- 要旨: 守りは攻めの前提であり、古の名将も必ず斥候・烽堠を先に整えたとする。ただし本篇は衛所の実務通達に類する内容であり、戦技を教える他篇とは性格が異なるため附巻として扱うと断る。烽堠(監視台)の整備・報警・守城・伏路(外部監視)に関する具体的な布告を集める。
布告の趣旨
- 沿海防衛の要である烽堠が近年おろそかにされ、担当官が閑職とみなして台の修理や器械の整備を怠り、兵も怠けて咎められない実態を批判する。
- 松門・桃渚衛所の既存の堠(見張り台)には、外洋に近く兵が油断しやすい場所(獅子望火楼等)と、内陸にあり警報が遅れる場所(盤馬・烏沙浦等)があると指摘する。
- 従来の指示(漁師の小屋のような見張り小屋を設け、毎日交代で三名を配し、昼は白旗、夜は砲火で急を知らせる等)が十分に守られていない現状を憂い、改めて条約を定めて各堠の兵に暗誦させ、違反があれば連座で厳罰に処すと宣言する。
墩堠の備品
- 各堠に寝室・竈・水甕・鍋・食器・米・干魚・種火などの生活用品と、碗口銃・小型手銃・火箭・大白旗・草架(狼煙用の茅葺きの塔、高さ一丈二尺)を備えると定める。南方では狼糞が乏しく、伝統の狼煙が使えないため、大量の草柴を積んだ茅屋を燃やして遠方からも見える火勢を得る工夫を説明する。
墩堠の報警号令
- 昼夜三名が海辺で見張り、敵発見時は昼は旗と銃、夜は火矢と銃で合図し、天候が良ければ大白旗を隣の堠まで順に伝え、曇天なら草屋を燃やして知らせる。夜は一座を焼くだけで足りるとする。
- 敵の上陸地の堠は使者を出して衛所・陸路官に敵の規模・時刻を報告し、定められた書式で転送するとする。
号火・伝令の軍法
- 敵上陸地の堠が信号を出し遅れた場合、隣の堠が先に信号を出したのに本堠が遅れて応じた場合、敵接近時に応答が遅れた場合、報告が遅延して事を誤った場合は、いずれも軍法で厳しく処すと定める。
- 台風・出漁期に持ち場を離れた者は、敵がいなくても棍打ちの上耳を削ぎ、敵情下では軍法で処す。備品の欠如や不備も程度に応じ担当官まで連座で罰する。
点検の方法
- 本職(府の長官)が月十回、把総が七回、衛所が五回、それぞれ人を派遣して点検し、来ない者は捕らえて処罰する。点検役が賄賂を受けたり、実地に赴かず形だけの点検をした場合も同罪とする。
- 点検項目として、兵員数、種火の有無、火箭・銃の整備、旗の損傷、草屋の柴草の状態、水甕・米・干魚の在庫、寝所の使用状況などを列挙する。警報後三日以内に消耗品を補充させるとする。
墩軍の勤務体制
- 台風期(三〜六月)は全員が堠に常駐し、それ以外の月は二名一組で半月交代の輪番とする。
- 官の巡視には鉦と小銃のみを用い、無断で大旗や烽火を掲げて隣の堠を惑わせることを禁じ、違反は虚偽の警報として重く罰する。
守城(総論)
- 台風期の海防にあたり城の守りが手薄で、平時に無為に力を消耗し、明け方には気が緩んで失態を招く弊害を指摘し、あらかじめ配置を定めておく必要を説く。
- 守城の要は兵力を温存しつつ敵の接近を早期に察知することにあり、その責は陸路(伏路)の兵にあるとする。
- 各衛所に対し、出海の墩の人員を除いた監生・生員・致仕官・雑役・襲職予定者まで含め、四名・三名・二名を一垛(見張り区画)に割り当て、五垛ごとに垛長を置くよう命じ、割当を書冊にまとめ、号令の書を刷って各人に配布するとする。
守城の配置規則
- 舎人・中軍編成の者は策応部隊として遊撃的に配置し、垛口には割り当てない。
- 佛狼機・大銃などの神兵は城内の要衝に重点配置し、鳥銃は垛口数に応じて均等または要衝重視で配分する。
- 掌印官は中軍高所の号令を統括し、指揮・千戸のうち有能な者を険要な門・台に、各百戸は元の持ち場に配し、生員・致仕官吏も持ち場に組み込む。
- 垛口数と人員数を照らし合わせ、過不足があれば隣接する所伍の人員と融通し合い、均等な配分を徹底する。
- 五垛を一廠とし、屈強な者一名を垛長に立てる。配置後三日間の演習を行い、本職が自ら検分し、不公平な配置は掌印官を軍法に問うと定める。
守城の装備
- 垛口五個ごとに草造りの詰所(廠)を設け、旗竿・城の方角に応じた色の旗を立てる。
- 垛口ごとに武器を差す竹筒、燈籠とその付属品(縄・竿・重石・雨よけ)、垛長用の燈籠を定める。
- 垛下には投石用の石を大小取り揃えて備え、不足には食糧の罰則を科す。梆・太鼓・鉦・水甕・種火・火器なども各廠・各垛口に配備し、使用後の補充期限(敵が退けば五日以内、敵がまだいれば即時)を定める。
- 鳥銃手には火薬・弾丸・火縄をあらかじめ支給し、点検の上で城に上げるとする。
守城号令
- 中軍は城外の伏路・墩堠からの合図(昼は砲三発と大旗、夜は砲三発と提灯二つ)を見て、全員に垛口への配置を命じる。
- 敵が遠ければ佛狼機、近ければ鳥銃、さらに近ければ投石といった段階的な迎撃を行い、敵が退けば一人を残して他は休ませ、再び中軍の号令で上垛する。
- 夜間は五垛ごとに交代で更を守り、非番の者は詰所で休むが着衣のまま眠らせ、警報があれば全員直ちに垛口へ戻るとする。人員を休ませつつも精神を維持し、四更(明け方)の油断による不覚を防ぐ狙いだと説明する。
守城の軍法
- 持ち場を離れた者、備品の不備、敵接近時の遅刻などは垛長・同垛・同廠まで連座で処罰し、耳を削ぐなどの厳罰も定める。
- 敵前逃亡、勝手な行動、大声で騒ぐ、負傷して逃げ叫ぶ行為は臨陣退縮の軍法に準じて処す。
- 中軍や号令役の遅延、伏路・墩堠の失態で敵の奇襲を許した場合は、担当官・伝令役まで厳しく処罰する。
伏路(外部監視)
- 城外の要所ごとに三名を配し、二更交代で正午に交代させる警戒網を敷く。敵が近ければ人員を増員する。
- 各兵に三眼手銃・火矢・燈籠・小黄旗・雨具の携行を義務づけ、昼夜それぞれの発見時の合図方法(銃・火矢・旗、あるいは急報)を定める。
- 伏路の遅刻や装備不備、無断の持ち場離脱は軍法で厳しく処し、事を誤れば担当の陸路官も連座するとする。