国の行く末を憂える嘆き
- 漆室の女は、魯の漆室邑の女である。婚期を過ぎても嫁がなかった。穆公の時代、君は老い、太子は幼かった。
- 女が柱にもたれてすすり泣くと、周りの人々はみな心を痛めた。隣家の女が「なぜそんなに悲しそうに泣くのですか。嫁ぎたいのですか、私が相手を探してあげましょう」と尋ねた。
- 漆室の女は「ああ、あなたは物事がわかる人だと思っていたのに、今はそうでもないようですね。嫁げないことを嘆いて悲しんでいるのではありません。私は魯君が老い、太子が幼いことを憂えているのです」と答えた。
- 隣の女は笑って「それは魯の大夫たちの心配事でしょう、婦人には関わりのないことです」と言った。
- 漆室の女は「そうではありません、あなたにはわからないことです。昔、晉の客人が私の家に泊まり、馬を庭園に繋いでいました。馬が逃げて走り回り、私の家の葵を踏み荒らし、そのため私は一年中葵を食べられなくなりました。また隣家の娘が男と駆け落ちしたとき、その家は私の兄に追いかけるよう頼みましたが、大雨で川が増水し、兄は溺れて死にました。そのため私は生涯兄を失ったのです。川の水の潤いは九里に及び、湿り気は三百歩に及ぶと聞きます。今、魯君は老いて道理を失い、太子は幼く愚かで、日々よからぬことが起きています。魯国に患いが起きれば、君臣・父子はみなその辱めを受け、禍は民衆にまで及びます。婦人だけがどこへ避けられましょうか。だから私はひどく憂えているのです。それをあなたは婦人には関わりのないことだと言うのですか」と述べた。
- 隣の女は詫びて「あなたの考えは、私の及ぶところではありません」と言った。
- 三年後、魯は果たして乱れ、齊と楚がこれを攻め、魯はしばしば外敵の侵入を受けた。男は戦い、女は物資を運び、休む間もなかった。君子は「漆室の女の思慮は先を見通していた」と評した。
史論
- 『詩経』に「私を知る者は、私の心に憂いがあると言い、私を知らない者は、私に何を求めるのかと言う」とあるが、まさにこのことである。
- 頌に曰く、漆室の女は思慮深く、魯が乱れることを見て柱にもたれて泣いた。君は老い後継ぎは幼く、愚かで悪しきことが起きたので、魯は果たして乱れ、齊がその城を攻めた、という。