元史卷一百三 志第五十一 刑法二

職制下――軍官・倉庫官吏に関する規定

  • 職官戸で軍籍に入った者の身柄を軍官が勝手に追捕することを禁じ、法によらず軍人を撫恤しない大小の軍官は監察御史・㢘訪司が糾察する。行省官・宣慰司元帥府官が無故に軍官を私的護衛にすることも禁じる。
  • 軍官が佩用する金銀符を質入れすれば笞五十七・降格、受質者はそれより二等減じて処罰する。贓罪で罷職・殿降となった軍官は、旧符を返上のうえ再叙の日に改めて支給する。
  • 軍官が軍人を使役できる人数(万戸八名・千戸はその半分・弾圧はさらにその半分)を定め、超過は坐罪とする。軍人を酷使して死に至らしめた軍官は事情に応じ断罪・罷職のうえ焼埋銀を苦主に給する。
  • 軍官が正軍を放免して雇役銭を得た場合、軍人の衣糧・塩菜銭を横領した場合、出征軍人の家族を使役し高利で貸し付けた場合、軍人を使って民を誣告し財物をだまし取った場合など、いずれも枉法・計贓として除名・不叙を含む厳罰を定める。
  • 民間の失火を放置し、あるいは軍を放って剽掠させた鎮守軍官は臺憲官が糾弾する。軍官が民訴を専断すること、私怨で上官を殺そうとすることも禁じ、罰則を定める。
  • 投下(諸王・功臣に分与された領民組織)の官吏が贓罪を犯した場合は常選官と同じ扱いとし、投下が上旨と偽って民の徭役を免れさせ民を害した場合は厳罰と財産の没収を定める。諸王傅の文書は監察御史が有司と同じく考閲し、位下の財賦・営田等の司の勘定は㢘訪司が年末に考閲する。投下の軽重の囚徒はすべて㢘訪司が審録する。

職制下――倉庫・鈔法・税務に関する規定

  • 倉庫官吏が百姓の税糧を通同して横領し、飛鈔(架空の受取証)で処理した場合は、額に応じて刺面・杖刑・除名を定める。倉官の盗糶(横流し)・攬納(不正な代納)も同様に厳罰。
  • 倉庫の銭糧を盗んだ官吏人等は、額に応じ笞五十七から徒三年・処死まで累進する量刑表を定める(一貫以下は決五十七、二十貫ごとに一等加え、三百貫で処死、至元鈔を基準に諸物は時価で換算)。
  • 倉庫の官・庫子・攢典・斗脚人らが盗み・移用を見過ごして告発しない場合は犯人と同罪、失察は四等減じる。銭糧の出納は首領官以下が互いに監査し、収支の照合が済んで初めて解由(勤務評定書)を与える。
  • 昏鈔(損傷した紙幣)の扱い、鈔庫官の私的な鈔の詐取的交換、平準行用庫が昏鈔交換で工墨銭を余計に取ることなどを禁じ、関与の度合いに応じ罰する。
  • 白紙坊(紙幣用紙製造)の典守官が桑楮皮の代金を私したこと、京倉・外倉の収糧の不正、倉官が家丁を使って盗糶させたこと、官斛を改造して民租を余計に取ったことなど、いずれも計贓・除名等で処罰する。
  • 京師の官米の日々の散糶(廉価売却)は一人一斗までとし、権豪勢要や有禄の家がこれを買うことを禁じる。官局の造作で材料を横領した典守も除名とする。
  • 運司の弁課官の不正受納、塩場官の裁判権の限定、税務官の匿税幇助、財賦総管・淘金提挙司の護持制書に関する糾劾権限、庫藏を守る軍官の夜間不在による盗難とその賠償規定などを定める。
  • 雑造局院が私的に軍器を製造することを禁じ、両浙財賦府(徽政院隷属)の会計・造作は年末に㢘訪司が稽査する。橋梁・道塗の不修理、堤防の不修による水害を有司・監臨官の責任とし、罰俸・笞刑を科す。

