- 要旨: 「練手足」は、武芸の必要性を説く精神論から始まり、弓箭・火器・盾・刀・棍・鈀・棒など各武器の考査基準、部隊としての戦闘演習、そして心力・手力・足力・身力という基礎体力の鍛錬法までを定めた条文集である。著者は、武芸は官府への義務ではなく自分の命を守るための技であると兵に説き、等級づけと賞罰・連座を組み合わせて習熟を促す。
武芸考査の総則(第一 校武藝)
- 武芸は官府への形式的な奉仕ではなく、己の生死を分ける技であると説く。連座と号令が整った今、臨陣で誰が先んじ誰が退いたかも把握できるようになったのだから、武芸を学ばぬ者は自らの命を粗末にしているに等しいと論じる(詳細は「戦約」条を参照)。哨将は各兵の武芸を名簿にまとめ、百総は操練の都度、把総は毎月6日、千総は16日、営将は26日に考査を行い、等級に応じた印を押す。督撫・鎮道も抜き打ちで確認する。
- 連座に基づく将官の賞罰は、部下の合格率によって超等から下下等までの十等級に分け、超等・上上等・上中等・上下等には緞や銀花などの褒賞を、中下等以下には笞打ちや降格・革職といった罰を段階的に科す。
- 弓箭・狼機・鳥銃・快槍の考査は九発を基準とし、命中数に応じて超等から下下等・不知(未習熟)まで格付けする。舞対(型と組み合わせ稽古)の巧拙も、速さ・正確さ・熟練度によって同様に九等級に分ける。
- 雑流(旗牌・吹鼓手・五方旗手・医師・獣医・火薬匠・号銃手・巡視・書記・軍牢・伴当・駝兵など)についても、それぞれの職務に応じた個別の考査項目(射・武芸一件・号令の理解など)を定める。厨役・薪水・軍伴は考査を免除する。
- 平時は各営の将領が階級順に私的な稽古(私把)を行い、実戦で使える技のみを教え、見栄えのための花法は排除すべきだとする。
各武器の考査基準
- 遠射(第二 校遠射): 北方では射術を重んじるが、弓を強く引き、重い矢を平らかに遠くまで飛ばして命中させる者を超等とし、以下、命中の質と矢の重さ・速さに応じて等級を分ける。倭(日本)の矢は軽く遠くまで飛ばないが、その分深く突き刺さり侮れないと注意を促す。80歩を的までの距離とし、体を大きく開いて素早く矢をつがえ、敵を注視して安定して射る「大架」の射法を基本とし、旧来の型(弯腰騎馬など)に固執せず、未熟な者は大架に改めさせる。
- 火器(第三 校火器): 銃口の大きさを揃え、専用の弾丸型を用いて実測しながら弾を鋳造し、杖・火門・火縄・火薬の状態まで規格に適合しているかを検査する。100歩を基準に、6名を1班として順に発射させ、狙いを外さず動じない射手を上等とする。仏狼機・虎蹲砲についても、銃身の状態、装填の速さと正確さ、命中精度を審査基準とする。
- 円牌(第四 校圓牌): 北方に藤がないため柳材に革を張った盾を用いる。2人一組で身を隠しつつ、模擬の馬脚(棒)を切り払う稽古をし、外した者は罰する。実戦では盾で矢を防ぎつつ低く構えて馬の脚を狙う。
- 腰刀(第五 校腰刀): 敵の刀より一寸長い刀を用いることで有利になるとし、馬上・徒歩で短棒(馬の頭に見立てる)・長棒(敵兵に見立てる)を順に斬る演習を行う。命中で賞、外れで記録し、三度外した者・落馬した者は処罰する。
- 刀棍(第六 校刀棍)・大棒(第七 校大棒)・大鈀(第八 校大鈀): いずれも馬の眼・腹や敵の喉・顔を狙う「打つ・突く」の実戦技のみを教え、花法を排する。短棒・長棒を対象に馳せながら打突する演習を行い、命中の速さ・力強さで等級を分ける。以上の武器はいずれも北方の武器より長く作ることで間合いの優位を得ることを狙いとする。
部隊としての演習(第九〜第十二)
- 戦隊訓練(第九 校戰隊): 鳥銃・快槍・火箭・弓箭・大棒の順に層をなして配置し、号令に従って各層が順に発射・投射した後、鴛鴦陣を組んで的(把子)に向かって突撃する一連の動きを訓練する。
- 喊声(第十 校吶喊): 軍威を示すための喊声が揃わない者は巡視旗が捕らえて軍法で処す。
- 旗の操法(第十一 校磨旗)と太鼓の打ち方(第十二 校打鼓): 旗を大きく振り回して立てる所作、太鼓を高く振り上げ重く打ち込んで音を遠くまで響かせる所作をそれぞれ定める。
装備管理(第十三〜第十五)
- 火器付属品の点検(第十三 察遺失): 火薬筒・火縄・火線・工具・油単などの携行漏れや火薬の湿りは、隊長と本人をともに処罰する。
- 破損の修理(第十四 稽損廢): 破損した装備は速やかに修理し、自力で直せない場合は上官に報告して手配させる。
- 火器の手入れ(第十五 收火器): 使用後は洗って乾かし、雨天後の晴れ間には必ず一度干す。手入れ不良で湿損した場合は本人を重く処罰し、旗・隊も連座のうえ賠償させる。
抜き打ち考査(第十六 小比較)
- 予告なく、あるいは委官を派遣して各営の武芸を抜き打ちで確認する。鳥銃は100歩・2人1隊で順に撃たせ、特に「頬に銃を付けて照準する」正しい構えを徹底させる。狙わずに撃つ、天や地に向けて撃つといった不正には、隊総が現場で証拠品を押収して処罰し、実戦での不正行為(敵を撃たない等)は本営に送って斬首・示衆とする。快槍・仏狼機・虎蹲砲・弓矢は大考査に準じる。火箭車・大将軍車は装填・整備状態と命中精度を審査する。藤牌・鏜鈀・倭刀・長槍・大棒については、それぞれ相手の得物(長槍など)との組み合わせ稽古における速さ・冷静さ・防御の巧拙によって上中下の等級を分ける。
基礎体力の鍛錬
- 心力(第十七 練心力): 気血は使えば強まり怠れば衰える。適度に筋骨を鍛え体を苦しめることで精神力を養う。
- 手力(第十八 練手力): 平時は実戦で使うより重い武器で稽古することで、実戦では手が軽く感じられ武器に振り回されなくなる。
- 足力(第十九 練足力): 息を切らさず一里を走れるよう訓練し、古人が足に砂袋を付けて鍛えたように、徐々に負荷を上げてから外すことで身軽さを得る。
- 身力(第二十 練身力): 平時から重い甲冑や荷を負って訓練することで、実戦では身が軽く感じられ、進退が素早くなる。