- 要旨: 「練伍法」は、騎兵・歩兵・車兵・輜重兵の四兵種それぞれについて、募った兵をどう選抜し、伍・隊・旗・局・司・部・営という指揮系統に組み上げ、旗号・装備を定めるかを規定した実務規程である。著者戚継光は、号令一つで統制の取れた戦闘隊形に組み替えられる仕組みを作ることを主張する。
騎兵
- 選抜(第一): 事前に名簿用の五種の木札(一号〜五号:営伍次第・年齢籍貫・傷痕武芸・隊伍姓名・隊伍清冊)を用意する。千総が把総を、把総が百総を、百総が旗総を、旗総が隊総を、というように上位者が下位者を順に選抜する方式を取る。一隊総につき11名を選び、力量・敏捷さ・殺気の有無などの適性で鳥銃手・快槍手・鏜鈀手・刀棍手・大棒手・火兵の役割に振り分ける(左右2伍、伍長2名を含む)。中部の軽騎は局ごとに銃手・鈀手・殺手(弓矢・腰刀・鉤槍)に分ける。選抜後は腰牌・名簿を五冊作成し、点呼の上で等級に応じた馬(戦兵は上等馬、火器担当は中等馬、下等馬は淘汰)を配る。各部隊には敏捷で屈強な者を多く配置し、事実上の精鋭選抜(選鋒法)を兼ねる。編成後は教場で規律を申し渡し、各官に「不堪の者はいない」旨の請け書を提出させる。
- 騎旗鼓(第二): 一営あたりの旗牌・号銃手・門旗・金鼓旗・五方旗・号帯・角旗・認旗・巡視旗・吹鼓手・夜不収(斥候)・火薬匠・鉄鋥匠・弓箭匠・医士・獣医などの定員を細かく定める。
- 騎雑流(第三): 将官以下、識字(書記)・家丁・伴当・軍牢・厨役・軍伴・養馬・薪水などの雑務要員の人数を、将官・中軍官・千総・把総・百総の階級ごとに規定する。
- 騎隊牌(第四): 隊員名簿(腰牌冊)の書式を解説する。鳥銃・長刀、快槍(北方でいう銃の一種、遠くは火薬・鉛弾、近くは柄で棒代わりに使う)、鈀と火箭(鈀の又状の部分に火箭を架けて放つ)、夾刀棍と弓矢、白棒と弓矢(馬上では一撃で仕留めるため穂先を付ける)など、各兵の得物の組み合わせとその理由を説明する。著者は、白棒(棍棒)だけを頼みにして武芸を怠る風潮を『孟子』の「梃を執りて秦楚の堅甲利兵を撻つべし」を引きつつ批判し、それは民心が一致していればこそ通用する話であって、武器の巧拙を軽んじてよい根拠にはならないと論じる。弓矢は火器に劣るのに旧習で使われ続けていること、火器も精密さを欠けば無いに等しいことも指摘する。火兵の得物は鉄尖の扁担(天秤棒)で、農具にも武器にも使えるとする。
- 騎旗号(第五): 営将から隊総に至る各階級の旗(心・辺・帯の配色、纓・雉尾の有無、旗竿の長さ)を五営(前・後・左・右・中)・各部・各司ごとに詳細に規定する。前営は「前軍司命」、後営は「後軍司命」、左営は「左軍司命」、右営は「右軍司命」、中営は「中軍司命」の文字を大将旗に記す。
- 騎什器(第六): 旗総・隊総・鳥銃手・快槍手・鏜手・刀棍手・棒手・弓刀手・弓槍手・火兵・馬・虎蹲砲・騾馬それぞれに支給する武具・防具・弾薬・工具・飼育用具の品目と数量(例:鳥銃手は明盔・甲・腰刀・鳥銃・搠杖・弾薬・鉛弾300個・火縄5本など)を一覧化する。
- 騎神器(第七): 虎蹲砲は各部隊に配し、平時は「管神器把総」という専任の把総が調練・管理・給餌を統括する。出征時は各旗に一門ずつ配し隊総が管理、宿営時は外囲に集約して二旗に一門を配置する。
- 拒馬柞(第八): 拒馬(防柵)は一旗につき12架、6架で1包、2包で1駄とし、宿営時は中部の拒馬を外囲に寄せて配置する。
歩兵
- 選歩軍(第一): 騎兵と同様の手順で千総以下を選抜する。一隊総が11名を選び、鳥銃手(双手長刀兼帯)、長柄快槍手、藤牌手、狼筅手(力強く精悍な者)、鏜鈀手(兼火箭)、火兵に振り分ける。戦闘時は、銃・槍・火箭を放った後、藤牌が第一層、狼筅が第二層、鏜鈀が第三層、長刀が第四層、槍棍が第五層という重層陣を組む。
- 歩旗鼓(第二): 騎兵と同じ。車兵も同様で、馬を持たない者はそれに準じる。
- 歩雑流(第三): 騎兵営に準じるが、獣医は置かない。
