十国春秋卷九十九 閩十 列傳 林願女

要約

林願女は閩の人で、統軍兵馬使を務めた林願の娘である。生まれたとき地面の色が紫に変わるなど霊異があり、幼くして秘法に通じ、成長すると席(むしろ)に乗って海を渡り、雲に乗って島々を巡ることができたため、人々は「神女」あるいは「竜女」と呼んだ。

ある伝えでは、父の願が海上で舟が沈みかけたとき、機を織っていた娘が突然机にもたれて終日眠り込んだ。母がそれを問うと「父の舟が溺れそうになったので、私が父を救ったのです」と答え、帰ってきた願にその事を確かめると、果たして偽りではなかったという。

本文に付された脚注には、義存門下の高弟である師備・可休・智孚・慧稜・神晏らの系譜、雪峰山の古杉にまつわる太祖と義存の伝説、義存の遺骸の爪髪が没後百余年も伸び続け、後に兵火に遭って初めて灰にされたという話、旱魃の際に膏で指を燃やし呪文を唱えて黒雲から大雨を呼んだ霊験譚、左腕を切って与えると雷雨が大いに起こったという奇譚、僧が没後二百年を経て再来したという予言譚、骨相見の僧が主簿の早世を的中させた逸話など、閩の高僧・霊異にまつわる周辺の逸話が数多く付記されている。

現代語訳全文

海を渡る神女

  • 林願女は閩の人である。願は王氏に仕えて統軍兵馬使の官にあった。その娘が生まれた時、地面の色が紫に変わり、しばしば霊異を現した。幼くして秘法に通じ、成長すると席(むしろ)に乗って海を渡り、雲に乗って島々を巡ることができた。人々はこれを「神女」と呼び、また「竜女」とも言った。
  • 一説には、願が海に舟を浮かべた時、舟が溺れそうになった。娘はちょうど機を織っていたが、突然、机にもたれて終日眠りこけた。母がそれを問うと、「父の舟が溺れそうになったので、私が父を救ったのです」と言った。願が帰ってその事を問いただすと、果たして偽りではなかったという。