職制下――漕運・駅站・使者に関する規定

  • 漕運官が水陸の舟車を拘留して商旅を妨げること、水手に稲糠を官糧にすり替えさせて横領することを禁じる。海道都漕運万戸府の管轄では千戸以下は万戸が、万戸は行省が問罪し、監察御史・㢘訪司が徇情を察する。
  • 海道運糧船戸が官糧を横流しして遭風を偽ること、使臣の行李を勝手に捜検すること、驛馬を損なわせることなどを禁じ、罰則を定める。急遞鋪の実封文書の開封や、上下半月ごとの検視制度を定める。
  • 駅使が馬を損なうこと、公主の下嫁の往来に伝置を使わせないこと、使臣が城内で駅馬を私用すること、駅使が路上で馬を換えて死なせること、使臣が分例を多く取ることなどを禁じ、日ごとの駅数の上限(三駅)も定める。
  • 軍情の大事には金字円符、諸王・公主・駙馬の軍情急務には銀字円符を用いて給駅し、その他は御宝聖旨のみで足りるとし、濫給は臺憲が糾察する。高麗使臣の随従の出入り、出使官員の筵宴受領、詔書の開読の経路なども厳格に規定する。
  • 出使者が私事に関わること、有司の刑囚を勝手に審断すること、風憲官の不法を訴える手続き、出使中の受贈物、捕盗の功過相殺の規定なども細かく定める。

職制下――捕盗・獄訟に関する規定

  • 境内で盗賊を取り逃がしても他境の盗賊を捕らえれば功過相殺とし、捕盗官の任内の未解決件数に応じ笞刑を累進させる。告獲した強盗・竊盗には至元鈔での賞金を定める(強盗一名五十貫、竊盗二十五貫等)。
  • 南北兵馬司は巡警のみを職掌とし民訟を専断してはならない。捕盗官が贓を受けて盗を故意に見逃した場合は犯人と同罪とする。
  • 大宗正府が人命の重事を裁く際は必ず漢字で案牘を立て、監察御史が審覆する。有司が非法な用刑をすること、殺した者の肉を切り取ること、拷問の過酷な刑具(大披挂・王侍郎縄索等)を用いることを厳禁する。
  • 各路の推官は刑獄の鞫問・冤罪の平反を専掌し、その他の庶務には関わらない。重囚の処断は必ず臺憲の審録を経て市曹で斬る。内外の囚禁は正官・監察御史・㢘訪司が随時審録する。
  • モンゴル人(原文「正䝉古人」)の犯罪は死罪以外は拷掠を禁じ、日々の食事を給する。真姦盗の場合は束帯・佩囊を解いて収監する。
  • 誤って人を死なせた官吏の責任、老年者の罰贖の減等、二罪以上が重なった場合の量刑(重い方で論じ、罪等が同じなら通算する)などの基本原則を定める。

職制下――冤罪・獄卒に関する規定

  • 職官が私怨で拷問し人を死なせた場合、無罪の人を収監・拘留した場合、冤罪で瘐死させた場合など、程度に応じ笞・杖・除名・降格を定める。故意に人を陥れた(故入)場合と誤って陥れた(失入)場合とで量刑を区別し、失入は減三等・失出は減五等とする。
  • 監臨官が私怨で部下の職官を不当に断罪すること、審囚官がモンゴル人に刺字したこと、投下が擅断すること、闘殴殺人を上省部に諮らず勝手に裁くことなどを禁じる。
  • 械梏の不備で禁囚が脱獄した場合の押獄・獄卒・司獄・提牢官の連座、罪の大悪な者を私和させた官吏の処分、司獄が財を受けて姦囚を放免したことなども定める。

