- 要旨: 号令と刑賞の徹底を終えた後、教練場で坐作進退の型と陣立てを教える具体的な操練手順を定める篇。著者はこれを第八篇に置く。
開始の作法(升帳・発令)
- 中軍官が升旗・静粛の合図(炮・鼓)を順に発し、三軍が静まった後に号笛で各官・旗を集合させる。整列した官旗が跪いて発令牌を受け、「耳は金鼓のみ、目は旌旗のみに従い、将令に違えば軍法容赦なし」という誓いの文言を斉唱する。
- 命令は中軍→把総→哨官→哨長→隊長→兵という経路で、それぞれ「台上の号令を奉じ」「本総の号令を奉じ」等と前置きしながら段階的に伝達され、各段階で跪いて受ける形式を厳守する。
下営の手順
- 下営に際し、中軍が各哨から巡視役を出し、喧嘩・隊列の乱れ・違令・退却などを取り締まらせる。督戦旗牌を各総に配し、道幅に応じて広ければ二哨四隊並行、狭ければ鴛鴦陣の隊形で前進する。
五営出陣の陣立て(実戦を想定した操練の核心)
- 前営を正兵として敵の正面を、左右営がそれぞれ左右から迂回して当たり、後営は地形に応じて伏兵として配する構成を示す。伏兵は正兵の前方に出す場合と後方に潜ませる場合の使い分けを説明し、後方に置く方が確実だが功は小さいとする。
- 正兵が敵に接近すると大鴛鴦陣で一字に展開し、道が狭ければ鴛鴦陣のまま、広ければ三才陣に分けるなど地形に応じて変化させる。
- 敵が百歩に迫れば号令に合わせて鳥銃を層ごとに順次発射し、五十歩で弓・弩・火箭を放ち、その後は喊声とともに一気に突撃する。鴛鴦陣の型を崩さず、前層が戦い疲れれば太鼓の合図で後層が間を縫って前に出て交代するという波状攻撃を繰り返す。
- 敵が敗走し巣・山林に逃げ込んだ場合は四方から鴛鴦陣で包囲し、出口には重点的に兵を配して無理に攻め入らず守りを固め、出口以外の場所からは各哨が工夫して攻め入るとする。
- 勝敗が決した後の収兵は、鉦の合図で層ごとに順に後退し、最終的に中軍前の一字陣にまとまり、勝鼓とともに営に戻るという定められた手順を踏む。
- 五営に満たない場合の編成替えも定める。四営なら一営を正兵、二営を左右、残り一営の半分を伏兵・半分を老営に、三営・二営・一営とさらに減っても同様に比率を保って役割を割り振り、一人であっても同じ理屈で操習できるとする。
戦勝後の追撃と伏兵警戒
- 倭寇は各自が独立して戦い、我が背後に回り込むのを得意とし、大敗しても随所に伏兵を残す習性があると指摘する。
- 辛酉の年(1561年)に一月で十度勝ち損害がごく僅かだった戦績を例に、これは敵の拙さではなく、平時からの捜索・警戒の訓練が徹底していたためだと説く。
- 追撃の際は、林・民家・川・曲がり角など伏兵の潜みやすい場所ごとに一隊・一哨を残して見張らせ、他の兵はそのまま追撃を続け、麦畑や茂みも同様に捜索させながら進むという具体的な手順を示す。
演習場での模擬訓練
- 教練場では「麦田」「村屋」などと書いた木札を地面に配置して実戦の地形を模し、勝利後の追撃・捜索を灰で描いた曲がりくねった道を使って訓練する方法を示す。
大方営(対壘時の本営)の構築と四方警備
- 全軍が勝利し敵と対壘する際の大方営の張り方を示す。五方旗で四隅の目印を立て、鴛鴦一隊ごとの間隔を計算して陣の広さを定める。
- 各方位の旗色(紅=前方、黒=後方、藍=左、白=右)に応じてどの面が警戒に当たるかを定め、警報が出た方位の営がそれぞれ正兵・二層・両翼・伏兵の役割を担って先の五営出陣と同様の手順で応戦・追撃・収兵を行う。
- 伏兵は鴛鴦陣ではなく機動性の高い三才陣を用いるべきだと注記する。人数が多い鴛鴦陣は走り出すと乱れやすいためである。
交戦の基本作法
- 牌を持つ兵は敵を見ずひたすら前進に専念し、筅・槍が牌の両脇から突き出して守りながら戦う。牌兵が前進を怠れば隊長の責、牌兵が討たれれば伍全体が責を負う。
- 両翼の兵は大きく広がって見せかけ、敵が正面に来たところで左右から挟撃し、敵の意識を割ってから正面の兵が前進するという連携を説く。
少人数からの段階的訓練
- 一隊(十二名程度)から四隊まで、さらに一哨から四哨、一営から全営へと、同じ号令・型を規模を変えて繰り返し訓練する方法を示す。
- 陣形の基本原理を「頭・尾・両翼・中軍(心)」の四要素になぞらえ、敵に正対する部隊が頭(正兵)、後続が尾(策応兵)、左右が翼(伏兵・抄撃)となり、これは五人でも十万でも同じ原理で運用できるとする。
- 一隊・一哨単位での交戦・後退・収兵の号令の具体的な手順(旗・喇叭・太鼓・鉦・鈸の組み合わせ)を示し、四隊がそろえば一哨の訓練が完成するとする。
全方位への対応訓練
- 前後左右いずれの方向から警報が入っても即座に正兵・策応・両翼・伏兵の役割を組み替えて対応できるよう、方向ごとの割り当てパターン(前面・後面・左面・右面それぞれの場合の哨の役割分担)を網羅的に示す。
- これにより「どの哨も頭にも尾にも翼にも伏兵にもなり得る」体制を作ることが肝要であり、狭い地形で敵が近い場合に慌てて隊形を組み替えるような事態を避けるためだと説く。
- 一総の訓練が完成すれば同じ要領で全営(五総)を訓練し、方位ごとの人数配分を変えるだけで百万の大軍にも同じ原理が通用するとする。
収営の手順
- 大方営から段階的に隊列を収める手順(拒馬の撤収、鋭陣から方陣、方陣から三畳、三畳から直引、直引から二畳へと順に整理して帰営する)を定める。
結伍・立隊・結隊・結攢(基本単位の編成)
- 結伍法: 五人一組を伍とし、互いに顔・声で識別できる者同士で組ませ伍長を立てる。
- 立隊法: 五層に並び、隊長は前、伍長は中に位置して縦横の隊列(行伍)を成す。
- 結隊法: 五伍二十五人を一隊とし隊長を立て、隊長を頭、四つの伍を四肢に、その先端の兵を指先になぞらえ、身体が腕や指を動かすように連動させる。
- 結攢法: 四隊を一攢とし攢長を立て、井の字型の陣形に束伍の号令を組み合わせる。この結束は糸を撚り合わせたように容易にはほどけないものだと説く。