- 歩隊牌(第四): 騎兵の名簿書式に同じ。ただし第三層は藤牌、第四層は狼筅、第五層は鏜鈀とする点が異なる。
- 歩旗号(第五): 騎兵の例に同じ。
- 歩什器(第六): 旗総・隊総・鳥銃手・快槍手・牌手・筅手・鏜手・火兵に支給する武具・弾薬・道具類を規定する(牌手には藤牌・腰刀・拳大の礫石6個、筅手には狼筅など)。
車兵
- 車兵(第一): 千総・把総・百総・車正・隊長を騎兵同様に選抜する。1営は128乗の戦車を定数とし(望竿車・将台車・鼓車・座車・大将軍車・子薬什物車・火箭車を含む16乗を除き残りが実戦用)、24名で1車を編成し正兵隊・奇兵隊の2隊に分ける。正兵隊は舵工1名、仏狼機(フランキ砲)手6名(左右に3名ずつ)、火箭・舵工係2名、車正で計10名。奇兵隊は騎兵1隊9名を選び、鳥銃手4名、藤牌手2名、鏜鈀手2名、火兵1名で構成する(車内と車外で得物を使い分ける)。別に軽車の制度もあり、1営216輌、1面54輌、1輌に車正・舵工(火兵兼務)・銃手6名・鈀箭手2名・狼機手2名を配する。
- 車旗鼓(第二): 一営あたりの旗牌・号銃手・門旗・金鼓旗・五方旗・号帯・角旗・認旗・巡視旗・吹鼓手・火薬匠・木匠・鉄匠・医師などの定員を規定する。
- 車雑流(第三): 書記・家丁・軍伴・軍牢・伴当・養馬・薪水・厨役などの人数を将官・中軍官・千総・把総・百総ごとに定める。
- 車兵牌(第四): 軽車は大戦車に準じるが、1輌1隊とし、大戦車の1隊を2分して2輌の軽車に割り当てる。
- 車旗号(第五): 車兵は甲冑を用いず、車正のみ着用する。旗の大きさ(方旗・百総旗・把総旗・千総旗・営将旗)を規定し、五営(前・左・右・後・中)ごとに旗の色・縁取り・帯・纓の色を細かく定める。
- 車什器(第七): 車正・狼機手・鳥銃手・火箭手・大棍手・舵工火兵、および戦車1輌あたりの装備(仏狼機2架、鳥銃4門、火箭120本、大棒6本など)を規定する。
- 車神器(第八): 大将軍砲1門につき子銃3門、火薬・鉄弾・木馬・石子の備蓄量を定める。
- 計車乗(第九): 当初は正廂車のみだったが、防御力を高めるため偏廂車を加え、布牌も併用して隙間を塞いだ。のちに営の形を改め、前後に門を2つのみ設け、活扇(開閉式)の門車と左右の偏廂で城壁のような車営を組む方式に改めた。
- 車分数(第十): 24人で1車、1車=1宗として車正1名、4宗で1局に百総1名、4局で1司に把総1名、4司で1部に千総1名、2部で1営に将官1名を置く編制を定める。
- 車責成(第十一): 車正は正隊・奇隊・舵工を統括し、正兵隊の仏狼機手・舵工・火箭係、奇兵隊長はそれぞれの分担を専管する。車正・舵工は車から降りず車の転倒を防ぐことに専念し、藤牌手は火箭、鳥銃手は銃、火兵は炊事と防火を専管する。
- 車戦隊(第十二): 出撃時、正奇隊は車内の役目を務めつつ、奇兵隊は鳥銃4・藤牌2・狼筅2・鏜鈀2で鴛鴦陣を組んで戦う。
- 車行営(第十三): 正兵隊・奇兵隊を交代で車を牽かせ、奇日は奇兵隊、偶日は正兵隊が牽く。5里ごとに交代し、泥濘や坂では全員で協力し交代しない。
- 蘇騾力(第十四): 車には騾馬2頭を配するが重量に対し不足で、本来4頭を要する。騾に頼りすぎると騾の力を消耗するため、車兵も分担して騾と共に牽くべきだとする。
- 明戦法(第十五): 戦車に騾を加えるのは行軍の負担軽減のためであり、敵に接近する10里以内では号令に驚く騾馬は使いものにならないため、騾は荷駄用に留め、車兵2班が総力で牽くべきだと論じる。
- 厳巡車(第十六): 完成した車は千総・把総・百総・車正が管理し、毎夜交代で車を巡邏する当番を定め、翌朝「巡車無事」と主将に報告させる。器材の損傷は担当の把総・巡視総・車兵の責任として賠償させ、交代時の点検を怠り隠蔽した場合も罰する。当番表は木札に記して周知する。
輜兵