職制下――刑罰・流配の具体的規定

  • 流囚のうち強盗・竊盗の量刑段階(初犯・再犯・三犯)と発配先(肇州屯種等)を定め、逃亡して再度捕らえられた者の扱い、居役中の給假・閏月の通算、恩赦(会赦)による釈放条件などを規定する。
  • 徒罪は昼は鐐を帯びて居役し夜は囚牢に入れる。流罪は屯種地で監臨官防が管理する。女直・高麗の二族は湖広に流し、それ以外は尼魯罕(原文のまま)や海青の産地に流す。
  • 主守が囚を失した場合、長押流囚官・提牢官の連座責任の程度を定める。刑具(枷・杻・鎖・鐐・笞・杖・訊杖)の規格(長さ・太さ・重さ)を細かく規定し、應決者は小頭を用い、拷訊は臀か股で均等に受けさせる。
  • 郡県の佐貳・幕官は月に分番して三日ごとに提牢し、南北兵馬司・塩運司も同様に監収する。内郡から雲南に赴任した官の犯罪は常律により、土官の犯罪は罰するが官職は廃さない。左右両江の土官が私兵で相殺した場合は叛逆の罪に問う。

祭令

  • 郊廟の祭祀で誓戒を受けた献官・執事は散斉・致斉の期間、弔喪・問疾・作楽・刑殺文書の判署・罪人の決罰・穢悪事への関与を禁じ、祀事のみを行わせる。
  • 五嶽四瀆・名山などの国家秩祀に、諸王・公主・駙馬が勝手に人を遣わして焼香・致祭することを禁じる。民が僭礼をもって祈祷することも禁じる。
  • 郡県の宣聖廟(孔子廟)・書院に官員・使臣・軍馬が館穀すること、有司が聴訟・宴飲すること、工官が営造することを一切禁止する。毎月朔望に郡県長吏が孔子廟を拝謁し、学官の講説を聴くこと、郷村市鎮でも徳行ある師を選び農閑期に教導させることを定める。

學規

  • 蒙古・漢人の国子監学官は教養の実績(出格生員の多寡)で陞遷を判断し、博士・教授の欠員は監察御史が推挙する。不称職の学官は黜退し、元の挙げた官も連座する。
  • 国子生が師長への悖慢・礼儀失儀・怠学・無故欠席・忿戻闘争を犯した場合、正録が糾挙し初犯は戒諭、再犯・三犯は責罰を科す。厨人・僕夫・門子の供給違反も同様に処分する。
  • 国学の六館は次第に陞斉し、未熟な者の陞斉や学規違反者を軽重に応じ降格・黜退する。私試の積分制度、規矩違反の累犯罰則、漢人生員の三年不通経による退学規定なども定める。
  • 奎章閣の授経郎生員の給仮規則(朔望・上弦下弦の四日、宿衛者は三日)と、無故欠席の累犯に対する罰会食・罰拝・除名までの段階的処分を定める。
  • 各路学校の銭糧管理・提調官の督視義務、教官の在任中の侵盗・荒廃・行状不良に対する㢘訪司の糾察、贍学田土の管理不正に対する提調官の是正義務、貧寒の老儒への養贍、教官の携家入学の禁止なども定める。
  • 医学生員の坐斎肄業の義務、医人が十三科のうち一科も精通しない場合の行医禁止、太医院・郡県医学の考試不正に対する監察御史・㢘訪司の糾察を定める。

軍律

  • 軍官が離職し、屯軍が離営し、行軍が部伍を離れることをすべて罪とする。軍官が部署を離れて闕に赴き言事することを禁じ、必要な場合は実封で上奏させる。
  • 随処の軍馬の屯駐・経過には官が糧食を給し、農民を妨げ商旅を阻むことを禁じる。臨陣で先に退く者は処死。統軍が守備の期を誤って将士を殺させ、追撃しなかった場合も処死とし、会赦しても罷職不叙とする。
  • 辺陲を守る軍民官が軍紀を乱し敗軍・殺将を招いた場合、あるいは戦わず逃げ帰った場合の量刑(功があれば減罪)を定める。
  • 屯所からの逃亡は初犯杖一百七、再犯は処死。出征時の逃匿は斬に処す。軍戸の貧乏による逃亡は救恤後の再逃亡で杖八十七、隠匿者・不告発の隣人にも連座を定める。
  • 各衛の扈従漢軍の壮丁選抜・輪番供役の規則、管軍官吏が銭を受けて軍の欠員を隠す不正への処罰、軍馬の征伐で良民を掠奪・売買・殺害する行為の厳禁を定める。

