後漢演義第三十回 援軍を請い司馬が謀を献じ、巧みに誣告を仕組み女帝が毒を逞しくする (請濟師司馬獻謀 巧架誣牝雞逞毒)

章帝の生母への厚遇と白虎観会議

  • 章帝の生母賈貴人は馬太后に養育された縁で外戚扱いされてこなかったが、馬太后の崩御後、赤綬・車馬・宮人・財物を賜り終身安楽に過ごせるよう取り計らわれた。
  • 校書郎楊終の建議により、宣帝の石渠閣故事にならい白虎観に諸儒を集めて五経の異同を論じさせ、章帝自ら裁決する会議が開かれた(後の『白虎通』の元となる)。侍中丁鴻は父の爵位を弟に譲ろうとして一度は出奔したが、友人鮑駿の説得で翻意し、後に会議で論難に優れ「殿中無雙丁孝公」と称された。少府成封、校尉桓鬱、班固、樓望、賈逵、廣平王羨らも講席に列した。

天変地異と求言の詔

  • 建初五年の日食を機に、章帝は直言極諫を求める詔を出し、続けて冤獄の見直しと山川への祈雨を命じる詔、さらに賢士登用を促す詔を相次いで下した。しかし著者は、これらの詔が実際には登用ではなく外官への配置転換にとどまり、誠意に欠ける形式的なものだったと批判する。
  • その後、瑞祥として芝草献上や黄龍出現の報告が相次いだが、太傅趙熹、次いで司徒から昇進した太尉鮑昱が相次いで病没するなど、実際には人材の喪失が続いた。

班超の上奏と西域再征

  • 西域駐留中の班超は、鄯善・于置に続き拘彌・莎車・疏勒・月氏・烏孫・康居が帰順を望んでいることを述べ、なお服さない龜茲・焉耆を討つべく増援を求める上奏を行った。夷を以て夷を攻める策を説き、疏勒での五年の経験から西域平定の勝算を訴えた。
  • 章帝はこれに応じ、徐乾を仮司馬として千人の兵を西へ送った。班超は徐乾の軍と合流して番辰を撃破し、さらに烏孫との連携を図るべく使者を派遣した。

東平王蒼の厚遇と死

  • 建初七年、沛王輔・濟南王康・東平王蒼・中山王焉が相次いで入朝し、章帝は破格の礼遇で迎えた。東平王蒼は特に重んじられ長く留められたが、大鴻臚竇固の奏請で帰国を許され、章帝は手ずから別れを惜しむ詔を与えた。蒼は帰国後まもなく病没し、章帝は手厚く弔い諸侯に会葬させた。
  • 光武帝の十一子のうち、蒼の死後に残ったのは沛王輔・濟南王康・中山王焉のみで、阜陵王延はかつて削封された上、建初中に再び謀反を疑われ侯に貶められたが、後に王爵を回復した。

竇皇后の讒言と太子廃立

  • 太子慶の生母宋大貴人は馬太后の縁者で、馬太后の後押しにより慶が太子となっていた。竇皇后は子がなく、宋貴人母子を疎ましく思い、宋貴人が薬用に菟絲子を求めた手紙を横取りして「厭勝の呪詛」と偽り、章帝に讒言した。
  • 竇皇后はさらに小梁貴人の産んだ皇子肇を自分の子として養育し、掖庭令に宋貴人の書簡事件を再調査させて太子慶を「母の凶悪な気風を受け継いだ」として清河王に廃し、肇を皇太子に立てさせた。
  • 宋貴人姉妹は幽閉のうえ、小黄門蔡倫による取り調べで「呪詛は事実」とされ、暴室に移されて絶望のうちに二人とも毒を仰いで自ら命を絶った。父宋揚も官職を追われ獄に囚われた末、病死した。清河王慶は身を慎み、太子肇の取り成しもあって命は保たれた。

梁氏一族の悲劇と馬氏の失権

  • 梁松の連座で徙されていた梁氏の大小貴人は掖庭に没していたが、小梁貴人の子が皇太子となったことで家族が赦されて喜んだ。しかし竇皇后はこれを警戒し、貴人の父梁竦が謀反を企てていると讒言。梁竦は投獄され獄死し、家族は再び徙された。二人の梁貴人も父の死と家門の没落を悲しみ、相次いで世を去った。
  • 竇皇后は馬太后の縁者である馬氏一族も排除しようと図り、馬廖・馬防・馬光の奢侈を告発させた。章帝は当初戒めるにとどめたが、馬廖の子豫の書簡が問題視されると、馬防兄弟は免官となり封邑へ退けられた。馬光のみ喪に服した経緯から京師にとどまることを許されたが、馬氏の権勢は大きく衰えた。

竇憲の専横と第五倫の諫言

  • 竇皇后の兄竇憲は虎賁中郎将となり権勢を振るい、明帝の娘沁水公主の田園を強引に買い上げるなど横暴を極めた。司空第五倫は竇憲に対し、貴戚が士大夫と結託する危険を説き、章帝に自重を促す上奏を行った。
  • 章帝は巡幸の際に沁水公主の園田の一件を確かめて竇憲を厳しく叱責し、趙高の故事を引いて驕慢を戒めたが、その最中に屏風の陰から一人の美しい女性が現れ、竇憲を庇おうとする場面で本回は終わる。

評語

著者は、夷を以て夷を攻める策は班超のような人材があってこそ成功するものだと評した上で、章帝が将を用いる眼力や親族への恩情は評価できるとしつつも、竇皇后の本性を見抜けず度重なる欺瞞に気づかなかった点を厳しく批判する。宋貴人母子の非業の死、梁貴人姉妹の連座死、さらに馬氏の失権までも同じ讒言の構図から生じたことを指摘し、章帝が色香に溺れたことが後々まで禍根を残したと結ぶ。