十国春秋卷一百十二 十國地理表下 北漢

要約

北漢の管内州県を記す。都の太原府(并州、十三県)を中心に汾・嵐・憲・忻・代・遼・沁・隆・石の諸州と岢嵐軍・寳興軍を領した。憲州はもと樓煩監牧の地で唐の李克用が表して置き、遼州はもと唐の儀州を梁が改称したもの、沁州は沁源以下三県、代州は鴈門以下五県、石州は離石以下五県を領し、寳興軍は劉繼顒を柏谷で処刑した地に銀の鉱山を開いたことに由来する。岢嵐軍・隆州は宋の太原討伐で王師がまず攻略した地であって北漢が独自に置いた軍かどうかは考証を要すること、また北漢領とされる蔚州はすでに晋が契丹へ割譲した十六州の一つであり帰属が判然としないため本表には列さないことなど、著者の考証注が随所に付される。

巻末の注群には、十國地理表下全体(南漢・楚・呉越・閩・荆南・北漢)にわたる県名の由来・改称の来歴が集成されている。南漢では、南海県が咸寧・常康の二県に分かれた経緯、韶州の曲江から始興・湞昌が分置された経緯、循州の帰善県を割いて禎州を置き循州は別立てされた経緯、常樂州が高祖乾亨元年に博電などの三県とともに新設された経緯、辨州が朱全忠により音が「汴」に近いとして一時勲州と改められた経緯、潮州程郷を割いて敬州を置き宋が廟諱を避けて呼び名を改めたこと、潘州茂名が梁の代に一時越常と改められた経緯、邕州が晋の代に廟諱を避け誠州と改められまもなく旧に復した経緯などが記される。楚では、郴州がもと郴・南亭・資興・義章など八県を領したが晋の代に敦州と改称・県を廃合し、後漢で郴州に復した後、南漢の乾和九年に将の潘崇徹が南唐兵を宜章道で破って郴州を奪った顛末、龔州が南漢に入った後に高祖の諱を避けて廃されたかとする推測、桂州の諸県が梁・後唐で改称と復旧を繰り返した経緯、道州延喜県が唐から後晋にかけ延唐・延昌・延喜と改称を重ねた経緯、邵州が晋の代に敏州と改められ後漢で邵州に復した経緯、衡州衡山県に馬氏が伝説の馬井にちなむ安仁場を置いた由来、桂陽監が唐に鋳銭のため置かれ晋の代に臨武・髙平二県を併せた経緯などが考証される。

呉越では、武肅王が唐末に杭州の夹城・羅城を築き光化二年に都督府へ昇格させて西府と称したこと、天福七年に晋の高祖の諱を避けて銭塘を銭江と改めた異説、富陽を富春と改め楊氏(呉)への怨みから「陽」の字を避けて磚石で城を築いたこと、越州を東府として大都督府に昇格させたこと、衢州江山県が唐の湏江県から改称された由来、婺州浦江がもと浦陽で武肅王が楊氏を忌んで改称したこと、台州の唐興県が天台・台興と改称を重ねた経緯、蕭山の西興鎮がもと西陵で「陵」の字を忌み興と改めたこと、剡県が「二火一刀」の不祥な字形を忌んで贍と改められたこと、温州瑞安が白烏の瑞祥にちなみ改称されたことなども記される。閩では、福州が唐の天復年間に羅城、梁の開平元年に夹城を築いて貞明六年に大都督府、龍啓元年に長樂府、天徳二年に南都となり福・泉・建・汀・漳・鏞・鐔の七州を領したこと、保大三年に南唐に奪われるも翌年呉越に帰した経緯、漳州が董思安の代に父の諱を避けて南州と改められた経緯、劍州が閩の延平鎮から南唐の代に州へ昇格した経緯、建寧・松溪・崇安・上杭など建・汀二州周辺の県が唐末の鎮から順次県へ昇格した経緯、順昌が永昌場から南唐の代に県へ立てられた経緯が詳述される。荆南については荆門県が一時軍に昇格し當陽に治所を置いたが間もなく廃された経緯が記され、峽州がもと前蜀に属した後に荆南へ帰した経緯にも触れる。これら注群は、五代を通じた諸国境域の変転の細部を補うとともに、地名考証にあたって『歐史』職方考・『輿地廣記』・『文獻通考』など諸書の異同をたびたび指摘し、いずれが正しいか未詳として判断を保留する箇所も少なくない。

現代語訳全文

北漢

  • 太原府(并州。領県十三)
  • 太原(旧県)、青陽(旧県)、文水(旧県)、陽曲(旧県)、樂平(旧県)、清源(旧県)、太谷(旧県)、祁(旧県)、榆次(旧県)、盂(旧県)、夀陽(旧県)、廣陽(旧県)、交城(旧県)
  • 汾州(領県五)
  • 温城(旧県)、平遥(旧県)、介休(旧県)、孝義(旧県)、靈石(旧県)
  • 嵐州(領県四。北漢が勇雄鎮を置いた)
  • 宜芳(旧県)、合河(旧県)、嵐谷(旧県)、静樂(旧県)
  • 岢嵐軍
  • 憲州
  • 樓煩(旧県)、𤣥池(旧県)、天池(旧県)
  • 忻州(領県二)
  • 秀容(旧県)、定襄(旧県)
  • 代州(領県五)
  • 鴈門(旧県)、唐林(旧県)、五臺(旧県)、繁峙(旧県)、崞(旧県)
  • 寳興軍(五臺県。劉繼顒を柏谷で烹殺したところに銀冶を置いて鉱を取った。「寳」はすなわちその冶にちなみ、寳興軍を建てた)
  • 遼州(唐は儀州といい、梁が遼州と改めた。漢・北漢はこれを因襲した。領県四)
  • 遼山(旧県)、榆社(旧県)、和順(旧県)、平城(旧県)
  • 沁州(領県三)
  • 沁源(旧県)、綿上(旧県)、和川(旧県)
  • 隆州
  • 石州
  • 離石(旧県)、臨泉(旧県)、平夷(旧県)、方山(旧県)、定胡(旧県)