户婚――戸籍・良賤に関する規定

  • 匠戸の子女に技術を習わせる義務と、諸王・投下による強制的な取り込みの禁止。僧道の還俗・兄弟の分家・奴の解放に伴う戸籍未登録者の保護規定。
  • 漏籍戸・土田を諸王・公主・駙馬に献上する行為、投下が濫りに民を収める行為を罪とする。有司が官吏の私用に民戸を使役することも禁じる。
  • 賦斂の急な取り立てで貧民が男女を売った場合は買い戻しを命じ、有司を処罰する(価は返還させない)。女児を溺死させた家は財産の半分を没収し、軍に投じた者は奴とし後に良民に戻す。
  • 流民の復業、鰥寡孤独・窮民の養済院での収養義務とその不正防止、被災流民への賦役軽減、飢饉による転徙民の扱いなどを定める。

户婚――人身売買・良賤の混同に関する規定

  • モンゴル・回回・契丹・女直・漢人の軍前俘虜は、家内に留めれば奴婢、外に居て附籍すれば良民とし、後に奴婢と偽って没収することを禁じる。叛乱鎮圧で捕らえた生口は軍民官が審閲し、賊党の妻属には公据を与える。
  • 群盗の投降にあたり掠奪した男女を官への献上として受け取ることを禁じ、民に還す。被掠婦人で郷里・親族が不明な者には有司が嫁娶の世話をする。
  • 籍没された人口の私的売買、投下官員による係官民匠戸の招占、投下所属戸の五戸絲以外の横斂を禁じる。出家(僧道)の許可条件(丁多く差役に支障なく、父母を養う兄弟がいる場合に限る)を定める。

户婚――田宅売買・婚姻に関する規定

  • 田宅の売買は有司の給据・立契を経て買主が税糧を推収する。権豪官吏が過割を怠り分派・詭名で租税を免れた場合の処罰、親隣(親族・隣人・典主)への優先購入権とその期限(批退十日・議価十五日)、業主の欺瞞に対する罰則を細かく定める。
  • 軍官・軍人・到任官・使臣が民家に居座って害をなすことを禁じ、田宅を偽って他人を誣告し財物を脅し取ることを厳禁する。婚田の訴訟は当年内に結審し、務停期間を超えても未決の案件は結審させる。
  • 女子の典雇の禁止(婚嫁の礼をもってする場合を除く)、妻妾の典雇の禁止、財を受けて妻妾・過房弟妹を売ることの禁止、乞養(養子縁組)した男女の転売の禁止などを定める。
  • 婚約の指腹・割衿による決定の禁止、婚礼の華美の禁止、聘財の過度な要求の禁止。婚約後の女の犯姦、服喪中の婚姻、悔婚などについて細かい量刑を定める。
  • 娘を嫁がせた後の再婚関係の紛糾(納婿後に婿を逐って他人を娶らせる等)、職官が娼を娶ること、重婚、先に姦通した女を妻とすることなどをすべて禁じ、離婚を命じる。

户婚――親族間の婚姻禁忌

  • 兄が弟の妻を、弟が兄の嫁(漢人・南人の場合は父没後の庶母、兄没後の嫂)を娶ることを厳しく禁じる。姑表の兄弟や嫂叔の間の婚姻も禁じ、違反は姦通として論じる。
  • 奴が主人の妻・娘を犯した場合の重罰(主女を強姦すれば処死)、良家の女が奴婢と婚姻した場合の身分変更、童養の未婚男婦を奴に配することの禁止など、身分秩序に関わる規定を列挙する。
  • 逃亡した奴婢の娘が良人の妻になっていた場合の扱い、棄妻の改嫁、賣休買休(金銭による離婚の売買)の禁止、出妻の手続きの明確化、婦人が夫を捨てて出家することの禁止などを定める。
  • 良人を娼として売買することの禁止と処罰、娼女の妊娠時の堕胎強制の禁止、妻妾・乞養の女・奴婢を娼にすることの禁止、妻妾を娼として放置し財を受けた夫の処罰などを定める。