを繰り返し、御者を放して私を捕らえ、弱い者を軽んじるのは、寡婦や独り者を侮らないことになりましょうか。鞭打つなら打てばよいでしょうが、あなた様の徳が損なわれるのが惜しいのです」と述べた。

大夫が恥じ入り解放する

  • 大夫は恥じて答えられず、婦人を釈放した。素性を尋ねると、「私は楚野の卑しい者です」と答えた。大夫が「私と共に鄭へ来ないか」と誘うと、「私にはすでに夫がおり、昭氏がおります」と答えて去った。君子は「弁女は言葉によって難を免れることができた」と評した。

史論

  • 『詩経』に「ただ叫び声のようなこの言葉にも、道理と筋がある」とあるが、まさにこのことである。
  • 頌に曰く、弁女が一人で車に乗り鄭の使者に出会った。鄭の使者が車軸を折られて怒り、女を捕らえたが、女がその冤罪を陳べ、これにも順序道理があったので、鄭の使者は恥じて去り、言葉を交わすこともできなかった、という。