- 選輜兵(第一): 騎兵と同様に選抜する。輜重車80乗(各騾10頭)、鼓車2乗・元戎車1乗(各騾4頭)を定数とし、正兵隊は車正1名・騾兵8名・舵工1名の10名で仏狼機2架と騾の世話を分担、奇兵隊は隊長以下9名で鳥銃・鏜鈀・火箭・藤牌・火兵を分担する。この輜重車は正廂・門車を用いず左右偏廂のみとし、行軍時は両路に分かれ、敵に遭えば方営を組んで動かず迎撃する。
- 輜旗鼓(第二)〜輜兵牌(第四): いずれも車営の規定に準じる。
- 輜旗号(第五): 車兵に準じるが、千総配下は2把総のみとし、左部は前司・左司、右部は右司・後司と呼び分ける。
- 輜什器(第六): 車正・鳥銃手・大棒手・火兵の装備、および仏狼機2架分の弾薬・工具、車1輌あたりの索具・鞍具・食糧(炒り米・米・豆)搭載量を規定する。
- 計輜乗(第七): 車兵の項に準じ、三屯(中営)・密雲(前営)・遵化(後営)の3営を新設し、民間の大車に板を渡して左右の廂に仕立てる。
- 輜分数(第八): 20人で1車、1車=1宗として車正1名、5宗で1局に百総1名、4局で1司に把総1名、2把総で1部に千総1名、2部で1営に将官1名を置く。
- 輜責成(第九): 車正が正隊・奇隊・舵工を統括し、騾兵は騾の跳躍を防ぎ、そのうち6名は仏狼機を担当、奇兵隊の鳥銃・快槍手6名は遠戦では鳥銃・長刀、近戦では藤牌・石礫・鏜鈀・火箭を使い分けて鴛鴦陣を組む。
- 輜戦隊(第十): 車営に同じ。
- 輜行営(第十一): 行軍中に坑・水・泥に遭えば全員で車を押し、騾の力を助けて早く脱出させる。
- 号令車(第十二): 車営に同じ。特に火の用心を重視する。
- 輜糇糧(第十三): 1営あたり炒り米200担・米300石・黒豆500担を備蓄し、平時は駐屯地に倉庫を建てて袋詰めで保管、夏には毎年一度天日干しをし、3年経てば軍に支給してよいとする。各兵の行糧はこの倉から手配し、あるいは銀に換えて買い足すことで輜糧に充てるのが最も清廉なやり方だとする。
車歩騎合営
- 車騎並営(第一): 歩兵1隊・馬兵1隊を合わせて1営とする方法を述べる。車を2列に並べて廂を外向きにし、前門車8乗・左右幇車各2乗を除いた左右廂車の2乗ごとに騎兵1旗を配する。騎兵の旗総と両脇の車正2名は互いを認識し合い、車の動きに合わせて騎兵が追随する(車が騎兵に合わせるのではなく騎兵が車に合わせる)ことを徹底し、旗総・隊総の持ち場を固定することで、営の規模が大きくなっても隊列が乱れないようにする。
- 車騎責成(第二): 戦車が遠行する際の騾・人員の追加は車営の規定による。輜重営の車(騾8頭)が泥濘に陥った場合は、配属された騎兵1旗が下馬して車を押し、それでも足りなければ各馬の轡から手綱を車の横木に繋いで力を合わせて引く。前を行く車が難所にかかれば、後続車も一斉に態勢を整え、平地同様に通過して時間の浪費を防ぐ。
車歩旗保結式(連帯保証の書式)
- 上位者から下位者への保証(第一): 参遊が千総を、千総が把総を、把総が百総を、百総が旗総を、旗総が隊総を、隊総が各兵を、それぞれ「怯懦・不堪の者ではない、冒名や逃亡があれば罪を甘受する」と保証する書式を、階級ごとに列挙する。
- 下位者から上位者への保証(第二): 千総・把総・旗総・隊総が、それぞれ上官(営将・千総・百総・旗総)を「出陣にあたり臨陣で失策させない、失策あれば死をもって償う」と保証する書式を列挙する。
中軍旗鼓
- 大将の旗鼓を立てるのは見た目の飾りではないと説く。近世の将は旗鼓を実戦で使わなくなり、単なる威儀のための虚飾と化したことを著者は誤りだと批判する。平時の行軍では旗鼓が中軍の中核となり、事あれば陣を分けて宿営・布陣する基準となる(「行けば陣となり、止まれば営となる」)。九軍・八陣・五行・六花などの陣法はすべて旗鼓の号令一つで自在に変化し、宿営・撤収・行軍のいずれも旗鼓に従って行われる。この仕組みを理解しない者ほど、旗鼓を無用の付属物とみなしてしまうのだと結ぶ。